2015年度学術交流支援資金外国語電子教材作成支援 報告書

 

【研究課題名】 認知科学(07)/構成的認知論(14)

【申請者】 環境情報学部教授 諏訪正樹

 

【研究背景】

間合いという現象は、誰もが日常生活で感じているにも関わらず、一体どういう現象なのかについての探究はほとんど為されていない。例えば、対戦型のスポーツ(野球、サッカー、柔道、剣道、空手、柔術など)、コミュニケーション(会話、プレゼンテーション、交渉など)、舞台演技、楽器演奏、介護・看護の場においては、各々の場に適切な間合いをつくりだすことが求められる。間合いは、時間の流れのなかで、空間的な位置関係に立脚して、絶え間なく生起するインタラクティブな現象であると考えられる。

 間合いということばは、「自分の間合いをつくりだす」というフレーズで使われることが多い。それはどういう行為であろうか? 現時点での仮説を以下に書いてみる。「自分の間合いをつくりだす」とは、リアルタイムに生起する相手の身体状態の何かに着眼し、そこから相手の意図や精神状態を読み取り、自分の身体状態や意図・精神状態をリアルタイムにつくりあげ、それを相手にどう見せるかを決めることを通じて、相手よりも自分が身体交渉的にも精神的にも優位に立つ、もしくは自分にとって心地よい関係性をつくりだすことであろう。複数人が対峙するときに、ひとりが自分の間合いをつくりだすと、他のひとは自分の間合いを形成できないのか、それとも複数人の「自分の間合い」は同時に存立できるのか? 対戦型のスポーツ、コミュニケーション、その他の問題領域ではそれが異なるのか? 興味深い様々な問いが立つ。

 

【目的】

本研究の目的は、「間合い」がどのような現象なのかについての糸口を摑むことにより、今後の間合い研究のあり方に資することである。そこで、本学術交流支援研究では、日常生活のなかでの「間合い」らしき現象を捉えて、そのときの心的状態/身体の状態を言語化したデータを集め、電子化教材としてデータ化することを試みた。

 本教材を利用する学生は、間合い現象において、自分と相手のあいだにどのような心情/感情/身体状態が生起するのかを垣間みることによって、間合いという現象自体に興味を抱き、今後の間合い研究への糸口を摑んでもらいたい。

 

【成果】

(1)間合い現象を捉える日常生活の研究対象

 間合いが生起するシーンとして、本研究では、「あっちむいてほいじゃんけん」(以後、「あっちむいてほい」と称する)をとりあげた。じゃんけんに勝った者(じゃんけん勝者)が相手の顔の前に指を置き、上下左右四方向のどれかを「ほい」のタイミングで指差す。じゃんけんに負けた者(じゃんけん敗者)はタイミングを合わせ四方向のどこかに顔を向ける。じゃんけん敗者は勝者の指の方向を避けるべく顔を別方向に向けようとし、勝者は敗者の顔がどちらに向くかを予測して指先をどこかの方向に振る。まさにこの、勝者の指先と敗者の顔の動きのあいだに「間合い」が生起すると、我々は考えたわけである。

 

(2)間合いの体感・心情を表すことばのデータ集

16名の学生が互いに対戦しあい、相手(もしくは自分)の指先と自分(もしくは相手)の顔の動きの瞬間に感じたことをことばで表現したデータを489個収集した。言語化データは

http://web.sfc.keio.ac.jp/~suwa/electronicematerial/report2015/acchimuitehoi_verbalization_data.htm

を参照いただきたい。この種の言語化データの収集はかつて類を見ないものであり、教材として貴重である。

 

(3)頻出する言葉(特に動詞に注目)

 更に、データ集のなかに登場する頻出ワードを列挙し、なかでも動詞に着目してデータ整理を試みた。

http://web.sfc.keio.ac.jp/~suwa/electronicematerial/report2015/frequent_words.htm

 を参照いただきたい。

 「あっちむいてほい」に特有の動詞「向く」「動く」「動かす」「勝つ」「負ける」「勝利する」「指差す」と、一般の言語化データに頻出しやすい「考える」「思う」「感じる」「感じがする」「気がする」を以外の動詞を赤文字にした。これらの動詞は間合い現象を語る上で重要な動詞群であると解釈できる。この種のデータも間合い現象を紐解く糸口として貴重である。

 

【本電子教材のwebアドレス】

http://web.sfc.keio.ac.jp/~suwa/electronicematerial/report2015/webplatform2015.htm