研究成果報告書

　

研究課題名：大脳皮質モデルの構築とそれを用いたシミュレーション

　

所属:　慶應義塾大学政策メディア研究科　博士課程3年

学籍番号：　89666235

氏名：　原淳子

　

　

研究目的

本研究では詳細なヒトの大脳皮質の解剖学的データを数理的に解析し、(1) ヒトの大脳皮質が発達していく過程においてどのようなルールが適用されているか、(2) またそれぞれの脳エリアは成長の過程においてどのように関連して成長していくのか、等についての解明と数学的な説明を行うことを目的としている。また、大脳皮質全体をシミュレートするための予備研究として、解析から得られた結果や既知の研究結果を応用して、特に視覚野に対して(3)大脳皮質の成長に伴う情報伝達の変化や電気的活動の変化をシミュレートするためのプロトタイプモデルを構築する。

　

研究成果

目的(1)(2)達成のために、解剖学的データ、特に神経細胞密度、に対して相関係数分析、神経細胞比率計算等を応用した（解剖学的データは、生後6歳までの8時点、また各35大脳皮質領域に対して与えられている）。また、解析結果に基づき、各言語、視覚、聴覚領域に対して、比較研究が行われた。その結果、(a) 同じ機能を担う大脳皮質どうしはそうではない大脳皮質に比べ高い相関をもって成長する、(b) 同じ機能をもつ大脳皮質間でも物理的距離の近い方がより高い相関をもつ、ということが分かった。さらに、各大脳皮質層内に存在する神経細胞の数の比率は、各皮質層のもつ機能（例えば、情報のフィードフォーワード、フィードバック機能）に非常に関連しているということが分かった。次にこれらの結果にミエリン化のデータ解析を追加し、脳内ネットワーク予測を行った。その結果、解剖学的データの数理的解析から得られたネットワークは、これまでにPETやf-MRI等を用いた実験から得られた結果と一致することが分かった。また実験からは分からなかったネットワーク結合も導くことができた。目的(3)の達成のために、Douglasらによってすでに構築されている大脳皮質コラムネットワークの再構築を行い、神経細胞膜電位変化、電流変化のシミュレーションを行った。また、構築されたモデル、(1)(2)において得られたネットワークを用い、言語関連領域の皮質ネットワークを構築した。さらに、ネットワーク上で神経細胞膜電位変化のシミュレーションを行った。これらの結果は、実際の実験から得られた結果と一致しており、今後の研究発展は非常に期待される。

　

研究発表等

上記の研究結果は以下の論文、学会で発表（予定）である。

発表論文

  1. Landing, B. H., Shankle, W. R., Hara, J., “Constructing the human cerebral cortex over infancy and childhood: Types and numbers of cortical columns, and numbers of neurons in such columns at different age-points”, Acta Paediatrica Japonidca, 40(6), pp. 530-543, 1998.

  2. Shankle, W. R., Romney, A. K., Landing, B. H., and Hara, J., “Developmental Patterns in the Cytoarchitecture of the Human Cerebral Cortex from Birth to Six Years Evaluated by Correspondence Analysis”, PNAS, 95, 4023-4028, 1998.

  3. Hara, J., Shankle, W. R., Fukuda, R., Yamauchi, K., and Tomita, M., “Correlation analysis of the neuron number in the human cerebral cortex and infant language development”, JCSS98 (in proceedings), July, 1998.

学会発表

  1. Hara, J., Shankle, W. R., Fukuda, R., Yamauchi, K., and Tomita, M., “Language development over infancy and childhood and laminar changes of neuron number”, 15th Japanese cognitive science society, Poster presentation, Nagoya, June 1998.

  2. Hara, J., Shankle, W. R, Fallon, J. H., Landing, B. H., Fukuda, R., Yamauchi, K., Tomita, M., “The correlational structure of the laminar distribution of neuron number in the developing postnatal human cortex”, Society for Neuroscience, Los Angeles, November, 1998.

  3. Shankle, W. R., Landing, B. H., Fallon, J. H., and Hara, J., “Postnatal doubling of human cortical neuron number from birth to 72 months”, Society for Neuroscience, Los Angeles, November, 1998.

  4. Fukuda, R., Hara, J., Shankle, W. R., Inui, T., and Tomita, M., “Predicting human cortical connectivity for language areas using the Conel database”, IJCNN99, 1999.