2015年度学術交流支援資金研究報告(国際交流)

 

【課題名】スポーツサイエンスとコグニティブエルゴノミクス

【申請者】 政策・メディア研究科准教授 仰木裕嗣

【研究助成金額】900千円

 

【研究テーマ】

ワイヤレスセンサを使った運動計測・解析手法に関する日豪共同研究IX

 

【研究概要】

人間が運動時にセンサを持ち歩くようになると,その運動を計測する需要が高まると考えられることから,センサネットワークはより高速サンプリングの時代を迎えると考えられる.申請者の仰木は,加速度センサや角速度センサなどの慣性センサを用いた運動解析方法の開発を行ってきたが,これまでの一連の研究で利用してきた慣性センサデバイスは,全てデータロガー式(メモリ記録式で,事後データを取り出す)であったことから,我々のデータ取得はリアルタイム性に乏しかった. これに対してオーストラリア・グリフィス大学工学部のQueensland Sports Technology ClusterQSTC)では,Bluetoothや他の無線を運動計測に活用する研究が進められており,同研究所の研究代表者でもあるDr. Daniel James氏は歩行やスポーツ運動の解析において無線活用の提案を早くから行ってきた.

 2006年度の学術交流支援資金によってグリフィス大学との交流事業は双方の大学院生・研究者間の交流として結実し、2007年度はお互いの大学間でもちあう技術をさらに融合し、国際会議において慣性センサを用いたヒトの運動計測についてのワークショップを開催し、世界各国から参加した学会参加者に対して慣性センサの使用法、時系列データの分析法などを教えた。2008年度,および2009年度は、無線計測をヒトの運動計測に活用するため、さらに研究を推進するべく本研究助成に応募した。2008年度は、我々研究グループの活動が評価され、豪日交流基金(Australia Japan Foundation)によって研究交流事業に対する助成をうけることができたため、学術交流支援資金ならびに豪日交流基金の両方の支援をうけて研究交流を推進した。2009年度に引き続き,小型軽量、省電力と進化するマイクロプロセッサをスポーツに活用するために、技術交流を計画した.またグリフィス大学から派生し,オーストラリアにおいて,サンシャインコースト大学,サザンクロス大学といった他の大学研究者との交流が行われるようになり,テーマも取り組み方法も幅広い新たなメンバーが参画してきた.2010年度には,iPhoneをプラットフォームにしてスポーツ計測アプリケーションを開発する,グリフィス大学講師Dr. Roland氏による講演会をSFCで開催した.2011年度には、国内およびオーストラリアにおいて、研究成果発表および研究ミーティングを行い、グリフィス大学が特に集中して研究を進めている水泳研究において様々な討論を行った。また学振特別研究員として当研究室に所属する研究員がサンシャインコースト大学に1年間(20116月から20125月)にわたって滞在し、当研究室で進めている水中歩数計/エネルギ消費量計の発展的研究実験に従事した。2012年度には,グリフィス大学工学部博士課程学生である,Mr. Mitch Maccathey君を招聘し,彼の課題であるMatlabと無線計測センサとの連携プログラム等についての情報交換を行った.また,同君は来日中に,仰木研究室で進める日本中央競馬会との共同研究である競走馬の運動解析実験に携わり研究補助を果たした.

 前年度の2014年度はグリフィス大学の研究者の招聘,ならびに同研究者らを交えたフィールド計測実験を実施した.また新たに研究グループとして加わった,チャールズ・ダーウィン大学への訪問を果たし,義足・歩行研究についての今後の研究テーマについて討論した.

 

【研究目的】

 本研究は,スポーツ運動をはじめとする人間の運動解析において,無線計測技術の応用事例と具体的データ解析手法の提案を日豪の共同研究によって進めることを目的とする.2015年度は、慶應義塾大学,グリフィス大学の研究者の交流によって無線慣性センサの応用研究を進める.

 

【研究成果】

1)グリフィス大学SABEL Labsへの訪問/情報交換

研究代表者である,仰木は2015108日から20151015日の日程で,グリフィス大学SABEL LabsSports and Biomedical Engineering Labs, Griffith University, AUS)を訪問し,長年の研究パートナーである,Dr. Daniel JAMES氏(Associate Professor)のもとで慣性センサを使ったスポーツ計測の応用について議論した.

 滞在中には,大学院生ならびにファカルティメンバー約30名を対象として,慶應義塾大学で進められている慣性センサを用いた研究について紹介した.

 

1:慶應義塾大学SFCにおける慣性センサ研究についての紹介

 

2:聴衆は,グリフィス大学SABEL Labsのファカルティメンバー,大学院博士課程学生,及びクィーンズランドアカデミーオブスポーツ所属学生,30

 

 

 

3SABEL Labs見学ツアー

 

 SABEL Labsのラボ見学では大学院博士課程の学生が研究を進めている研究を紹介してもらい,各学生の使用しているセンサ装置などについての説明を受けた.

 研究パートナーである,Dr. James准教授(アンテナ工学・センサ工学),Dr. Rowlands准教授(組込みシステム・制御),Dr. David Theil教授(アンテナ工学)らとのミーティングではエレクトロニクス,マイクロプロセッサ,センサについてのお互いの研究テーマの討論がこれまでの対象で有った.慶應義塾大学SFCにおける我々の研究室では歩行解析を一つの大きなテーマとして取り組んでいるが,そこでは歩行パターンが安定しているか,縦断的に計測したデータがどの程度同じ様相を示すのか,どの程度継時変化が現れるのか,それを同定することに取り組んでいる.

 グリフィス大学においても我々の研究同様に身体に装着するセンサ及び,カメラ映像,高速度カメラ映像,モーションキャプチャなど,さらにはこれらの運動学データ,センサデータの類似度を計算し,運動の類似度を明らかにする研究に着手している.そこで喫緊の研究課題としてセンサデータの時系列データベースの構築とそのフォーマットの策定といった研究テーマを立ち上げることにした.

 これに加えて今回は,新たにDr. Espinosa講師(構造力学)が加わり,飛翔体に内蔵するセンサについてその構造力学的な解析と改良を新たなテーマにするということが決定し,今回の訪問は非常に有意義なものとなった.

 

2)グリフィス大学ゴールドコーストキャンパスへの訪問/情報交換

 2014年度に本研究費で招聘した,Dr. Jason Harding講師が在籍するゴールドコーストキャンパスを訪問した.Dr. Harding講師はスノーボードにおける慣性センサ計測を専門として,現在ではDepartment of Tourism, Leisure, Hotel and Sport Management.に所属してスポーツマーケティングにおけるウェラブルセンサの動向,ルールへの影響などについてを研究対象にしている.

 Dr. Harding氏とは,ウェアラブルセンサをスポーツにおける公式大会で使用するまでに至る戦略とその障壁について彼自身の経験をもとに解説してもらった.