<!--[if It IE 7]>< !--[if It IE 7]> < !--[if It IE 8]>< !--[if It IE 9]> 2013 学術交流資金成果報告|開発ネットワーク(JANP1)

2013年度学術交流支援資金
研究成果報告書

国内外でのインターンシップ、フィールドワーク科目支援
研究課題名:開発ネットワーク(JANP1)
代表者:梅垣 理郎(総合政策学部教授)

1. 研究の目的

本研究は、ベトナム戦争時に散布された枯葉剤(エージェントオレンジ)の被曝2世・3世の身障児の社会復帰とそのための環境整備の現状を調査する。昨年度以前の調査をふまえ、今年度から、ベトナム・ビンディン省フーキャットにおいて、地元小学校の一室を週末に限って公開してもらい、被曝身障児の実験的な通学を試み、身障児の社会性習得を進めた。特に重要となるのは、この実験的な試みを持続させるための条件(人的他のコスト)ならびに、長期的には地域に根差すものとして定着させるための条件の特定である。このために、官庁関係者や医療研究者、学校関係者、地域住民などとともにワークショップを行い、地域住民他の理解を深める。週末の遊休設備(小学校)を活用したこの試みはいずれはフーキャットを越えてベトナム各地に広げ、さらにはラオスでも開始する予定である。

2. 背景

枯葉剤の影響で多数の被爆2世・3世代が心身障害者として誕生した。その数は、ベトナム70〜80万、ラオス10〜15万による。しかし、この問題の認知度と対策は、枯葉剤の主たる散布地域であったホーチミントレイルを境に大きく異なる。ベトナム(東)では早くから対策に対応する国家委員会を組織してきたが、ラオス(西)はその端緒についたばかりである。しかしながら、通常進められる身障児の社会復帰は膨大なコストを伴うため、「隔離」を前提とした極めて限定された職業訓練が中心であり、それによって収容される身障児の数も非常に限定される。ここから、地域社会での、地域住民の参加を前提とした被曝身障児対応が特に重要と考えられ、問題の認知レベルが高いベトナムとラオスの村落において、地域社会がどこまで被曝身障児の社会復帰に参与できるのかを評価する必要があると考える。

従来、隔離する代わりに居住する地域社会の中でHIV感染者の保護を進める事例、あるいは、各種殺虫剤などの使用を地域社会ぐるみで監視ないしは抑制する事例などはいくつか見られた。ただ、こうした地域社会の役割に注目するソーシャル・エピデミオロジー的な研究は、当事者よりも、周辺の人間の福祉の向上を目指すものなど、当事者の存在がもたらす「コスト」とその低減の条件を検討するものが多い。このプロジェクトでは地域住民が、プロジェクトの参加を通して変容してゆくこと自体が観察の一つの重要な目的となっている。さらに、そうした参加を通して、このような試みは地域資源(人的、組織的、経済的)の効率的な動員を通して可能であることを明らかにすることも目的の一つである。換言すれば、地域住民と当事者(被曝身障児ならびにその家族など)との活発かつ持続的な交流・共存条件の検討である。

3. 2013年度の活動

具体的な研究内容は、次の通りである。(検証現場:ベトナム中部ビンディン省フーキャット)

  1. 被曝身障児の社会性習得。これは2004年以降接触のあった被曝家族の中から10世帯を選び、身障児10~4名を対象として、毎週土曜日午前中、地元小学校の教室を使用して開始した。
  2. 地域社会の住民の直接参加。参加小学校の教師8名と地元コミューンのクリニックから1名が常時参加。身障児であるため、少なくとも身障児2:教師1前後の比率を必要とすると考えられたが、身障児の学習が進むにつれ、身障児3:教師1の比率でも運用が可能であることが判明。
  3. 地域社会が有する有形・無形の資産の評価。小学校の校長をはじめ、遊休設備としての週末の小学校を活用するという発想はなかったようで、ボランティアとして参加する教師をはじめ、身近なところに存在する資源への覚醒というのは徐々に拡大しつつある。その顕著なエビデンスは、子弟の週末小学校への通学を希望する被曝家族がプロジェクト開始の後数ケ月を経て増加し始めていることだろう。
  4. 身障児が復帰するための実践的な行為に移行する段階における、方法・資源・資産などめぐる利害関係を異にする集団間での合意形成。被曝身障児を週末学校に通学させたいという家族の増加は、ボランティア教師、コミューン・クリニックワーカー、地元人民委員会などステークホルダーの増加につながっており、運用方法・運用コストの負担など合意を必要とするイシューの複雑化につながっている。今後、他地域へ類似プロジェクトを拡大してゆくためには合意形成過程の一層の理解が必要となろう。

以上を前提に、2014年3月9日に、ベトナムにてワークショプ(The Third Mekong Workshop on Health and Wealth: Agent Orange Research and Local Initiatives)を組んでいる。参加者は、慶應義塾大学(教員1名、学生6名)、ビンディン省赤十字協会、Dr. Truong Quang Dat (ビンディン医科大学)、Dr. Tran Duc Phan (ハノイ医科大学准教授)、Cat Trinh 2nd Primary School 校長他、ボランティア教師5名である。

4.今後の予定

次年度も、今年度の実践的調査の継続、フーキャット地区外への類似プロジェクトの拡大、ラオス(サバナケット地域)での類似プロジェクト開始のための予備調査が中心となる。その成果の公開と波及を目指すワークショップ等の開催を行いたい