2014年度学術交流支援資金
研究成果報告書

国内外でのインターンシップ、フィールドワーク科目支援
研究課題名:開発ネットワーク(JANP1)
代表者:梅垣 理郎(総合政策学部教授)

1. 研究の目的

本研究は、ベトナム戦争時に散布された枯葉剤(エージェントオレンジ)の被曝2世・3世の身障児の社会復帰とそのための環境整備の現状を調査する。昨年度以前の調査をふまえ、今年度から、ベトナム・ビンディン省フーキャットにおいて、地元小学校の一室を週末に限って公開してもらい、被曝身障児の実験的な通学を試み、身障児の社会性習得を進めた。特に重要となるのは、この実験的な試みを持続させるための条件(人的他のコスト)ならびに、長期的には地域に根差すものとして定着させるための条件の特定である。このために、官庁関係者や医療研究者、学校関係者、地域住民などとともにワークショップを行い、地域住民他の理解を深める。週末の遊休設備(小学校)を活用したこの試みはいずれはフーキャットを越えてベトナム各地に広げ、さらにはラオスでも開始する予定である。

2. 背景

枯葉剤の影響で多数の被爆2世・3世代が心身障害者として誕生した。その数は、ベトナム70〜80万、ラオス10〜15万による。しかし、この問題の認知度と対策は、枯葉剤の主たる散布地域であったホーチミントレイルを境に大きく異なる。ベトナム(東)では早くから対策に対応する国家委員会を組織してきたが、ラオス(西)はその端緒についたばかりである。しかしながら、通常進められる身障児の社会復帰は膨大なコストを伴うため、「隔離」を前提とした極めて限定された職業訓練が中心であり、それによって収容される身障児の数も非常に限定される。ここから、地域社会での、地域住民の参加を前提とした被曝身障児対応が特に重要と考えられ、問題の認知レベルが高いベトナムとラオスの村落において、地域社会がどこまで被曝身障児の社会復帰に参与できるのかを評価する必要があると考える。

従来、隔離する代わりに居住する地域社会の中でHIV感染者の保護を進める事例、あるいは、各種殺虫剤などの使用を地域社会ぐるみで監視ないしは抑制する事例などはいくつか見られた。ただ、こうした地域社会の役割に注目するソーシャル・エピデミオロジー的な研究は、当事者よりも、周辺の人間の福祉の向上を目指すものなど、当事者の存在がもたらす「コスト」とその低減の条件を検討するものが多い。このプロジェクトでは地域住民が、プロジェクトの参加を通して変容してゆくこと自体が観察の一つの重要な目的となっている。さらに、そうした参加を通して、このような試みは地域資源(人的、組織的、経済的)の効率的な動員を通して可能であることを明らかにすることも目的の一つである。換言すれば、地域住民と当事者(被曝身障児ならびにその家族など)との活発かつ持続的な交流・共存条件の検討である。

3. 2014年度の活動


具体的な研究内容は、次の通りである。(検証現場:ベトナム中部ビンディン省フーキャット)

  1. 生活観察ー週末学級参加自動15名の中から数名を選び、その家族へ集中的に聞き取り調査を行った。
  2. 身障児ケアを進める小学校のボランティア教員の変化の記録と観察を行い、主に若い未婚の教員の出産への不安などについての聞き取りデータを収集した。
  3. ラオスでの類似プロジェクト発足のための下交渉を引き続き行っている。未決の課題として、軍部(国境山岳部を管轄)、官界(保健省、農林省)、学界(大学)というカウンターパート間に協力体制を維持しにくいことがあげられる。



4.今後の予定

現地での協力体制の有無を考慮し、ラオス・ベトナム国境のセボン地区での予備調査を実施予定