2015年度学術交流支援資金
研究成果報告書

国内外でのインターンシップ、フィールドワーク科目支援
研究課題名:開発ネットワーク(JANP1)

リスク認識の「社会的構築」とリスク回避行動の形成:ベトナム中部の集落を事例として
代表者:梅垣 理郎(総合政策学部教授)

この報告は2016年2月から3月にかけての2015年度第2次調査を終える以前の活動とその成果をまとめたものである。

本研究はリスク認識とそれに伴う行動の連動関係を明らかにしようとするものである。事例として、ベトナム戦争中の枯れ葉剤に起因する心身障害児の教育にあたる2〜30代の女性ボランティア教員とその家族、友人、知人そして地域住民の意識と行動を3泊4日をかけて進めた。

この調査は研究代表者である梅垣と副代表格ともいうべきヴ・レ・タオ・チがこれまで進めてきた枯れ葉剤に起因する心身障害を抱えるベトナム戦争後第2世代の生活の実態調査を前提としている。今回は以下を特に留意しつつ調査を進めた。すなわち、1)心身障害に特に敏感に反応すると考えられる若い既婚者(障害児救済に自発的に協力を申し出てくれた教員10〜15名)の時系列的な変化の有無、2)戦時中の枯れ葉剤の存在からアグロケミカル一般が持つ健康へのリスクを想像できる農民層、3)健常児ではあるが、身障児と同じ世代の子弟を持つ世帯の意識の変化という三点である。

今回の調査で明らかになったのは以下の通りである。1)障害児救済に自発的に参加してきた教員の明らかな変化として、当初の「恐れ」に代わり、救済活動の規模拡大願望が見られるようになったこと。2)戦時中の枯れ葉剤(ダイオキシン)の中和化が進んだことも考えられるが、それ以上に地域全体でアグロケミカルの管理が整備されてきたことから、戦時中の枯れ葉剤とアグロケミカル一般とを連想させる農民が大きく減少したこと。そして3)戦時中の枯れ葉剤と切り離して身障児救済活動を評価する一般世帯の増加である。この第3点は、特に、これまでフーキャットの一地区だけで進めてきた救済活動の拡大を希望する地域の増加として現れている。2月末から3月当初にかけての第2次調査の際に、この拡大希望の実態を明らかにする予定である。

2015年度の成果には以下をあげることができる。梅垣が「人間の安全保障学会」の第5回年次大会でリスクをめぐるパネルを組み、調査への参加者のいく人かがペーパーを発表した。その内の1本は専門誌での出版を準備中である。また、リスク認識とそれに伴う行動との連動における地域社会の役割については、梅垣が類似の調査依頼をフィリピン、マニラ北部の地域から受けている。ここでのリスク要因は火山活動であるが、予備調査を行った。こうした依頼も一つの成果と考えてもいい。