「研究課題名」開発と環境のジオインフォマティクス

 

インドにおけるスマートシティの取組調査報告書

 

「氏名」  厳 網林

「所属」環境情報学部

 

1.       概要

現在、新興国の急速な経済発展に伴い、気候変動や地球温暖化問題が深刻化している。この課題解決の一つの方法として、経済発展と環境負荷の軽減を両立化させるスマートシティの考えが注目されている。

スマートシティ計画がなされている新興国のインドでは、現在、水、エネルギー、道路などのインフラ不足が深刻な問題となっており、3億人が電力供給における何らかの障害がある生活をしている。また、都市部のデリーへの人口の流入が増加しており、急速な人口流入により、都市部の環境問題やエネルギー問題が深刻化している。この先10年間で約1億人が学校教育や医療施設、仕事を求めて、農村部から都市部へと移住すると予想されている。インドには64万の農村があり、そこに約8億人が暮らしている。今後、都市部への人口流入はさらに加速するであろう。

そのため、インドでは今後の都市計画にスマートシティ化を盛り込み、郊外都市を発展させ都市機能を分散化させる事を計画している。こうした郊外都市の持続可能な発展のためには、地域資源として豊富な自然エネルギーを活用し、分散型エネルギー社会の構築が求められている。

 そこで本研究では、WWF-IndiaTERIThe Energy and Resources Institute)が発行している「The Energy Report – India ~100% Renewable Energy by 2050~」の文献調査と、2014268日にニューデリーのタジパレス(Taj Palace)で開催されたDSDS 201414th DELHI SUSTANABLE DEVELOPMENT SUMMIT)に参加し、インドにおけるスマートシティの取組事例の調査を行った。

 

https://fbcdn-sphotos-f-a.akamaihd.net/hphotos-ak-frc1/t1/1911711_593707524039973_1008817934_n.jpg https://fbcdn-sphotos-e-a.akamaihd.net/hphotos-ak-prn2/t1/1796625_593708334039892_292244250_n.jpg

図1 DSDS2014の会場の様子

 

2.       インドにおける再生可能エネルギーの取り組み

インドには豊富な太陽光エネルギー資源があり、分散型エネルギーとして高く注目されている。火力発電に比べてコストが2倍程度かかっていた太陽光発電の価格は、現在下がってきており、導入可能な価格水準になりつつある。しかし、太陽光発電の普及の高まりは、地方都市まで浸透していない。その問題は、太陽光発電で発電した電気を貯める蓄電池が市場価格にまで達していないなどのインフラの問題だけでなく、ローカルファイナンスの課題と、国民の情報不足による意識の問題もあるとされている。

地方銀行では、太陽光発電事業に対する事業リスクを正しく評価する事が出来ないため、太陽光発電事業を行おうとしても、資金調達が困難である事が挙げられる。TERI大学では、このような研究が取り組まれていた。(図2)

 

https://fbcdn-sphotos-f-a.akamaihd.net/hphotos-ak-ash3/t1/1623476_593708270706565_210409362_n.jpghttps://fbcdn-sphotos-d-a.akamaihd.net/hphotos-ak-frc3/t1/1660838_593708290706563_1431734978_n.jpg

図2 再生可能エネルギー投資の障害 - リスク認知のアプローチ -

 

 また、太陽光発電に関する国民への理解を示す事が必要であり、図3の研究では見える化によるインセンティブの設計、手続きの簡略化などが取り組まれていた。この研究では、地理情報システム(GIS)を用いて、各住宅屋根のポテンシャルを可視化し、太陽光発電設備の各種申請までを一括管理するトータルサービスを提供している。

 この太陽光発電ポテンシャル分析は、ステレオベアの衛星画像から3次元の都市モデルを作成し詳細な日射量解析が行われている。日射量解析における重要な問題は、日射量に関する多くの時空間的な変数が複雑に関わっている事である。例えば、天文学的な要素である季節の変化や一日の変化、気象学的な要素である雲やエアロゾルによる変化、ローカルスケールでは、地形の起伏による日陰や気温といった要素が影響を与えている。特に、都市部では周りの建物による影が日射量に大きく影響するため、このような取組が行われている。

この日射量解析結果をWEB-GIS上に公開する事で、誰でも自宅屋根の事業性を簡単に評価する事が出来る仕組みを構築している。さらには、太陽光発電設備の各種申請や、施工会社などへ直接問い合わせが出来るツールとなっている。

図3 RE-GIS India (http://www.regisindia.com/)

 

3.       インドにおけるスマートシティの取り組み

DMRCのプロジェクト

交通インフラが整っていないインド市街地において、都市部へ人口流入による結果として、ピーク時の交通渋滞など様々な弊害をもたらしている。そのためインド政府では、地下鉄運営の先例となるDelhi Metroを運営しているDelhi Metro Rail CorportationDMRC)と、PPPPublic-Private Partnerships)のスキームを用いて、民間と共同して交通インフラ整備事業を行っている。(図4)

http://im.rediff.com/money/2013/oct/15cities9.jpg

図4 バンガロール・メトロ(出所:http://www.rediff.com/business/slide-show/slide-show-1-column-how-smart-cities-can-transform-indias-future/20131113.htm

 

・デリームンバイ間産業大動脈構想(DMIC)

日印共同の地域開発構想として、デリーとムンバイ間の貨物専用鉄道を敷設し、産業の大動脈とする計画がある。JBICは7500万ドルの融資を契約し、プロジェクト開発ファンドを設立する。また、スマート・コミュニティの推進に関するJETROとデリームンバイ開発会社によるMOUを締結した。このプロジェクトは、地域経済の活性化、投資促進、持続的成長の達成に向け、国際競争力のある投資環境と最新のインフラを有する強固な経済基盤の構築を目指す事をビジョンとし、地方都市の工業化に伴う雇用の創出と同時に、開発都市のスマートシティ化を図っている。

 

http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2007/2007honbun/image/i1444000.png

図5 デリームンバイ間産業大動脈構想(出所:経済産業省www.meti.go.jp

 

・コチ市のスマートシティプロジェクト

コチ市におけるスマートシティプロジェクトで開発を担当するドバイ・ホールディングは、同地に国内二番目に大きい規模のハイテクビジネスパークの誘致にも取り組んでいる。この開発は、投資額が400億ルピー(655億円)にのぼる。

 

http://img801.imageshack.us/img801/5782/10011674608024440045997.jpg

図6 コチ市のスマートシティ(出所:www.skyscrapercity.com

 

4.       総括

スマートシティとは、一般的にICTを活用した分散型エネルギーシステムのスマートグリッドといったハードな側面と、社会システムよりの暮らし・サービスの側面併せ持った定義をされている。つまりは、トップダウン型で一つのアプローチを行うものではなく、各国・各地域の社会的背景や資源の地域性を踏まえ、ボトムアップ(分散)型で生活の質(QOL)を高める事と捉える事が出来る。

特に新興国では、生活の質を求めて都市部への人口流入が激化し環境問題やエネルギー問題の深刻化を招いている。これを緩和させるためにも、スマートシティプロジェクトとしての地方都市での分散型エネルギーシステムの構築や、交通インフラの整備による経済成長を図る事が欠かせない。そのために、民間企業と連携や、住民参加のインセンティブ設計、同時にLEEDLeadership in Energy and Environmental Design)などの国際的な環境性能の基準を導入し、エネルギーのコスト、二酸化炭素の排出量と水の節約を推進していく事が必要であると言える。

 

5.       謝辞

 本研究は、2013年度学術交流支援資金から支援を受け行われたものである。この場を借りて感謝の意を示したい。