1998年度 森基金報告書

研究育成費(修士課程)

 

 

研究課題 「タイ北部における女性支援活動−マイクロ・クレジットを事例として」

所属 政策・メディア研究科 修士2

所属プロジェクト 近代日本とアジア・北太平洋

氏名 中田好美

学籍番号 89732240

 

研究概要

本研究は、「ジェンダーと開発」の視点から、効果的な女性支援方法を検討するものである。参与観察などからなるフィールドワークをもとにして、女性支援活動に対する評価基準を提案することを目的としている。

現在、「ジェンダー」概念を開発において考慮に入れることが必要とされている。その理由を以下に挙げる。第一に、世界的に「貧困の女性化」が起こっていることが挙げられる。この用語は、女性は男性と比較すると、より貧困に陥りやすい構造があることと定義される。構造的な女性の貧困を解決するためには、ジェンダー平等を目指した開発を行なう必要がある。第2点として、従来の開発における「世帯」概念が、先進国によるステレオタイプであることが指摘されている。女性の家計に対する貢献は非常に大きいにもかかわらず、その貢献は無視されてきたのである。女性の労働力を人的資源として有効に活用することは、地域開発において重要なことである。

タイ、チェンマイ県において、いくつかの女性支援活動を行なう組織を訪問し、調査を行なう。それらの組織は、NGO、政府機関、教育機関、企業など多岐に渡る。農村部の女性の収入を増加させる活動・支援は様々な場所で行なわれている。タイにおいては、農村部の貧困が深刻化したこと、雇用や十分な収入がないために性産業に従事する女性が増加したこと、エイズの蔓延による女性世帯の増加などから、女性の経済的社会的地位を向上させるような支援が必要であるとされている。

 


評価項目

具体的内容

実際的ジェンダーニーズ

1

収入の向上

2

ネットワークの構築

女性グループの組織化

戦略的ジェンダーニーズ

1

収入の向上

最低賃金を満たす

2

ネットワークの広がり

より広い地域ネットワークの構築

3

ネットワークの深化

性別を越えたネットワークの構築

4

女性たちの自立的な経済活動

他組織への依存性を弱める

 

女性への経済的支援活動を有効に行うためには、活動に対する評価基準が必要である。ここでは、経済的な支援に限って評価を行うこととする。評価基準としては、「収入の向上」「ネットワークの構築」「自立的な経済活動」を、実際的ジェンダーニーズと戦略的ジェンダーニーズとに分けて基準を設けた。(上記の表を参照)実際的ジェンダーニーズとは、現在、一般的に女性の役割として認識されている母・妻という役割から認識されるニーズである。医療や母子保健などは、女性の母役割、または家族を守る役割から生じるニーズである。戦略的ジェンダーニーズとは、女性であるがために満たすことが困難となるニーズである。例えば、女性は、通常土地などに関する権利を持たないために、銀行から融資を受けることが困難である。この2者を分類することによって、何が女性の自立的な経済活動にとって必要なのかを明確に把握することが可能となる。修士論文では、これらの評価基準によって、実際に調査を行なった組織の評価を行なった。

開発過程における「ジェンダー平等」を目指すことによって、「貧困の女性化」を少しでも緩和することが可能となるだろう。そのためには、これまで「発展」に対して貢献していないと評価されていた女性の働きを見直し、彼女たちも開発に参加できるようにプログラムを組みたてる必要がある。そこで重要となるのは、いかに開発プログラム・実施においてジェンダーを考慮に入れるかという点である。この研究では、評価基準を設定することによって、開発においてジェンダーを考慮に入れることを目指している。

 

現地調査の概要

1998年夏にタイで調査を行う。約1ヵ月半の滞在期間中、政府機関やNGOなどの女性支援活動を行う組織を訪問し、スタッフやコーディネイターとの数回に渡る面接調査を行う。また、それぞれの組織が活動を行う村を直接訪問し、女性たちの日々の生活や経済活動に対する参与観察を行う。同時にアンケートを行い、収入や家族などの詳細を調べる。また、聞き取り調査によって、生活状態や活動に参加するまでの経済活動などに関しても調査を行い、理解を深めた。

これらの成果は、修士論文としてまとめた。役に立つ論文を目指しているため、調査対象組織へのフィードバックをなるべく実行した。

 

森基金で得た資金によって、タイでの現地調査に必要となる備品を揃えることができた。また、その他にも資金をデータベース用写真の現像代や調査アシスタントへの謝金、研究に必要となる書籍の購入などへと充てた。