<!--[if It IE 7]>< !--[if It IE 7]> < !--[if It IE 8]>< !--[if It IE 9]> 2013 学術交流資金成果報告|国際関係論

2013年度学術交流支援資金
研究成果報告書

外国語電子教材作成支援
研究課題名:国際関係論
代表者:梅垣 理郎(総合政策学部教授)

作成物

Field Explorer ver.2.3.0 英語版 (DOWNLOAD SITE

背景

政策研究において、政策を取り巻く個別的文脈の詳細な把握と、課題の当事者との恊働(コラボレーション)の中から、「解決すべき課題」の特定と解決策を模索するスタイル高まっている。昨今、政策の研究者のみならず実際の政策に携わる実務家も、前述の諸点を達成する意味で、政策の現場への参加を志向する傾向にあるのは、その証左といえよう。

申請者が担当する講義の履修者の多くは、アジア諸地域の開発政策等に多大な関心を寄せる学生である。IADPプログラム(現IADC)の開始以降は、学部生・院生に加えて、東アジア(中国、韓国、タイ、ベトナム、フィリピン、ラオスなど)からの留学生が多数を占める。学部生・院生の中には、本キャンパスを卒業/修了後にJICAの国際ボランティアなどを通じてアジア諸地域の政策の現場へ参加する者も多い。また、留学生のほとんどは各々の母国の官公庁等での勤務経験を有し、本研究科を卒業後も地元の行政職等の役職に就き、ODAなどの開発プロジェクトに携わるケースも多い。したがって、申請者の講義を履修する学生・院生・留学生等に対しては、特に政策の現場への参加を巡る動作について、適切なトレーニングの機会を提供し、その促進を図ることは必須の課題といえる。

この動作において、デジタル技術の積極的な活用は中心的な位置を占める。政策の現場への参加する際には、研究者や実務家は、政策の現場との間の時間的・物理的・言語的な距離の克服という、本質的な課題に直面するからである。このとき、政策の現場との間の距離を克服するためには、たとえば現場に長期滞在(2〜3年)し、現場で言葉を学びながら、現地の人々の生活へ参加する努力が図られる。だが、これだと政策の現場に参加できるのは、その努力に時間と金銭と労力を割くことができる人々の専売特許という形になってしまい、あまり現実的ではない。逆に、時間的・物理的・言語的な距離があらかじめ克服できる(とみなされる)現場を選ぶこともあるが、これだと「政策の現場への参加する」ということは、参加ができる場所に限定したやり方ということになってしまう。大事なのは、ありとあらゆる手段を使って、政策の現場への長期滞在を前提とせず、あるいは政策の現場との距離がほとんど無い(とみなされる)場所に限定せずとも、政策の現場との距離を克服しようとする努力を継続してゆくことである。情報コミュニケーション技術の積極的な活用は、政策の研究者や実務家が、前述の意味において政策の現場との間の距離の克服し、政策の現場へ参加するうえで、中心的な動作の1つとなり、それを実現するための適切な道具(教材)が求められる。

申請者を中心としたグループでは、上述の問題意識に立ち、過去数年間にわたり、政策の現場との距離の克服を意図した、英語ベースの電子教材の作成に取り組んでいる。具体的には、ノートPC上での利用を想定したソフトウェア(Field Explorer)を開発し、効果の検証等を行っている。2011年までにノートPC版のField Explorerをリリースし、主に地域開発、国際協力、異文化理解等の分野に関心を寄せ、NGOなどのボランティア活動等を通じて活発に現場へ足を運ぶ学生たちを対象として効果の検証を行なって来た。その結果、1)政策の現場における政策研究者自身の時間的・空間的な動線の把握;2)テクスト型回答以外による政策現場の人々の自己表現の把握;3)二次的資料・文献の即時的な参照、以上の諸点の促進が確認された。2012年度からは、主にインターネットを介したデータ共有機能の強化(クラウド化)と、スマートフォンを介した現場でのデータ収集へ対応する作業(モバイル化)を開始し、これまでに、既存のField Explorerのデータ共有機能を強化したバージョンのリリースを完了している。

今年度の活動内容

今年度は、引き続き前年度から進めているクラウド版の機能改善とモニタリング調査を進めた。まず、前年度リリースしたField Explorer ver.2.2.7 から Dropboxを通じたデータ共有の機能を強化した。特に、共有相手が採取した記録(写真、映像など)をファイルデータとしてのみ共有するのではなく、GPSログや日付・時間などのデータに紐づけた形で共有することで、その記録をいつ・どこで、どういった状況にて採取されたのかといった点についても把握することできるように、データ共有のインターフェイスの改善を図った。

そして、機能改善を図ったField Explorerをヴァージョン 2.3.0としてリリースし、 モニタリング調査を展開している。モニタリング調査は、本講義(国際関係論)を履修する院生・学部生、ならびに京都大学との遠隔講義であるアジアワークショップの履修者を対象として、実際に本ソフトウェアを利用したフィールドワークを実施させ、その際の記録の収集状況、成果報告におけるパフォーマンス、フィールドに対する学生自身の意識変化などへのインタビュー調査などを通じて、関連するデータの収集を進めている。また、同様のモニタリング調査を本キャンパスの学生のみならず、広くアジア諸地域の政策課題あるいはアジア諸地域でのフィールドワーク等に関心を寄せる学生、院生、実務家、デザイナーへと対象を拡大するための調整等の作業も行っている。

さらに、モバイル版の機能設計を行い、現在開発を進めている。モバイル版では、スマートフォンの特性を活かし、様々な形でフィールドデータを採取し、随時クラウドストレージ(Dropbox)にアップロードし上述のクラウド版から参照できる機能とインターフェイスの実装を進めている。

昨年度リリースしたv.2.2.7のDropboxでのファイル共有画面

今年度リリースしたv.2.3.0のDropboxでのファイル共有画面



また、Field Explorerの開発と運用を主に担当している槌屋洋亮(慶應SFC研究所上席所員(訪問))が、以下の国際会議等における発表を行い、Field Explorerのコンセプトの紹介や、デモンストレーションなどを行った。

  • Yosuke Tsuchiya, 2013, “Demonstration: Tools for Supporting Local Activities in the field”, at Second Mekong Workshop on Health and Wealth:Agent Orange Research and Local Initiatives, March 4 2013, Vientiane, Lao PDR.(発表言語:英語)
  • Yosuke Tsuchiya, 2013, “Field Explorer: A Digital Tool for Capturing and Sharing ‘Life as Lived’”, at the 3rd Annual Conference of Japan Association for Human Security Studies, September 22 2013, Keio University Shonan-Fujisawa Campus, Kanagawa, Japan. (発表言語:英語)
  • Yosuke Tsuchiya, 2013, “A Simultaneous Data Access Method for In-the-Field Learning Related to Developmental Studies”, at the 2nd IASTED International Conference on Technology for Learning and Education (TEL2013), November 11-13/2013, Los Angels, USA (発表言語:英語、査読あり)

4.今後の予定

次年度も、クラウド版Field Explorerのモニタリング調査と機能改善、ならびにモバイル版の開発を進めてゆく。また、Field Explorer を利用しての共有データの蓄積を積極的に進め、蓄積したフィールドデータを本講義(国際関係論)やアジアワークショップでの課題教材として利活用するためのデータバンクとして体系化することを検討している。