2014年度学術交流支援資金
研究成果報告書

外国語電子教材作成支援
研究課題名:アジアワークショップ
代表者:梅垣 理郎(総合政策学部教授)

作成物

Field Explorer Desktop ver.3.0.0 英語版 (DOWNLOAD SITE

Field Data Collections of Asia (Download Site)

背景

近年、国際開発の分野では、解決すべき課題(たとえば貧困削減、パブリックヘルスの向上など)について、その課題を抱える当人たちの日常生活へ注目し、当人たちによる問題解決を促進する条件整備が重視されている。昨今、政策の研究者のみならず実際の政策に携わる実務家も、前述の諸点を達成する意味で、政策の現場への参加を志向する傾向にあるのは、その証左といえよう。

申請者が担当する講義の履修者の多くは、アジア諸地域の開発政策等に多大な関心を寄せる学生である。IADPプログラム(現IADC)の開始以降は、学部生・院生に加えて、東アジア(中国、韓国、タイ、ベトナム、フィリピン、ラオスなど)からの留学生が多数を占める。学部生・院生の中には、本キャンパスを卒業/修了後にJICAの国際ボランティアなどを通じてアジア諸地域の政策の現場へ参加する者も多い。また、留学生のほとんどは各々の母国の官公庁等での勤務経験を有し、本研究科を卒業後も地元の行政職等の役職に就き、ODAなどの開発プロジェクトに携わるケースも多い。したがって、申請者の講義を履修する学生・院生・留学生等に対しては、特に政策の現場への参加を巡る動作について、適切なトレーニングの機会を提供し、その促進を図ることは必須の課題といえる。

この動作において、デジタル技術の積極的な活用は中心的な位置を占める。政策の現場への参加する際には、研究者や実務家は、政策の現場との間の時間的・物理的・言語的な距離の克服という、本質的な課題に直面するからである。このとき、政策の現場との間の距離を克服するためには、たとえば現場に長期滞在(2〜3年)し、現場で言葉を学びながら、現地の人々の生活へ参加する努力が図られる。だが、これだと政策の現場に参加できるのは、その努力に時間と金銭と労力を割くことができる人々の専売特許という形になってしまい、あまり現実的ではない。逆に、時間的・物理的・言語的な距離があらかじめ克服できる(とみなされる)現場を選ぶこともあるが、これだと「政策の現場への参加する」ということは、参加ができる場所に限定したやり方ということになってしまう。大事なのは、ありとあらゆる手段を使って、政策の現場への長期滞在を前提とせず、あるいは政策の現場との距離がほとんど無い(とみなされる)場所に限定せずとも、政策の現場との距離を克服しようとする努力を継続してゆくことである。そして、その最も基本的な作業として、現場について深く知り続けることがあるのは言うまでもない。情報コミュニケーション技術の積極的な活用は、政策の研究者や実務家が、現場について深く知り続けるための、中心的な動作の1つとなり、それを実現するための適切な道具(教材)が求められる。

現場について深く知り続けるための情報コミュニケーション技術の活用法については、フィールドワークが中心的な位置を占める人類学などで多くの検討がされており、関連するところでは1)観察メモやインタビュー記録を整理するためのソフトウェアとその整理法、2)写真や映像などのビジュアルデータの活用法とそのためのアーカイブ構築、3)近年普及しているスマートフォンによるデータの収集と活用法などがある。これらの活用法は、現場参加を進めてゆく際の各々の局面へ対応する中で考案され、実践されてきた。ゆえに、個別の利用法とそれに対応するツール等を連携させることが困難であり、記録の整理と共有のための煩雑な手作業へかかる負担が大きい点が問題点として挙げられる。

申請者を中心とした研究グループは、上述の問題点を踏まえ、政策の現場について深く知るための情報コミュニケーション技術の利用について検討し、あわせて様々な教材やソフトウェアの開発を続けている。2011年度より、上述の既存の活用法の問題点を解決し、主に現場に居ながら現場についての理解を深めてゆくことを目的とした記録の整理と共有のためのソフトウェア(Field Explorer)を開発し、効果の検証等を続けている。Field Explorerは、主に政策の現場において多種多様な媒体からなる記録の整理と共有を行うことを目的に設計されており、1)時間的・位置的な関連性をもとに記録を整理し可視化する機能、および1)で整理した記録をDropboxなどのクラウド環境を介してスマートフォンなどと同期し記録への常時参照を可能とするとともに、Dropboxを介して共同作業者と記録を共有する機能を有するアプリケーションである。

今年度の活動内容

今年度は、まずこれまで開発しつづけてきたField Explorerを "Field Explorer for Desktop" としてリニュアールする作業を行った。そして、インストールパッケージとともにソースコードをMITライセンスのもとでGit Hubに公開した。 新しくリリースしたバージョンは、昨年度までのバージョンとの比較において主に以下の改良を行った。

  • 地図機能をGoogle Map から Open Street Mapへ変更
  • 収集データを時系列に配置するTimeline Visualizerを実装
  • Dropbox APIによるDropboxへの接続

昨年度リリースしたv.2.3.0の画面

今年度リリースしたv.3.0の画面





続いて、Field Explorerを基本プラットフォームとして動作するアジア諸地域の社会・文化についての理解するためのデータ集 "Field Data Collections of Asia"を立ちあげた。これらは、これからアジア諸地域において調査研究や政策実践に携わる 人々に対して、現地についての事前理解を深めるための電子教材としての意味を持つと同時に、Field Explorerの機能と使い方について 把握する際のサンプルデータとして位置づけられる。

今後の予定

今後は、先延ばしになっているスマートフォン版の開発を中心に、Field Data Collections for Asiaによるデータの蓄積ならびに提供を進めてゆく。 スマートフォン版については2013年より開発を進めているが、昨今のInternet of Things などの研究動向などを踏まえ当初の構想から大きく変更する必要があると判断し、 現在新しい構想のもとに開発を進めている。