―― 3/1/99 付け インプレス社 Internet Watch より―― [イベントレポート] ---------------------------------------------------------------------------- 01:慶應義塾大学の村井教授らが、インターネット政策についてシンポジウム ---------------------------------------------------------------------------- http://www.mag.keio.ac.jp/mag21/  政治、経済、法律など多分野の研究者が参加し、総合的な視点から21世紀の情報社 会に向けた政策について考える「政策・メディア21シンポジウム〜インターネット社 会の信頼構築〜」が2月25日、慶應義塾大学で開催された。同大学メディア研究科が '98年より推進している「政策・メディア21」プロジェクトの一環として開かれたも ので、環境情報学部・村井純教授らによる基調講演やパネルディスカッションが行な われた。 ●日本における情報インフラ構築は今後10年が鍵  基調講演では慶應義塾大学総合政策学部の竹中平蔵教授が「21世紀型経済と情報イ ンフラ」と題して、経済学的視点から見たインターネット社会について話した。情報 インフラが生産性を高めるかどうかは諸説があるとしながらも、日本における情報通 信分野の設備投資率が米国に比べて3分の1から4分の1と低いことを指摘。政府、企業、 個人が「アクティビスト」になり、ネットワーク社会に対応するための体系や構造、 意識を変える必要があるという。その一方で、情報インフラを整備するにはそれに 「投資するだけの能力」が必要となるため、日本がネットワーク経済をリードするた めには、本格的な高齢者社会が来る前の「今後10年以内にシステムを構築できるかど うか」が鍵になるとしている。  続いて村井教授が「インターネット社会の緊急課題」と題して講演。今やインター ネットは「人類全体のインフラ」となっており、それを支える「公平なグローバルガ バナンス」が求められるとしている。ただし、インターネットは「テストベッド」で あり、それゆえの「フレキシビリティを社会がどう受けとめていくか」が重要だとし ている。また、家電など「日本のお家芸」とインターネットが結びつく分野が拡大す る中で、近年ではIETF(Internet Engineering Task Force)などにおいても日本か らの技術提案が急増していること指摘。インターネット社会でも、日本が大きく貢献 できるとしている。しかしながら、日本の情報インフラを血管に例えるなら「毛細血 管があるだけ」と比喩。現在でもとりあえず「栄養」は流れてくるものの、それを送 るための「ポンプ」を日本も作るかどうか考える段階に来ているとしている。 ●インターネット資源を公平にシェアできる枠組みを  パネルディスカッションでは、慶應義塾大学総合政策学部の金子郁容教授がチェア を務め、パネリストとして村井・竹中両教授のほか、デジタルガレージ代表取締役社 長の伊藤穣一氏、通商産業省機械情報産業局電子政策課の鈴木寛氏、慶應義塾大学法 学部の田村次朗教授、インターネット弁護士協議会の代表を務める弁護士の牧野二郎 氏が参加。「インターネット社会における信頼構築へのシナリオ〜経済・技術・個人」 というテーマのもと、主にインターネット社会において人々の信頼の基盤となる “ルール”について活発な議論が交わされた。  鈴木氏は、「政府が行なうルールメイキングでは、変化のスピードに対応できない」 こと、また、広大なネットワーク社会では「セントラルガバナンスによる法の執行が 難しい」ことを指摘。政府中心のルールメイキングから「産・官・学・民のコラボ レーション」によるルールメイキングや運営へ移行する時期にあるとしている。  一方、田村教授は、日本人は「ルールは与えられるものでなく、ユーザーが自分で 判断して作る」という意識が低いことを挙げ、グローバルな視点が要求される電子商 取引分野などで、もっと企業が政府に働きかけていくべきだと述べた。また、法の執 行が緩い日本の社会構造や、本音と建て前による二重の規範が通用する日本の文化と 照らし合わせると、「日本の仕組み自体がインターネット社会のグローバルスタン ダードになじまないのではないか」という意見も出された。  牧野氏は、「法律の作り方を変える」必要があるとしながらも、インターネットが これだけ社会に浸透し、さまざまな事件も起きている中で「法律が簡単に変わらない のであれば、インターネット社会と現実社会とをオーバーラップさせる策」が重要だ としている。また、従来、法律の基盤となっていた「国という枠組み」がなくなるこ とで、今後はより小さいコミュニティのルールやグローバルなルールなど、いろいろ なルールが共存する時代になるのではないかとしている。  このように、インターネット社会ではさまざまな問題を抱えているが、これに対し 村井教授は「グローバルなサイバースペースを構築し、その中で生きていく過程で、 個々の問題は解決できるのではないか」と述べ、インターネットの資源やルールづく りの責任を「公平にシェアしていく枠組み」が必要だとしている。 [Reported by nagasawa@impress.co.jp]