1998年森泰吉郎記念研究振興資金 博士課程研究助成金 研究成果報告書

研究課題:「災害時における民間商業施設活用可能性に関する検討」

政策・メディア研究科

博士課程3年 89666116

澤田 雅浩(sawada@sfc.keio.ac.jp

 

 研究目的と概要

 阪神大震災ではコンビニエンスストアやスーパーマーケットをはじめとする商業施設、一箱小売店舗が、可能な限り早期営業再開をはたし、不自由な生活を強いられていた多くの市民の生活をサポートすることとなった。これら商業施設は食料、飲料水、日用雑貨等の供給のみならず、食糧危機による暴動発生の抑止、震災による便乗値上げの低減効旺、物価安定などももたらした。  

 以前から神戸市では災害時の飲料水、食料、日用雑貨の確保のための保管備蓄が不十分であったため、先の阪神淡路大震災では流帳備蓄に大きく依存することとなった。流帳備蓄を支えるはずであった被災地内の供給業者も、被災者と同様震災による影響を受け、結旺的に自治体、自衛隊、各種公共団体からの救援物資の配給は滞ることとなった。地域防災計画が災害時のマニュアルとして不十分であったことを示すのみならず、行政のみによる防災対策の限界をも露呈することとなった。

 そのような状況下で、スーパーマーケットやコンビニエンスストアといったフランチャイズドチェーンの小売店舗が可能な限り早期開店営業し、行政を補完する形で飲料水、食料、日用雑貨の供給した。都市直下型広域地震災害という極限状況においてもきめ細やかなサービスを提供できたことから、これらフラ ンチャイズドチェーンが普段から培ってきたノウハウが災害時においても有効であることを示している。

 そこで本研究では東京都中野区弥生地域におけるコンビニのフィールド調査および飲料水に関するケーススタディー行い、災害時のコンビニ活用の有効性と可能性を検討した。

 

 対象地区

 ここでは、東京都都市計画局発行の「地震に関する地域危険度」において、総合的に災害時の危険性の高い地域のうち、東京都中野区弥生地域をフィールド調査の対象地域とした。対象地域内にはチェーン店系のコンビニが6店舗、それ以外のコンビニが3店舗存在している地域である。 

 対象地区の飲料水給水体制

 中野区の地域防災計画では小中学校等が災害時の避難所として指定されている。この避難所の受水槽や、避難所に指定されていない地域センターや幼稚園などの受水槽が水源として確保されている。その他には中野区北部にある野方給水塔から給水車によって避難所へ給水される飲料水も水源として取り上げることができる。基本的に給水は避難所で行われることとなる。

 また、東京都による飲料水の給水体制について考えると、中野区弥生地域は中野区が策定した地域防災計画上の区分けによるため、東京都の地域防災計画の区分けとは異なる。そのため弥生地域の住民は二つの異なる広域避難場所に避難するように指定されている。各広域避難場所には対象人口が定められており、現行では全住民を収容することは不可能である。また、給水は広域避難所内もしくはさらに他地域に立地する水源で行われるため、給水対象は実際に避難した住民のみである。

1に中野区と東京都による飲料水の給水に関する役割分担を示す。水源の種類により各々の役割が微妙に変化し、複雑化している様が明らかである。

1 給水に関する行政の役割分担

 

 表2に地域防災計画に定められた確保飲料水量を示す。弥生地域への給水量の算出に当たっては、町丁別住民基本台帳を用いた。表からも分かるとおり、弥生地域への給水量の大部分を地域外の水源に頼っていることは明らかである。阪神大震災では地震発生直後からの数日間、飲料水の確保が最重要課題であった初期の混乱期において、指揮系統が麻痺し、道路施設の崩壊からも給水車の利用が困難であった。直下型地震災害が東京を襲ったと想定した場合、地域外の水源に飲料水を頼るのは危険であると考えられる。

2 地域防災計画に定める飲料水源

 

 中野区弥生地域におけるコンビニのフィールド調査

 ここでは、中野区弥生地域のコンビニのフィールド調査結果より、1店舗あたりの確保水量を表3に示す。このフィールド調査では商品の在庫状況や配送回数、営業管理システムや防災計画の有無などもあわせて調査しているが、ここでは飲料水として利用可能である、清涼飲料水並びにミネラルウォーター、その他の飲料(但しアルコール飲料はのぞく)の結果を示すのみとする。尚、下表(以下同様)では、チェーン店系のコンビニをCVS、それ以外のコンビニをその他としている。また、表4には弥生地域全体でのコンビニによる確保水量を示す。

表3 1店舗あたりの確保水量

4 地域全体での確保水量

 

コンビニ活用の有効性に関する試算

 ここでは、調査結果を踏まえて、コンビニが広域災害時の初期における飲料水供給拠点として利用する場合の有効性を考える。その前提条件として、表5に示すようなケースの設定を行った。まず、現状で有効に機能する水源は弥生地域内に水源が存在するもののみと限定する。これは、阪神淡路大震災でも問題となったように、甚大な災害が発生した場合には地域外水源から初期の段階で飲料水を確保することが困難であると考えられるからである。ケース1では、CVS及びその他のコンビニが店舗内に確保する水量に関してのみ、住民に対して無事に供給可能であると仮定する。つまり、各店舗の早期営業開始が行われたという前提である。ケース2では、CVSに限り、配送による飲料水の追加確保が可能となると仮定する。つまり、交通渋滞、流通経路の確保などの問題をある程度解決し、初期輸送が可能であるとの前提である。

表5 ケース設定

 このケースのもと、具体的な有効性の検討を行う。東京都地域防災計画における、広域地震災害時の応急給水目標は1日1人当たり3リットルの飲料水を供給するというものである。この条件に従って試算した結果が表6となる。ケース1では現状に比べて供給可能人数が4000人増加し、ケース2では5000人増加することとなる。震災発生直後の飲料水確保水源の一つとして、これらの施設が有効となりうる可能性を十分に示すこととなった。また、アクセシビリティーの観点からも、認識の容易さからも、非常に有効な拠点となることが予想される。

表6 試算結果

 

まとめ

 今回の研究では飲料水に限定してコンビニの有効性を検討したが、コンビニが在庫している食料品、日用雑貨に関しても同様の効果が期待される。

 飲料水源としてのコンビニの可能性にはさまざまな側面があるが、水量の増加のみならず、飲料水の給水拠点増加による効果は大きいと考えられる。また、地域防災計画に定められないコンビニ等商業施設を水源として認識することにより、応急給水活動に幅を持たすことが可能となり、多重のバックアップシステムを地域全体で確保することとなる。

 前述したとおり災害時の活用を考える際、コンビニにはさまざまな長所と短所がある。情報機器をはじめとするハイテクノロジーが凝縮してるため、情報拠点としての活用が検討されるべきであるが、その際、電力や通信回線の確保が問題となってくると思われる。また、食品の供給面では生ものが在庫に多くないことから、配送の有無に大きく左右されるいう不確定要素も持ち合わせている。

 従来の地域防災計画に定める防災能力を補完するうえでは十分機能すると思われるが、単独としても機能し防災拠点として地域住民に広く認知されるためには、いくつかの施設的なバックアップを施す必要があるといえる。また、有事の際のマニュアル策定、防災教育の徹底など、ソフト面での対策も検討されるべき重要な課題である。