2014年度学術交流支援資金研究報告(国際交流)

 

【課題名】スポーツサイエンスとコグニティブエルゴノミクス

【申請者】 政策・メディア研究科准教授 仰木裕嗣

【研究助成金額】900千円

 

【研究テーマ】

ワイヤレスセンサを使った運動計測・解析手法に関する日豪共同研究VIII

 

【研究概要】

人間が運動時にセンサを持ち歩くようになると,その運動を計測する需要が高まると考えられることから,センサネットワークはより高速サンプリングの時代を迎えると考えられる.申請者の仰木は,加速度センサや角速度センサなどの慣性センサを用いた運動解析方法の開発を行ってきたが,これまでの一連の研究で利用してきた慣性センサデバイスは,全てデータロガー式(メモリ記録式で,事後データを取り出す)であったことから,我々のデータ取得はリアルタイム性に乏しかった. これに対してオーストラリア・グリフィス大学工学部のQueensland Sports Technology ClusterQSTC)では,Bluetoothや他の無線を運動計測に活用する研究が進められており,同研究所の研究代表者でもあるDr. Daniel James氏は歩行やスポーツ運動の解析において無線活用の提案を早くから行ってきた.

 2006年度の学術交流支援資金によってグリフィス大学との交流事業は双方の大学院生・研究者間の交流として結実し、2007年度はお互いの大学間でもちあう技術をさらに融合し、国際会議において慣性センサを用いたヒトの運動計測についてのワークショップを開催し、世界各国から参加した学会参加者に対して慣性センサの使用法、時系列データの分析法などを教えた。2008年度,および2009年度は、無線計測をヒトの運動計測に活用するため、さらに研究を推進するべく本研究助成に応募した。2008年度は、我々研究グループの活動が評価され、豪日交流基金(Australia Japan Foundation)によって研究交流事業に対する助成をうけることができたため、学術交流支援資金ならびに豪日交流基金の両方の支援をうけて研究交流を推進した。2009年度に引き続き,小型軽量、省電力と進化するマイクロプロセッサをスポーツに活用するために、技術交流を計画した.またグリフィス大学から派生し,オーストラリアにおいて,サンシャインコースト大学,サザンクロス大学といった他の大学研究者との交流が行われるようになり,テーマも取り組み方法も幅広い新たなメンバーが参画してきた.2010年度には,iPhoneをプラットフォームにしてスポーツ計測アプリケーションを開発する,グリフィス大学講師Dr. Roland氏による講演会をSFCで開催した.2011年度には、国内およびオーストラリアにおいて、研究成果発表および研究ミーティングを行い、グリフィス大学が特に集中して研究を進めている水泳研究において様々な討論を行った。また学振特別研究員として当研究室に所属する研究員がサンシャインコースト大学に1年間(20116月から20125月)にわたって滞在し、当研究室で進めている水中歩数計/エネルギ消費量計の発展的研究実験に従事した。2012年度には,グリフィス大学工学部博士課程学生である,Mr. Mitch Maccathey君を招聘し,彼の課題であるMatlabと無線計測センサとの連携プログラム等についての情報交換を行った.また,同君は来日中に,仰木研究室で進める日本中央競馬会との共同研究である競走馬の運動解析実験に携わり研究補助を果たした.

 

【研究目的】

 本研究は,スポーツ運動をはじめとする人間の運動解析において,無線計測技術の応用事例と具体的データ解析手法の提案を日豪の共同研究によって進めることを目的とする.2014年度は、慶應義塾大学,グリフィス大学,チャールズ・ダーウィン大学の研究者および学生間の交流によって無線慣性センサの応用研究を進める.

 

【研究成果】

(1)招聘外国人による研究活動(Griffith大学工学部,Dr. David Rowlands, Dr. Jason Harding 氏等の招聘)

Dr. David Rowlands氏および,Dr. Jason Hardingの両博士は,Griffith大学の教員であり,研究者である.2015115日から2015124日までの期間,彼らを招聘し,学生を含めた研究交流を行った.

Dr. David Rowlands氏の専門分野はオペレーティングシステムであるが,グリフィス大学無線工学部QSTCのメンバーの一員として,活動を行っている.

Dr. Jason Harding氏の専門分野は,現在のところスポーツビジネスであるが,スポーツテクノロジーの発達と大衆スポーツの変容について研究する若手研究者である.彼はまた博士論文において,スノーボードのハーフパイプ競技に慣性センサを導入している.特に顕著な世界的な業績は,その慣性センサのみを用いたジャッジメントシステムによる国際大会の実施経験を有することである.現在進めている,スキージャンプ研究において慣性センサの将来性について滞在中にディスカッションを行った.

 

両招聘研究者は,2015122日(木)に行った仰木研究会最終発表会において,オーストラリアにおけるスポーツ科学の実情についての講演を行った.Dr. David Rowlands氏は,「Wearable Device for the sporting application」,Dr. Jason Hardings 氏は「Impact of the Sports Technology for the Sports Business」なる話題でそれぞれ30分の講義にくわえて学生からの質疑応答を行った(写真).

 

 

(2)チャールズ・ダーウィン大学への訪問/情報交換

研究代表者である,仰木は2014830日から201494日の日程で,チャールズ・ダーウィン大学(School of Psychological and Clinical Sciences

Faculty of Engineering, Health, Science and Environment, Charles Darwin University)を訪問し,JSPSフェローである,Dr. James LEE氏のもとで慣性センサを使ったスポーツ計測の応用について議論した.滞在中には,大学院生ならびにファカルティメンバーを対象として,慶應義塾大学で進められている慣性センサを用いた研究を紹介した.以下,写真は同大学のスポーツサイエンス実習室における設備とそこを利用して行われる応用解剖学の実習風景である.同大学学部とは,研究・教育の連携を模索する事を今後の検討課題とした.

 

(3)スキージャンプにおける運動計測

仰木研究室では,現在スポーツ飛翔体における流体力推定を大きな研究テーマとして採りあげている.飛翔体としてのスキージャンパーの動作を計測するために,Griffith大学同様に,我々も慣性センサを身体,およびスキー板に装着して試技を行わせている.この慣性センサデータから滑走中,飛翔中の身体セグメントの姿勢を復元し,これを客観的ジャッジメントの評価指標として将来的に利用したいと考えている.

二名の招聘研究者のうち,Dr. Rowlands氏は慣性センサに実装されているマイクロプロセッサーOSの専門家であり,センサ活用のアドバイスを得る事が出来た.また,慣性センサを利用する立場からDr. Hardings氏は,公式大会内でこうした慣性センサを用いるために必要とされる,大会組織委員会,国際スキー連盟,関連役員などとどのような折衝を行って,センサ計測を公式大会内で実現したのか,貴重なアドバイスを得ることが出来た.以下写真は,スキージャンプ計測実験中の様子.