今年度の開発は以下のような内容を含んだ。(1)反応機構のプラグイン化、 (2)より洗練された「ルールファイル」文法、(3)数値積分法のモジュール化および精度向上 (4)より詳細なデータ表示/操作が可能な GUI群 の開発、(5)「E-CELL Manager」の開発、 (6)スプレッドシートアプリケーションによるルール作成機能。
現在「E-CELL System」の開発は1999年6月の
ベータ公開
を目標として作業を進めている。
実績
学会ポスター発表:
早ければ99年春学期中のミトコンドリア・モデル完成
およびそれを用いた生物学的・医学的実験の実施を目指しており、その暁には
(1)世界初のミトコンドリア・シミュレータの完成
(2)コンピュータ上の実験系による療法開発
(3)E-CELLプロジェクトが最終目的達成へ向けて一歩前進
といった成果が期待される。
ミトコンドリア・モデルは現在最も代表的な代謝経路である電子伝達系がほ
ぼ完成しており、残すところは遺伝子発現系、膜輸送系、クエン酸回路の3つ
の系である。現在は遺伝子発現系をモデリングするための予備研究を進めてい
る。
「E-CELL system」 により構築された代謝系モデルの解析に多変量時系列解析
を応用した。「E-CELL system」 は細胞を化学反応レベルでモデリングするための
汎用シミュレーション環境である。ある時間における細胞の状態は物質の濃度
や反応の活性度といった変量で表現できる。よって、シミュレーションの結果
はこれら変数の時系列データと見なすことができる。そこで我々はE-CELL
system の出力を数学的に解析するために主にインパルス応答、パワー寄与率
の2つを導入した。インパルスとはシステムに突然与えられたゆさぶりである。
それに対してシステムがどう応答するかを表現したものがインパルス応答であ
り、そのシステムに固有な応答が得られ、その時間領域における特性を推定す
ることができる。E-CELLでは代謝系の上流にある物質の量を定常状態に達した
時点で一定量変化させ、その影響が下流の物質にどのように伝達するかを観測
することにより表現した。また生体内においては、物質濃度が振動するような
系も存在する。この場合、周波数領域で解析する必要がある。そこでシステム
特性の線形予測の数学モデルとして、自己回帰(autoregressive: AR)モデルを
導入した。ARモデルとはある時点でのxの値を、それより過去の時点での線
形和で表現するものである。そしてAR過程に基づくパワー寄与率という概念を
取り入れた。これは影響を及ぼす複数の変数間においてその変動がどの変数に
どんな割合で起因するかを周波数ごとに表した値である。これによりシステム
における変数間の相互関係を指標化することができる。以上の手法を用いるこ
とにより、代謝系の解析への多変量時系列解析の応用の有効性を検証した。
実績
学会ポスター発表: