アーバンプランニングプロセスでの電子メディア活用
〜サイバーマスタープランニングの実験と評価〜



アーバンリモデリングデザインプロジェクトリーダー
日端康雄

1 はじめに

 現在の日本の都市空間はマクロ,ミクロレベルでの再編が必要とされており、新しい手法によるプランニングプロセスの改良が重要である。そのため,本プロジェクトではネットワーク、CAD、データベース、GIS等によるサイバースペースを活用することで、プランニングプロセスにおける各領域(プランメーキング,参加,合意形成,モニタリング)とデザインの段階で新しい手法の開発を試みる。これらの研究は、アジアメガシティの都市景観の比較、サイバーマスタープランニングの実験と評価、景観シュミレーション、サイバーアーバンデザインの4つの分野で試みる。

2 研究の背景と目的

 日本の現代都市は様々な面で行き詰まっている。こうした都市の再生を図るには,縦割り,官僚主義,狭い専門主義といった言葉に代表される制度の硬直化の打開に関わって行かざるを得ない。これらの問題をプランニングプロセスの観点から見ると、参加のあり方,合意形勢,デザインプロセスについて,ネットワーク環境を前提とした取り組みが必要となってくる。本研究ではこれらの課題を、アーバンプランニングにおけるサイバースペースの活用に関する技術開発の側面から研究を行う。
 具体的には、都市のプランニングプロセスにおけるサイバースペース、つまり、GIS、データベース、バーチャルデザイン等を活用することにより、プランニングプロセスにおける各領域のプランメーキング、参加、合意形成、モニタリングやアーバンデザインにおいて、新しい手法の開発を試みる。
 本報告では、アーバンプランニングにおけるサイバースペースの活用に関する技術開発の側面からの研究として、サイバーマスタープランニングの実験と評価に関する取り組みについての報告を行う。
 マスタープラン策定過程におけるインターネットの活用可能性を探るため、平成6から8年度にかけて神奈川県大和市では、本プロジェクトと共同で、都市マスタープラン策定過程への市民参加に、インターネットによる参加方式を用いて研究を行った。その結果、インターネットを利用したマスタープランの情報提供と意見収集では、参加者の増加、参加者像の拡大、意見数の増加、意見内容の多様化などの効果が明らかになった。しかし、計画内容への理解度や、意見の計画への反映可能性は、現実の地域社会で行われるポスターセッション(展示説明会)やワークショップなどよりも低く、これは意見提出の際のコミュニケーションや意見形成の支援がされていないことに影響されている可能性があることが指摘されている。
 そこで本研究では、わが国において利用が拡大しているマスタープランニングにおけるインターネット利用の状況を調査し、その現状を明らかにする。そして、コミュニケーション機能を付加した電子会議室を利用して、同じく大和市の総合計画策定においてサイバーマスタープランニングの実験を行うことにより、コミュニケーションによる理解の向上や意見形成の支援への影響を把握する。
 以上により、本研究では、わが国の自治体において実施されている都市マスタープラン策定過程の市民参加手段としてのインターネット利用事例の分析を行うとともに、神奈川県大和市、同藤沢市で行われた電子会議室を利用したマスタープラン策定における市民参加実験を実施することにより、インターネットを利用したマスタープランニングにおける情報提供の課題と電子会議室の利用可能性について検討する。

3 研究の方法

 本研究ではまず、マスタープランニングに関する情報をインターネットにより提供している自治体の事例を調査し比較分析する。インターネット利用自治体の調査は、1997年12月1)、1998年12月にそれぞれ実施した。調査対象は、都市計画法第18条の2に定める都市計画に関する基本的な方針(以下「都市マス」と略記する)に関する情報をインターネットに掲載する自治体で、97年調査では24自治体、98年調査では56自治体が、インターネットを利用した情報提供を行っている。
 内容分析は、これらの自治体が提供する計画情報の内容、意見収集方法などの内容を比較し、各自治体における情報提供内容や意見収集の傾向を把握するとともに、その課題を明らかにする。
 また、これら事例のうち、いくつかの自治体では、インターネットの特徴である情報通信の双方向性を発揮し、マスタープランニングに関わるコミュニケーションを深めるために、98年調査時点で都市マスの策定において、神奈川県藤沢市、同鎌倉市が電子会議室を設置、運営している。
 本研究では、これらの自治体の電子会議室で行われた発言の内容と経過を分析するとともに、電子会議室のマスタープラングへの利用可能性を探るために、東京都生活都市構想策定、東京都中央区の基本構想、神奈川県藤沢市の総合計画と環境基本計画策定についても分析の対象とする。
 さらに、神奈川県大和市の総合計画と神奈川県藤沢市の都市マスの事例については、筆者らが会議室運営の主体となって、電子会議室運営の実験を試みることにより、アクセス記録の分析など参加者の行動分析等を合わせて行う。

4 都市マスへの利用状況

1)調査の概要
 自治体の都市マス策定におけるインターネットの利用状況は、ホームページ掲載文の全文検索が可能な以下の3つの検索エンジンにおいて、(1)都市計画マスタープラン(2)都市マスタープラン(3)都市計画に関する基本的な方針の3つの言葉をキーワードとして検索を行うことにより所在を把握し、その掲載内容を分析した。

注) 検索エンジン名(URL):
・地域発見(http://search.nippon-net.ne.jp/search_mha.html)
・goo(http://www.goo.ne.jp/)
・infoseek Japan(http://japan.infoseek.com/)

 97年調査では12月24日現在の都市マスのwwwへの掲載状況を調査した結果、全国でインターネットから都市に関する情報を提供している事例は、24事例確認できる。また98年調査は、97年調査と同様の方法で11月4〜30日までの間で実施された。98年調査では、都市マスの計画情報を掲載している自治体は55事例が確認できる(表1)。
 98年調査では、さらに、55自治体のうち、自治体がWWWの運営主体となっている48自治体に対して、都市マス担当者のインターネット利用意識に関するアンケート調査も合わせて実施し、35自治体から回答を得た(回答率:72.9%)。
 






2)情報提供時期
 97年調査では、都市マス策定中に情報を提供している事例が18、既にプランを行政計画として決定しているものが6自治体ある。また、98年調査では、策定中である事例が31事例、行政決定しているものが25事例である。これら事例のうち決定前に情報提供をしているものは、97年には全体の83.3%であったが、98年には60.0%となっており、決定後の情報提供が増加した。

3)利用自治体の位置
 都市マスの情報提供にインターネットを利用する自治体の位置は、約半数が東京都およびその隣接県となっている。平成10年度までに都市マスは433自治体で決定されているが(1)、そのうち東京都およびその隣接県の自治体は63あり、全体の14.5%であるから、決定済みの市区町がこの地域に集中しているわけではない。
 インターネット利用者の居住地は、45.2%が関東地域に集中しており(2)、地域住民へのインターネット普及状況が、都市マスへのインターネット利用に影響していると考える。

4)情報内容
 各事例が掲載する情報内容は、アンケートの案内のみを掲載するものから計画試案や参加結果を掲載するものまで、その情報量と内容には相当な幅がある。
 行政計画としての決定前にインターネットを利用している事例は97年調査では20、98年調査では33あり、決定前に計画案を掲載するケースは増加している。しかし、計画の情報内容が98年調査では概要を掲載する場合が増加しており、計画案全部が掲載されるケースが減少している。
4)意見提出の方法
 電子メールなどによりインターネットで意見を送付できる事例が98年度はやや減少しており、都市マスの策定におけるインターネット利用は拡大しているが、インターネットというメディアの利点である通信の双方向性の利用が減少している。
 都市マスの担当課は、電話、FAXで質問や意見を受け付け、電子メールは市のインターネット担当課が受け付けるといったかたちが多い。意見に対する回答方法について、ほとんどの自治体は明確にしていない。インターネットによる意見収集の方法では、電子メールによる意見収集のほか、アンケート形式や電子会議室を利用した事例が見られるが、構成割合にほとんど変化はない。

5)参加結果の掲載
 策定過程における参加結果を掲載する事例の構成割合は減少しており、策定組織や住民から得られた意見内容を掲載する事例の構成割合も同様である。行政対応について説明している自治体は、わずかに2事例にとどまっている。

5 電子会議室利用の可能性

5‐1.研究対象

 これまで見てきたように、わが国のインターネットのマスタープランニングへの利用は、情報提供における公開性の確保の段階でいくつかの課題があり、これら課題の解決への取り組みが多くの自治体で必要な状況にある。
 しかし、そうした課題に取り組み、積極的な計画情報の提供と、さらに進んで電子会議室による積極的な双方向の情報通信による市民意見の反映を目指す試みが、いくつかの自治体で行われている。
 ここでは、以下の自治体のマスタープランニングにおける電子会議室の利用状況を分析する。特に、本プロジェクトが直接運営に関わった神奈川県大和市の総合計画策定と同藤沢市の都市マス策定においては、アクセスや発言記録などの分析により、発言した市民の行動についても分析の対象とし、電子会議室の有効性についての検討を行うことで、マスタープランニングにおける電子会議室の利用可能性を明らかにしたい。

研究対象マスタープラン
・神奈川県大和市総合計画
・神奈川県鎌倉市都市マスタープラン
・神奈川県藤沢市環境基本計画
・神奈川県藤沢市都市マスタープラン
・東京都中央区基本構想
・東京都生活都市構想

5‐2.電子会議室の参加と発言の状況
     
 研究対象の電子会議室の参加者数と発言数の状況をまとめると表2のとおりとなる。利用状況は、電子会議室への参加者数、発言総数を各電子会議室の発言記録から読み取ったものである。

表2 電子会議室発言状況

 各会議室の平均発言数は、参加者数18人、発言数83.4発言、一人あたりの平均発言回数5.1回となっている。電子会議室への参加者数は、最大でも大和市の29人となっており、電子会議室の開設は、必ずしも参加者の拡大に結びついているわけではない。現時点では参加者はかなり限られた層の参加となっている。

5‐3.電子会議室の発言状況

1)対象会議室の概要
 ここでは、本プロジェクトが直接運営に参加した大和市の総合計画策定に関する「身近な住環境を考える電子会議室」、藤沢市市民電子会議室実験電縁都市ふじさわに設けられた「ふじさわの未来をつくろう総合計画衆会室」「都市マスタープランを考える衆会室」の2つの会議室を取り上げる。
 総合計画は、地方自治法で定めることとされている基本構想及び基本構想にもとづいて決める基本計画からなる。大和市は基本計画のみの見直し、藤沢市は基本構想からの策定事例である。また、都市マスタープランは、都市計画法で定める「都市計画に関する基本方針」に該当するものである。
 これら2事例はいずれも計画策定過程における市民参加である。


図2 大和市の市民参加電子会議室


図3 藤沢市電縁都市ふじさわ



2)電子会議室が扱う計画の進行状況
<大和市総合計画のこれまでの進行状況>
 大和市総合計画電子会議室は、1998年9月に開設され1999年12月まで継続されることになっている。現在は、9月から12月まで「大和市の現況と課題」について議論がされたところであり、引き続き電子会議室は継続されている。ただし、現段階は、素案が提示されているわけではなく、広く意見交換を行なっている段階である。
 また、地域別の懇談会がポスターセッション形式で、平成10年12月から平成11年1月にかけて計5回行なわれている。ポスターセッションとは、来場者ひとりひとりに市の担当者がこれまでの検討内容を説明し、意見をヒアリングするものである。5日間の来場者の総数は延べ83人、1回当たりの来場者数は16人、一人当たりの意見交換の所要時間は平均で約32分となっている。
<藤沢市総合計画のこれまでの進行状況>
 藤沢市は、平成10年から平成12年にかけて基本構想・基本計画の策定を行なっている。平成10年度は基本構想、平成11年度は基本計画を策定する予定である。
 なお、基本構想は平成13年度(2001年)から平成32年度(2020年)、基本計画は平成13年度(2001年)から平成22年度(2010年)を対象年次とするものである。
 総合計画を策定するための審議会が平成10年4月に設けられ、以来、12月25日まで計9回の審議会が開催されている。
 市内の地区別に設けられている「くらし・まちづくり会議」と電縁都市ふじさわの「電子会議室」が、市民参加の方法として位置づけられている。
 総合計画に関する電子会議室は平成10年6月に開設されており、現在も継続中である。審議会の資料や議事録は、その都度、電子会議室に掲載され、それらの資料を参照しながら参加者が議論を行っている。
 平成10年12月に、「電縁都市ふじさわ運営委員会」が電子会議室での意見を取りまとめ、市長に提出している。現在は、基本構想素案がまとまっている段階である。
<藤沢市都市マスタープランのこれまでの進行状況>
 「都市計画に関する基本方針」である都市マスタープランは、平成8年度から平成10年度にかけて策定する予定となっている。平成8年度に現況分析、平成9年度には課題の整理と都市政策の方向付けを行ない、平成10年度中に案の作成を行なう予定である。なお、目標年次は平成32年(2020年)となっている。
 これまで、地区ごとの「くらし・まちづくり会議」を中心に説明会・協議会形式で市民参加を行なってきている。
 都市マスタープランに関する電子会議室は、「都市マスタープラン中間案」が平成9年8月にまとめられたのを受けて、この中間案に対して意見を求める形で、9月18日から11月13日まで開設されている。現在は、これらの意見をもとに第二次案が提示され、「くらし・まちづくり会議」で説明会が開催されている状況である。

3)電子会議室の計画策定における位置づけ
<大和市総合計画電子会議室>
 大和市総合計画電子会議室は、今回の総合計画第二期基本計画への市民参加の一環として設けられたもので、大和市の協力のもと慶応義塾大学が運営を行なっている。慶応大学側で電子会議室の運営進行を行い、ここで集約された意見を大和市に提言し、市の策定委員会が提言を検討するというシステムをとっている。発言は匿名でも可能である。
 システム上の特徴は、電子会議室で参加者が発言するたびに、その内容が電子メールで希望者に配信されるシステムをとっていることである。発言自体は、電子会議室上でなければできないが、少なくともどのような議論がなされているのかは電子会議室にアクセスすることなく把握できるようになっているわけである。
 また、電子会議室の議論になるべく行政も参加する方針をとっている。そのために、市職員で構成するメーリングリストにも、電子会議室の発言は配信されるようなしくみをとっている。
<電縁都市ふじさわ>
 総合計画や都市マスタープランに関する電子会議室は、藤沢市市民電子会議室実験「電縁都市ふじさわ」の中に設けられている。「電縁都市ふじさわ」は、市内在住・市外在外住を問わずだれでも会議室(衆会室と呼んでいる)を開設できる「市民エリア」と、行政が電子会議室設置に関わる「市役所エリア」に分かれている。市役所エリアは、市民エリアと違って実名発言が必要とされる。
 藤沢市が策定する計画は、この市役所エリアの中で議論され、電縁都市ふじさわ運営委員会を経て、各計画の策定サイドに提言されるシステムになっている。
 開設以来、すでに環境基本計画に電縁都市ふじさわが活用されている。また、ゴミ問題に関する衆会室、図書館の情報化を考える衆会室などで提言がまとめられ、そのうちのいくつかは、実際に施策として実施されている。
 電縁都市ふじさわでは、電子会議室の実質的な進行は市民に委ねられている。行政側は、審議会などの情報の公開と市に対する質問への回答をする程度で、市役所エリアであってもなるべく意見をはさまないようにしている。

4)コミュニケーションの状況分析
 両市の電子会議室運営に関する行政の姿勢について、藤沢市では行政は迅速な情報公開に撤し、大和市ではコミュニケーションの中に自らを委ねるという方法をとっている。一方は市民の主体性を期待するために市は一歩下がるという姿勢を示し、一方は積極的に参加するという立場をとっている。
 図4から6は、電子会議室への参加者を進行役・一般参加者・策定委員や行政など計画策定に関わる者に分類し、各電子会議室ごとの発言数と週当たりの発言頻度を求めたものである。
 発言頻度の高い環境基本計画衆会室では、策定委員が電子会議室の進行役を務めている。そこで、大和市総合計画・藤沢市総合計画・藤沢市都市マスの3つについて、この点に着目してみると、大和市は市職員の発言が高いのが目に付く。藤沢市総合計画では市からの発言は少ないが総合計画策定委員のひとりが電子会議室に参加しており、策定委員の発言頻度が高いことがわかる。それに比べて、藤沢市都市マスの場合は、策定サイドからの発言は皆無である。
 計画策定過程の市民参加にインターネットを使う場合は、行政や策定委員・コンサルタントなど策定過程に直接関わるものが電子会議室に参加することで発言の活発化が起こる可能性がある。策定側の参加により論点が明確になり、計画の何をどのように論じるべきなのか一般の参加者の理解を助け、発言を促進している可能性が考えられる。
 これは、専門知識をわかりやすく伝え、策定側がこうした役割を担うことで、参加者の理解と発言を促し、このことが相互コミュニケーションを生んでいる可能性がある。策定側が論点と必要となる専門知識をわかりやすく提示できれば、専門的で多岐な分野を含むマスタープランであっても議論は可能である。
 
 

図4 大和市総合計画電子会議室の発言状況
 
 

図5 藤沢市総合計画電子会議室の発言状況

図6 藤沢市都市マスタープラン電子会議室の発言状況




5‐4.電子会議室でのアクセス行動

 本プロジェクトにおいて97年度に報告した大和市の都市計画マスタープランの計画情報の提供に対する電子メールでの意見収集の試みに対する市民のアクセス状況と、本年度本プロジェクトにおいて、大和市の総合計画策定のために開設した電子会議室へのアクセス状況を比較することで、マスタープランニングへの電子会議室利用の可能性を探る。

1)アクセス数の変化
 1日平均アクセス数の推移で、2ヶ月目から3ヶ月目にかけての伸び率は、総合計画では都市マスの約6.8倍となっている。また、都市マスは6ヶ月かけてアクセス数一日へ意見アクセス数が50件を超えているが、総合計画では、わずか1〜2ヶ月で50件を超えている。電子会議室システムが急速にアクセス数を拡大する可能性を持つことを示している。
 時間別アクセス数に関しては、都市マス、総合計画ともに、昼休みの時間帯である昼12時のアクセスが最も多く、12時から17時頃までの昼間の時間帯にアクセスが集中している(図7、8)。
 総合計画を都市マスと比べると期間が約半分にもかかわらずアクセス数がに多い。また午前8時前後と、夕食後の時間帯である午後9時前後にアクセスの延びが増加している。


図7 大和市都市計画の時間別アクセス数の変化


図8 大和市総合計画の時間別アクセス数の変化



2)意見数の推移
 大和市の都市マスと総合計画で、H.P.の開設期間が異なるため、意見数を比較するために、表 月別意見数の推移では、総合計画と同じホームページ開設当初から5ヶ月間で比較する。
 インターネット上で意見を表明する方式は、都市マスでは、(1)アンケート、(2)訪問者リスト、(3)電子メール、の3つである。総合計画は、(1)アンケート、(2)大和市意識調査、(3)電子会議室、の3つである(表*)。
 市民が発信する意見等の件数自体は、両者ともにそれほどの変化はない。
 都市マスでは、発信内容に自由度の高い電子メールよりも、訪問者リストのような簡単なコメントを付すタイプの情報発信が選択される傾向が強く、6〜7ヶ月でピークを迎え、その後は意見件数は安定した。
 だが、電子会議室は、話題によって、急激に発言数が増えたり減ったりと、発言者が相互に影響を受けつつ発信している様子が伺える。

表3 意見数の推移

 
3)閲覧ページ数
 今回の総合計画の実験において、1998年8月から12月までのアクセス一回当たりの平均閲覧ページ数は7.86(ページ/アクセス1回)である(表4)。都市マスでは、開設当初は4.21であるが、約1年後には2.27に落ちている。ただ、訪問者リストやアンケートへの回答をした者については、閲覧ページ数はかなり増える(表5)。

表4 大和市総合計画平均閲覧ページ数

表5 大和市都市計画マスタープランの平均閲覧ページ数

 表6は、電子会議室に一度でもアクセスした時と、電子会議室には一度もアクセスせずにそれ以外の総合計画に関する資料などのみにアクセスした時の一人当り平均閲覧ページを集計している。9月以降は全て、電子会議室を一度でも見た場合の平均閲覧ページ数の方が多く、8月から12月の平均では、電子会議室を見ていない場合の約2倍の閲覧ページ数となっている。

表6 大和市総合計画閲覧ページ数と電子会議室との関わり

5‐5.電子会議室への参加者像

 ここでは、参加者像を分析するために、大和市総合計画の各参加機会であるWWW、地域別懇談会、大和市民意識調査におけるアンケート結果を元に、(1)性別、(2)年齢、(3)居住地の比較を行う。
 各参加機会における属性のアンケートは、ホームページでは、アンケートと市民意識調査、地域別懇談会では来訪した際に記入してもらうアンケート調査票、大和市民意識調査は、大和市民だけを対象にランダムに選び意識調査を郵送で送ったものである。ホームーページ上での意識調査は、この大和市民意識調査を市民でない人にも対応できる内容に一部変更したものである。
 また、郵送による意識調査はランダムに3,000人の市民を選択していることと、サンプル数が1,676(回答率55.9%)と多数であることから、ほぼ大和市全体の市民像を表していると考え、比較のために用いる。
 調査数は、WWWは47、地域別懇談会は76、大和市民意識調査では1,676である。

1)性別
 WWWでのアンケート結果による参加者像は、約8割が男性である。都市マスの際の参加者像では男性が9割以上を占めている。地域別懇談会では、女性の参加が全体の約6割である。

2)年齢
 WWWでは、20代、30代の若年層の参加が多いのに比べ、地域別懇談会では、20代の参加は約3%のみで、30代以上の中高年層の参加がほとんどを占めているのが特徴である。
 
3)居住地
 WWWにおける大和市民の割合は約64%である。都市マスのWWWにおいては、開設当初の7割から一年後には5割に減少している。一方、地域別懇談会では、9割が大和市民である。

5‐6.電子会議室による意見反映の状況

 電子会議室における参加者の意見の反映状況については、大和市の総合計画が策定中であることから、電子会議室を利用したマスタープランニングを実施し、既に策定が終了している東京都生活都市構想、鎌倉市都市マスタープラン、藤沢市環境基本計画についての反映状況を分析する。
 分析の方法については、97年調査において実施した発言内容の、大部分または部分的に計画図書に記載されているかどうかという判断に基づき(1)、2)、反映状況を把握した。また、大和市都市マス策定において実施された市民参加手段、鎌倉市都市マス策定時に実施されたワークショップの結果を比較対象として扱う(表7)。
 生活都市東京の電子会議室での意見反映率は41.6%で、大和市都市マスの電子メール利用の約2倍の反映率になっている。鎌倉市都市マスタープランの電子会議室での意見反映率は、17.8%で、電子メール利用よりも低い反映率になっている。藤沢市環境基本計画の電子会議室での意見反映率は41.9%である。
 いくつかの電子会議室では、電子メールを大幅に上回る反映率を記録している会議室もあり、また、ワークショップなどの実空間での意見反映率に、大部分反映では、劣るものの全体としての反映率では、同等程度の電子会議室もある。電子会議室運営における市民意見の形成支援など、運営技術の向上を図ることで、マスタープランニングの参加の場として機能する可能性がある。

表7 意見反映の状況

注1)数値は、上段が意見件数(件)下段は構成比(%)を示している。
注2)反映状況についての区分は以下のとおりである。
   大部分反映・・・大部分が反映されたもの   部分的反映・・・部分的に反映されたもの
   検討課題・・・検討課題として保留されたもの 不採用・・・最終的に取り上げられなかったもの
   判定不能・・・意見内容から反映されたかどうか判定できないもの
注3)反映対象の図書は、各自治体の決定図書、鎌倉市は都市マスタープラン検討素材である。
注4)市民懇話会の意見件数は、市長に提出された報告書に記録された第1〜5回の市民懇話会の意見交換時の発言数による。参加者は延べ27名。
注5)地域の意見を聴く会では、ポスターセッションの意見件数はセッション後に市民の発言内容を職員が要約して記録した意見の数、会場アンケートは自由意見欄への記入数。
注6)資料配付の意見件数は、配付資料に対して意見を述べた葉書、FAX、意見書などの数。
注7)電子メール意見件数は、平成7年11月から平成9年2月までに寄せられたメールのうち、内容が計画試案や都市マスタープランのインターネットによる参加手法に関して言及している電子メールの数である。
注8)鎌倉市のワークショップは4回開催され、うち3での意見数。参加者は延べ199名。
注9)電子会議室の意見件数は、一発言につき一意見としている。


6 まとめ −サイバーマスタープランニングの実験と評価−

1)WWWによる情報提供の課題
 97年調査から98年調査への移行において、インターネットによるマスタープランの情報提供を行う自治体数は増えているが、98年調査においても、依然としてインターネット利用状況によると思われる利用自治体の偏りがある。
 実社会でのコミュニティへの参加状況など、利用に積極的でない自治体のインターネット利用の必要性についての検討を行う必要がある。
 また、インターネットで提供される情報内容の偏りも大きく、行政内で策定過程の情報提供が可能な策定体制が採れているか、策定過程でなくても決定図書の全文を掲載するなどの情報提供への積極姿勢が確保されていることが、市民参加のプランニングを行うためには必要である。
 インターネットの利用は、情報提供量や情報アクセスの時間的、地理的な制約が少ないことが利点である。従来の市民参加手段に対する批判は、こうした制約を抱えていたことが、市民との情報共有を阻害し、都市マスの実現性の低下などの機能低下を招いたことを考えられる。
 電子会議室などの双方向性が確保された議論の場が創出されつつある自治体が登場し、住民ニーズに合致した情報提供を模索する自治体がある一方で、情報提供に対する制約を抱える自治体が多く存在する。

2)電子会議室利用の課題
 双方向性の確保については、インターネットで意見提出を受け付ける自治体は増えている。情報提供量の不足や双方向コミュニケーションの不足が、意見反映の可能性の低下を招く恐れがあり、さらに、電子会議室の反映結果を見ると、部分的な反映にとどまることが多い。
 反映可能性が電子会議室の利用によって高まった反面、参加者の拡大には大きな効果を発揮していない可能性があることも明らかになった。電子会議室における発言者ばかりでなく、閲覧者の行動なども分析する必要がある。
 しかし、部分的な反映も含めれば、電子会議室での発言の反映率は、ワークショップなどの現実の地域社会に近いものとなりうる可能性を示す事例があり、電子会議室でも、一定の理解や意見形成の支援を行う環境を形成することは可能である。

3)サイバーマスタープランニングの評価
 研究成果から、インターネットによる情報提供の結果、参加者の増加、参加者像の拡大、意見数の増加、意見内容の多様化、また、電子会議室でのコミュニケーションが、意見反映の可能性を高める可能性を持つことが明らかにできた。今後は、情報提供内容の偏りや情報コンテンツへの理解不足解消などの課題に取り組み、サイバープランニングの可能性をさらに探る。


(1)反映に関する分析については、鎌倉市都市マスタープラン策定において実施されたワークショップの意見反映状況を分析した、錦澤他「都市計画マスタープラン策定におけるまちづくりワークショップの現状分析 -鎌倉市を事例として-」日本都市計画学会学術研究論文集、No.32、pp253-258、1997.10 と同じ方法により大和市の市民意見を分析し、各参加方式の反映結果をみるために表3を作成した。
 分析方法は「観光で入ってくるマイカーはどこかで集めて、市内はバス等を使うようにすすめる」という市民意見に対して「パークアンドバスライドの導入」と反映対象の図書に記述されていた場合には、内容的にそのまま反映されていると判断できるので大部分が反映されたものとする。ただ、「岐れ路からのバスは小型化してもらう」という意見に対して「ミニバスの導入とされていた場合には、「岐れ路」にミニバスが導入されるかは不明であるので部分的な反映と判断する。

参考文献
1) 小林隆「自治体の政策形成過程におけるインターネットの有効利用」『都市問題』第89巻 第3号、(財)東京市政調査会、pp55〜73、1998年3月
2) 小林隆、日端康雄「都市マスタープランの策定過程におけるインターネットの活用可能性に関する考察 -大和市の計画策定事例を中心に-」日本都市計画学会一般研究論文、『都市計画』No.215、(社)日本都市計画学会、pp77-85、1998年11月
2) 伊藤滋、日端康雄、小林 隆、鈴木 広隆、片桐常雄、高橋彩子、西村佳子「サイバーデザインプロジェクト 〜電子メディアによる環境デザイン」文部省科学研究費・慶應義塾大学COEプロジェクト、1999年3月