<研究課題名>

ヒマラヤ山系における環境管理のための基盤整備

 

<研究テーマ>

ネパール王国森林環境モニタリング及びGPS技術移転

 

<研究課題>

本研究の課題はヒマラヤ山系をフィールドとし、将来に渡り総合的環境管理を推進していく際の、研究基盤を整備することである。

 

<どうしてネパールにおいてGPS技術移転が必要とされているのか>

 途上国における環境問題への対応は先進国以上に、困難な面が多い。環境改善の費用の負担力、技術レベル、技術基盤の未整備など多くの問題がある。このための抜本的な対策はあまりなされていないのが現状である。環境容量の小さな Fragile Environment エリアである高山地域や砂漠周辺においては、早急な対処が強く求められている。

 ヒマラヤ山系では近年、地域全体の環境破壊が著しい。ヒマラヤ山系全体での環境保全が強く求められているにもかかわらず、保全の前提となる地図及び、研究基盤が整備されていないのが現状である。今後、この地域での研究を推進していくためには、研究基盤を整備することが不可欠である。

 また、従来の研究手法として、研究者が現地へ赴き、必要なデータだけを収集分析し、その研究成果を全く現地にフローしないというパターンがあった。しかしこれからは、長期的視野を持ったより発展的な研究を、現地の研究者とのコラボレーションを図りながら、推進させていかなくてはならない。そして将来的には、現地の研究者が自ら問題発見し、技術を用いた研究を進めていく事ができるよう、サポートしていかなくてはならないと考える。

 ヒマラヤ山系諸国のうち、国土の大半が山岳地であるネパール王国では、国土計画に欠かせない正確な地図が未だ整備されていない。そのため、先進各国からの援助等により近年GISが導入されたもの、正確な地図データ及び、位置データを取得していないため、GISの技術が生かされていない状況にある。今回、技術を主に移転するICIMOD (International Center for Integrated Mountain Development) は、ネパール王国に研究拠点があり、ヒマラヤ山系8カ国(ネパール・バングラデッシュ・アフガニスタン・インド・ブータン・ミャンマー・パキスタン・中国)が加盟する国際機関である。ICIMODに技術協力することにより、各国から来ている研究者に効率良く、技術協力を図ることが可能である。

 

<ネパール訪問スケジュール>

今回のミッションは、GPS技術移転を重点的においた。また、今後展開されていく、「ヒマラヤ山系における持続的可能な発展」プロジェクトのフィールド選定をするための視察も含んでいた。よって、スケジュールは限りある時間を有効に使うため、タイトなものになってしまった。詳細は、以下の日程表に記す。

慶應義塾大学からの参加者は3名だった。
環境情報学部教授 久保幸夫
経済学部教授 高木勇夫
政策・メディア研究科修士課程 佐藤麻貴

 

<ネパール訪問日程表>

 
日程 場所 行動
19981219 東京−Bangkok  
19981220 BangkokKathmandu(KTH)  
19981221 Kathmandu ICIMOD於ワークッショップ
19981222 KTHPokhara  
19981223 Pokhara Tribhuvan大学於ワークッショップ
19981224 PokharaBhairawa 車で移動(中部山地から南部の地形視察)
19981225 NarayanghatHetauda Tribhuvan大学Institute of Forestry
19981226 BhairawaKathmandu UNCRDOjha博士に会う
19981227 KTHKodariDhulikhel チベットとの国境付近視察
19981228 DhulikhelNagarkotKTH 北部山地の棚田視察
19981229 KathmanduBangkok  
19981230 Bangkok  
19981231 Bangkok−東京  
 

 

GPSワークショップの内容と流れ
 

1)ICIMODInternational Center For Integrated Mountain Development
 
参加者:48名

ICIMOD研究者、技術者、研修員(40名)
民間会社の技術者(3名)
Tribhuvan大学Kathmandu校舎教員(5名)

進行:

時間 行事進行
9301000 開会の挨拶
10301300 講義(導入・GPSの原理)
13001400 ランチ
14001630 講義(GPSの動作確認・セットアップ方法)
 
 
 
開会式の風景

 
                                                

講義風景
 
 

                                                                   GPSの実習風景

 
 
GPSの実習風景
 

 
2)Tribhuvan大学Pokharaキャンパス、理学部地理学教室

参加者:35名(大学関係者のみ)

進行:

時間 行事進行
830 840 開会の挨拶
840 950 講義(導入)
9501010 休憩
10101050 講義(GPSの原理)
10501300 ランチ
13001410 講義(GPSデモ・セットアップ)
14151420 閉会式・賞状授与
 

 

 
講義風景

 
                                                 

 

ポカラ・キャンパスの屋上に設置されたGPS基地局

 

 

<受講者からの反響>

ICIMOD

ICIMODは国連の所属機関であるため、ICIMODからの受講者は、欧米先進国で修士号を取得してきている者が多かった。そのため、GPSに関する基本的な知識は既に持ち合わせている者も多数おり、質問はかなりテクニカルな内容であった。ICIMODでは、Trimble社が製造している軽量なスタンド・アローンのGPSセットを持っており、我々の持って行ったディファレンシャルGPSとの精度比較をする実験なども一部で行った。また、ロシアの持っているGlonassと現在一般的に使われているアメリカの衛星とを併用して、GPSを利用した際の問題点などGPS業界において話題になっている最新の技術情報に対するニーズが多かった。

 

Tribhuvan大学Pokharaキャンパス:

セミナーを受講していた者の大半は、地理学教室の教官・大学院生であった。しかし、GPSに関しては聞くのも見るのも始めてという者が多かった。ICIMODで行ったセミナーのレベルからすれば、極々基礎的な部分しか、理解させることができなかったように感じる。受講者に関心はあるのだろうが、衛星を使った測位方法を実感として理解させるのは難しいと感じた。

 

<今後の展望・成果>

  これから新規にネパールにおいてプロジェクトを展開していく際に重要となるであろう人脈の獲得を図ることができた。ネパールのような発展途上国では、政府や研究機関などの権威が異常に強い。そのため、今後ネパールにおいてフラジャイル・インバイロンメントにおける人間の環境へのインパクト等の調査を行う際に、そうした人脈を活かしていくことができるであろうと考えられる。

 国際機関であるICIMODとのコラボレーションを図りつつ、セミナー形式でGPSのシステム作りからサポートすることにより、現場でGPSを必要としている各国からの研究者に効率良くGPS技術を移転することができた。さらに、ヒマラヤ山系における各研究機関と、より発展的な共同研究を進めていく際の、研究ネットワーク基盤を構築することができた。これは、慶應義塾全体として、アジアにおける総合的地域研究を進めていく際にも、有効となるであろう。

 また今後の展望としては、地域研究として、アンナプルナ地域ポカラ付近で発生している森林伐採の現状や観光開発に伴う土地利用の変化(土地被覆変化)を、現地の大学であるTribhuvan大学の理学部地理学科との共同現地調査により把握し、その伐採が及ぼす地域的、社会的影響を明確にし、最終的には現状を改善するための何らかの政策提言を行う予定である。