2015年度学術交流支援資金
研究成果報告書

外国語電子教材作成支援
科目名:アジア・ワークショップ、国際関係論、日本の開発政策と東アジア

代表者:梅垣 理郎(総合政策学部教授)

成果物URL : http://www.gdl.jp/eol/

本研究の根底には、統計などに現れない政策効果を把握する必要があるという理解と、統計などのデータがそれを収集する人間のバイアスの影響を受けているという理解がある。にもかかわらず、この2点がどのような意味を持つのかということは学部・大学院での授業などではほぼ取り上げられることがなかった。

本研究——データ収集の実践——では、より広く以下のような背景も考慮に入れた。すなわち、近年の政策分野において特に注目されるのはパンデミック関連を含む防疫、地震など自然災害予防・回避・対応をめぐる防災の二つである。しかしながら、開発政策とは異なり、防疫・防災は有効な政策対応を進める上では被災地域(被災が予想される地域を含む)の住民のいわば「ローカル・ノリッジ」の把握が重要な役割を占める。政策研究者のみならず政策施行の現場の実務家がかってないほど政策対象地域のミクロな動向を重視し始めているのである。しかしながら、政府機関、国際組織などによって収集される統計などのマクロなデータとは異なり、「ローカル・ノリッジ」は地域という個体の多様性を反映しており、汎用性が高い形で集積・編纂されるケースは皆無に近い。ここに多様性そのものを映し出す画像・映像などのデータの集積とその解釈のための素地(観察時点での評価)の充実化が望まれるのである

調査設計当時の段階では、データ収集の対象の一つとして近年噴火活動が活発化しているインドネシア、ジャワ東部のメラピ火山周辺の住民の動向を対象とする予定であったが、これを以下のように修正した。すなわち、1)開発(農林資源の商品化)が進む結果、森林生態の劣化が進み、ヘルス、防災上で対策が急務とされるインドネシア、カリマンタン。2)400年以上火山活動が休止していたが、1991年に噴火したマニラ北方のピナトゥボ周辺の防災。3)300年強火山活動を休止している富士の山麓(裾野市須山地区)住民の調査、そして4)3.11災害の現場である三陸周辺の生活実態がそれである。

以上と並行して、デジタル化されたデータの公開方法の工夫を進めたが、幾つかの問題への対応に苦労した。すなわち、画像・映像の場合、個人情報の守秘を確保すること。またアクセス許可の条件の精査などがそれである。まず後者についてである。本研究の場合、使用目的となるアジアワークショップ、国際関係論など本研究参加者が関わる授業を正式に履修する者にアクセスを制限することは可能である。しかし、これは前者の個人情報守秘という課題への解決にはならない。従って当面はシャドウの使用、後ろ姿の多用などでこの課題を克服するしかない。

成果物としては、このようにして集積されたデータを授業とリアルタイムの場で公開できるシステムを準備している。最終的には3月中旬の今年度最後のデータ収集を合わせて限定的な公開となる。