1998年12月16日 警察庁生活安全局生活安全企画課 御中 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 「政策・メディア21」プロジェクト mori@sfc.wide.ad.jp 代表 環境情報学部教授 村井 純 「不正アクセス対策法制の基本的考え方」に対するコメント 「政策・メディア21」プロジェクトは、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス大学院、政策・ メディア研究科を基盤に、政治・経済・法律・テクノロジ等、多様な学問分野の研究者が 集まり、総合的な視点から21世紀に向けた政策提言をなすことを目標とするプロジェクト です。 今回、警察庁が「不正アクセス対策法制の基本的考え方」を検討され、インターネット上 でコメントを募集されたことに敬意を表します。 これを受け、21世紀におけるインターネット関連法制のあり方を検討し、以下のようにま とめましたので、提出いたします。 本プロジェクトには以下の研究者が参加していますが、時間的制約により、本議論に参加 していない者も含まれています。 村井純、楠本博之、中村修、金子郁容、竹中平蔵、田村次郎、加藤秀樹、 草野厚、斎藤信男、徳田英幸、藤幡正樹、萩野達也、服部隆志、杉浦一徳、 宮川祥子、石橋啓一郎、土本康生、安田絹子、大川恵子、武田圭史、杉田一真、 草加好弘、林亮、井庭崇、難波宏文、土屋大洋、池田洋一郎、田中靖人、 牧兼充、久保井大輔、村上陽子 1. 2条について 本条において、法制の対象となる電子計算機を「事業の用に供され」るものに 限定している。しかし、事業の用に供せられない個人あるいは研究用の コンピュータであろうとも、重大な被害に結び付く危険は何ら変わらない。 特に、これらのコンピュータが踏み台として利用され得ることを考慮すれば、 技術的にもこの区別に意味はない。 したがって、このような限定は排除するべきと考える。 2. 5条2項について 本項において、特定電子計算機の使用者にログ保存義務を課している。 しかし、本法制の定義ではあまりに多くのコンピュータが対象となり、 使用者に過大な負担を課すことになる。 したがって、本項の対象を2条の定義と区別し、対象となる範囲を必要最低限 に狭めるべきと考える。 また、ログ保存義務には、これ以外にも以下のごとく様々な問題がある。 したがって、現段階においては、本項を義務規定ではなく目標規定として 規定すべきと考える。 1) 2条の定義によれば、ルータも本法制の対象となる。 しかし、現在使用されているルータはログを取る機能を有していないものが ほとんどであるから、本項は非現実的な規定である。 2) 使用者にとって、3ヶ月間ものログ保存義務はコスト面からも多大な 負担となる。 3) 本項の目的は「不正アクセスを受けていることを発見する」ためと されているが、容易に改変できるログにいかなる効果が望めるのか疑問である。 3. 5条3項について 使用者に届出義務を科す本項は、使用者の大きな負担となると考えられる。 したがって、使用者の自主性を重んじ、本項は任意の届出を促す目標条項に すべきと考える。 以上