森泰吉郎記念研究振興基金 「国際共同研究費」 報告書

 

「中国における衛星画像を用いた環境解析に関する共同研究」

 

研究代表者 福井弘道 (総合政策学部助教授)

 

<研究の目的>

 人工衛星からの情報収集は、地表の状況を広域に観測できるため、空間データの収集の有効な手段として、土地利用、環境、気象、海域などの幅広い分野で利用が図られてきた。今回の中国科学院地理研究所との協同研究は、「教育学術情報データベース等の開発」の一環として、グローバルな衛星画像を時系列で体系化したデータベースを構築し、解像度別にデータを整備するとともに、そのデータベースを有効に活用し、土地利用の現況把握により、中国における都市開発や環境問題などについて解析し、具体的な開発計画を提案する。今年度はその第一段階として、上海の熱環境と福清の開発について考察し、衛星データを用いての自然環境をはじめとする都市環境を分析する。本研究の目的は、衛星データベース構築プロジェクトにおいて開発されつつあるグローバルな衛星画像を時系列で体系化したデータベースを用いて、中国の現状に促した問題解決への応用としてヒートアイランド現象と環境アセスメントを選び検討することである。対象地域は、中国の最大都市である上海および外資による開発が盛んな福建省福清市とする。

 

<研究の背景>

 近年の中国における急速な経済成長は一方で環境の破壊を伴うものであった。現在中国の人口は世界の4分の1ともいわれ、中国での問題は21世紀の地球環境問題の深刻化につながると言えるだろう。しかし、経済力の不足、技術開発の遅れ、広大な国土面積などのため、環境問題についての新しいデータの取得及び、整備や分析などは進まず、正確な状況がきちんと把握できないでいる。そのため、中国をはじめとするアジア諸国では近年の経済発展の代償として深刻な環境問題に悩まされている。
 リモートセンシングデータは、数値化された国土の土地被覆状況や植生の情報を定期的に取得できるため、特に都市域など開発の頻度が著しい地域での国土情報の効率的な情報更新に対する適用の期待が高まっている。中国政府は、持続可能な発展に着目しており、経済開発と環境保全の調和について関心が強く、様々な環境問題の実態を的確に把握するため、リモートセンシングの新技術の開発に伴うデータを有効に活用することを希望している。一方、先進国ではリモートセンシングデータの活用が積極的に行われており、さらに、中国のデータと他の地理情報を併用し、複数の情報を重ね合わせ用いることで利用価値の高い情報を生み出すことが考えられる。

 

<研究の進め方>

 今回の国際共同研究は、「衛星画像データベースプロジェクト」で慶應義塾大学と中国科学院地理研究所を契約した協同研究のサブプロジェクトとして実施する。衛星データ及び文献データは中国科学院地理研究所から提供されるものを用いる。ヒートアイランド現象に関しては、科学技術振興事業団の「都市ヒートアイランドの計測制御システム」と連携する。これに、中国科学院福建地理研究所、上海華東師範大学地理学部気象研究室、福州大学などの専門家を加えたチームでフィルード計測、調査などの研究を行う。

1. 研究の流れ 
  中国科学院等と行うこの共同研究においては、高精度衛星画像を用いて、中国における土地利用・被覆データを取得し、GIS上でリモートセンシングデータベース作成、その応用に関して研究を行う(下の図を示す)。

<研究の流れ・フローチャート>

<研究チーム>

 

 

<全体の流れ・研究の成果>


中国を中心としたコンテンツの拡充
    
      1/4,000,000の主題ベクトル図とモザイク画像
      土地利用分類(現地調査・リモートセンシング)
      土地利用時系列解析(変化抽出)
      NOAA時系列画像
      LANDSAT時系列画像
      SPOT時系列画像

 
ケース・スタディー(Shanghai/Fuqing/Shenzhen/Wulumuqi)
  1.上海:ヒートアイランドの効果と都市空間パターンの相互関係
  2.福清:持続可能な開発のための土地利用と自然資源アセスメント
  3.香港・深セン:都市の拡大と土地利用及び市街地構造の変化
  4:ウルムチ:ボステン湖地域における人間活動と自然環境の変化

 

 

 

 

<現地調査結果>

-現地調査1

  上海・福州

 総合政策学部福井弘道助教授は「教育学術情報データベース等の開発」共同プロジェクトの一環として行われる「多解像度土地利用・被覆データベース」を構築するため、8月11日から8月17日までの7日間、中国の最大の都市である上海、および外資と特別な環境に恵まれでいる福清市において土地利用・被覆の変化を中心とする調査を行なった。その日程を以下に記す。

 

          8月11日:東京-上海  中国科学院および上海気象研究所と打ち合わせ
          8月12日:上海市の西部(古海岸遺跡)〜東南沿海地区(浦東新空港)まで、土地利用の変化を調査
          8月13日:上海市の工業区(市区〜宝山鉄鋼会社まで)において土地利用調査、上海気象局・気象研究                所へ訪問
          8月14日:上海ー福清 福清の北部で土地被覆について調査
          8月15日:福清の市区〜南部まで、植物と土地被覆の変化を調査
          8月16日:福清ー福州 福州大学へ訪問  福州ー上海
          8月17日:上海の新しい高級住宅小区に見学  上海ー東京
        

 

<福清の現地調査>

 

 

<上海現地調査>

 左の写真は、浦東地区に新たに建設されている上海の新国際空港である。この周辺はまだ外灘周辺のような市街地は形成されていないが、道路などのインフラ整備は今の時点からしっかりと計画がなされているため、今後この地域が空港の開港とともに急速に発展することが予想できる。中央の写真は東方明珠と呼ばれるテレビ塔である。東方明珠の周辺は現在、高層ビルの建設ラッシュで、中国国家ではこの地区が将来的に東アジア地域の経済の中心地となることを期待している。東方明珠の向こうに見えるのが、上海の中心地、外灘である。右の写真は上海の一般的な集合住宅である。夕方になると道路わきには市が立ち、自転車にのった多くの人が買い物をしているのに出くわした。

 

  左側の写真は、人民広場の写真である。人民広場は人が多く集まる上海の中心的広場である。中央の写真は上海1の大通り、南京路である。南京路を中心として、その周囲の道路に小さな商店から、大規模な国営マーケットまでさまざまな店が軒を連ねている。しかし、現在は地下鉄の工事中で、途中で寸断されているため、以前と比較して多少華やかさが減少したような印象を受けた。右の夜景は、上海への入り口とも言われている外灘の大通りである。この写真に写っている時計塔をはじめ、いくつかの古い石造り建物が正面を飾っている。

 

 

-現地調査2

  ウルムチ、シンセン・香港現地調査

 総合政策学部福井弘道助教授、環境情報学部久保幸夫教授は中国科学院との共同プロジェクトの一環として、8月26日から9月6日までの12日間、中国新彊ウイグル自治区・ウルムチ、タクラマカン砂漠の中の淡水湖であるボステン湖の調査を行なった。その後引き続き、広州・シンセンと香港の土地利用調査を行なった。その日程を以下に記す。

 

          8月26日:東京-北京 中国科学院を訪れる
          8月27日:北京-ウルムチ ボステン湖に関する講義を受ける
          8月28日:ウルムチ-コルラ ひたすら車での移動 
          8月29日:ボステン湖の調査(1日目)
          8月30日:ボステン湖の調査(2日目)
          8月31日:コルラ-トルファン 途中灌漑用水博物館、交河故城見学
          9月 1日:トルファン-ウルムチ 火焔山の見学
          9月 2日:天山山脈調査
          9月 3日:ウルムチ-広州 久保教授帰国
          9月 4日:シンセンのグランドトゥルースデータ取得
          9月 5日:シンセン-香港
          9月 6日:香港から帰国

 

<ウルムチ・シンセンの現地調査>

 今回の現地調査の目的は、主にタクラマカン砂漠の中にある淡水のボステン湖の調査及び、ウルムチ周辺のGCP(地上評定点)取得にある。ウルムチ・シンセンを通してGCP取得のために利用した機材はGPSカメラとSonyのGPSである。

 右の写真で久保教授が持っているカメラは、GPSを内蔵しているカメラであり、写真を撮った場所の緯度・経度、方角を写真に記録してくれるものである。中央の写真は、左に上げたGPSを用いてその場のGCPを取得している様子である。


 8月27日にウルムチ到着後、中国化学院のほうから人工衛星画像を見ながらボステン湖の現状について、位置、気候、水質、現在抱えている問題などについての説明を受けた。

     ボステン湖とは 

       位置 : 北緯41°09'-42°09' 東経86°42'-87°06'
       大きさ: 55km×25km (1000m2)
       海抜 : 1048m
       内湖 : 60km2
     平均気温: 1月 -19.7℃
            7月  22.8℃ 平均7.8℃
     日照時間: 年3163時間


 上にあげた3つの写真は、ボステン湖の写真である。右の写真を見ると、後ろには砂漠の山が見え、ボステン湖が砂漠の中にあることがわかる。また、淡水であるために、湖の周囲にはボステン湖の水を利用した綿花栽培などの農業のほか、豊かな自然植生を見ることができる。また、中央の写真はボステン湖で遊ぶ中国人のものだが、ボステン湖は現在一種のリゾート地として多くの人が訪れている。

 時系列の人工衛星画像から見ると、ボステン湖は縮小の傾向にあり、かつ消滅した内湖も存在する。その原因として、農業用水を取得するための用水路の増設や生活廃水が流れ込むことなど、人為的な原因から、水量の減少や水質の悪化が問題となっている。

 

 これもまた、ボステン湖の周囲に自生する水草であるが、中国科学院から受けた説明によると、数十年前まではこれらの水草の丈は6m以上合ったという。しかし、現在では中央の写真からもわかるように高いところでも2m強である。これらは、上にも書いたことだが、ボステン湖の水質が生活廃水が流れ込むなどの人為的な要因で変化した結果であろう。

 次にあげるのは、タクラマカン砂漠である。

 

 左に上げた写真は、ボステン湖の水を引いた砂漠の中の綿花畑である。中央、右にあげた写真は砂漠を走る道路をそれ、砂丘を登ったところの写真である。所々に砂漠の植物が自生している様子がわかる。見渡す限りの砂漠、そして写真からはその高さは測ることはできないが、かなりの高さの砂丘が連なっている。

 

 

 これは8月31日に訪れた遺跡である。左から、砂漠の中にあるイスラムの寺院、中央は鉄関門、そして右は交河故城である。鉄関門の周囲の山は非常に面白い地層をしていると、中国科学院のほうから、非常に細かい地層の説明を受けた。また、交河故城では、遺跡の修復作業を行っているチームに遭遇した。こちらの遺跡に関しても中国科学院のほうから、日本からは早稲田大学のチームがこの遺跡修復にかかわってているという説明を受けた。

 

 

 この3枚の写真はコルラの町を離れウルムチへと向かう道中の写真である。左の写真はウルムチの特産である干しぶどうを作っているぶどう棚の写真である。中央、左の写真はまっすぐな砂漠の中の道路の両脇にきれいにポプラの街路樹が植わっている。ウルムチにはこのように街路樹がきちんと整備されている道路が多く、街路樹のほとんどがポプラであった。また、中央・右の写真からもわかるように、道路脇では多くのハミウリ、スイカが売られ、私たちもよく車を止め貴重な水分を味わっていた。

 

 

 この3枚の写真は、孫悟空で有名な火焔山のものである。山の色は炎のように赤く、地層も炎のように波を打って見えるなどが火焔山の由来だそうだ。火焔山付近には山を削った建物があり、中には古代の宗教画が所狭しと描かれている。しかし、宗教の対立などから、宗教画のほとんどは、顔が破壊されていた。右の写真は、寺院後方の砂丘を登山したスナップである。山岳部出身の福井先生に連れられて登ったが、獣道のような登山道を一歩それると足は灼熱の砂の中にめり込み、登るのには非常に苦労した。1時間以上かけて登った山だが、下山は15分ほどである。しかし、私は登山道をそれてしまい、斜面を転げ落ちるようにして足を砂の中にのめりこませながらの下山であった。久保先生はその様子を下から中国科学院の方たちと楽しそうに眺めていた。

 

 

 ウルムチの町の様子である。中国にいながら、イスラム系の人が多くここが中国であるのかが分からなくなるほどであった。町の屋台では果物やシシカバブ(羊の肉の串焼き)が売られている。夕方から夜にかけて市が立ち、夜遅くまで町はにぎやかである。

 

 

 この3枚は、天山山脈を訪れたときの写真である。山をひたすら登り、景色が開けたところで突然湖が現れた。中国科学院の方の説明によると、冬になるとスケートのナショナルチームがこの湖を使い練習を行うとの事である。写真では分からないが、標高が高いため、景色のきれいさにうかれて激しく動き回っていると高山病になると脅されていたが、たかをくくっていたら天山山脈を離れる時には吐き気に教われ、確かに高山病のような症状になった。

 

 

 次には、ウルムチから飛行機で広州まで移動した。これら3枚の写真は現在中国で最も発展段階にあるシンセン・香港の写真である。左の写真は鉄道のシンセン駅であり、中央はシンセンと香港の国境を上から捉えたものである。分析のところで出したように、香港とシンセンの画像の土地被覆分類を行った結果、香港・シンセンの国境はシンセン側は完全な市街地となっているが、香港側は無理な市街地は建設せず、湿地を中心とした土地利用となっていることが、このグランドトゥルース取得からも明らかとなった。ここに、国の政策としての土地利用が考えさせられる。左の写真は左側がシンセン、右側が香港の国境を渡る河上の橋である。

 シンセン・香港での調査の目的は、衛星画像のグランドトゥルース取得及びGCPの取得である。こちらも調査も中国化学院との共同プロジェクトの一環として行なわれ、衛星画像で判別が困難な画素が何をさしているのかを、実際に現場へ赴き、画素の特定を行なった。

 シンセンは香港と接した町であり、ここ20年間で中国の中で最も発展し、経済面でも急速に伸びた経済特区である。国の政策でもあるが、シンセンの町の土地利用は急激に変化し、それを時系列の衛星画像を使って把握しようとするのがこのプロジェクトの目的である。急速に変わる土地利用を正確に把握するためにも、グランドトゥルースデータの取得は欠かすことが出来ないことである。

 

 

 これら3枚は、シンセンの街の様子である。左側の写真から分かるように、街の中心市街地は高層ビルに覆われ、片道4車線の整備された道路が走っている。しかし、中央の写真から分かるように、中心部の高層ビル郡から一歩離れるとそこは荒地、バラックが存在する。また、右側の写真もシンセンが発展途上であることを象徴しているものだが、遠くに見えるビル郡の手前は、更地である。この土地には、道路が建設され、海が埋め立てられ、さらに市街地が拡大していく。

 

 

 最後に香港の写真である。香港はシンセンとの境には都市域は存在しないが、いったん市街地かされた場所は高密度な都市域を形成する。しかし、都市の中には多くの公園も存在し、住民の生活にも十分な配慮がされている。