学術交流支援資金活動報告書(海外の大学等との共同学術活動支援)

 

研究課題名:恊働学習を中心とする、新たな海外の大学との連携推進の試み

氏名:國枝孝弘

所属:総合政策学部、兼 政策・メディア研究科教授

 

 

 SFCと海外の諸大学が、教育においても、研究においても、交流を促進し、学生のモビリティを高めることを目的とした研究である。特に今回の学術交流にあたっては、フランスの大学機関で、いわゆる「エリート養成学校」であるグランドゼコールを対象とし、その中でも特にエコール・ノルマル・スュペリユール(ENS)との交流の方策を探った。ENSは、教員養成の機関であるが、フランスにおける教員は専門性が高く、研究者の側面も持っている。専門分野はSFCと重なるところも多く、学生のモビリティの実現は、お互いにとって有意義であろう。

 また具体的な交流にあたっては、外国語学習をキーワードにタンデム学習を企画した。具体的には、外国語を学ぶ学習者同士がお互いの母語と学習言語の2言語を用いて、言語交換をしながらお互いに教え合い・学び合う協働学習を行う学習活動である。ENSには、日本語セクションがあるので、SFCのフランス語学習者との恊働学習を軸として、両校との交流の活性化の方途を探った。

 またこの交流は、学習者の参加を促し、その言語修得、および言語修得によって起きうる学習者自体のアイデンティティ変容に着目することで、外国語教育研究の具体的対象にもなる。学習者同士によって構築される自律学習の場としての教室外での学習活動において、教室内で得た体系的知識を母語話者相手に実践的に用いる中で、活動参加者たちが学習言語を自分の言語として、身体化していくプロセスを丁寧に見ることによって、外国語学習の方法論としても恊働学習に注目することができる。

 さらにタンデム学習活動の推進は、留学生と国内出身の学生が相互交流する機会の増加を見据えている。タンデム学習における、お互いの言語を教え合い・学び合うという関係は、「半学半教」の精神に則るものであると考えている。

 

  これらの意図に基づいて、ENS日本語科目を担当している教員と、フランス・パリで打ち合わせを行なった。上述のようにENSにはさまざまな学問分野が存在するが、どの分野の学生でも、日本語の学習が可能となっている。また、日本語学科ではないため、時間数等に限界はあるが、熱心に勉強する学生は一定数存在することがわかった。その一方、ENSでの勉学にはかなりタイトなプログラムが組まれており、言語のアウトプットをする時間が限られている。それゆえ、遠隔型タンデム学習の実施は、学習効果から考えても意味があることがわかった。

 またSFCから見ても、フランス語学習者に対して、フランス人留学生の数が圧倒的に足りないという現実がある。生身での対面形式による実践を補足する意味でも、遠隔型の活動へと幅を広げる必要があった。

 その後ENSでの日本語授業でフランス側の参加者を募ってもらい、その結果、3名の学生が参加を表明してくれた。SFCで参加を表明していた1名の学生とマッチングを行い、現在は1組のコンビが遠隔型タンデム学習を始めている。残りのフランス側2名に関しては、SFC側の参加者が見つかり次第、マッチングを行うこととしている。今後は、そのタンデム学習を参与観察し、分析を深める予定である。

 さらに、今回のタンデム学習から得られた知見は、今後フランス語だけではなく、メディアセンターの企画・運営を提案するメディアセンターフレンズに働きかけ、多言語でのタンデム学習活動の実践を提案し、メディアセンターのマルチメディア・マルチリンガル・スペース(以下、MMLSとする)の再活性に利用する予定である。