研究計画案 久保裕也 1997/09/17 "Physis & Nomos" ---------------------------------------------------------------- 1. 研究の大筋 『私家版ポストWeb』を開発する。 "Physis & Nomos" (それぞれギリシャ語で「自然」「人為」の意味) 等といった名前のコミュニケーションウェア・アプリケーション群を作成中である。 これらをいろいろな所で実際に利用してもらう。 現在はこの『私家版ポストWeb』のうち、DBMSとそのWebインターフェイスとして、 Nomos0.9α版を開発中である。 この経験を通じて、ネットワーク上のコミュニケーションを有意義なものにする 鍵となる要素技術や、そうした環境を維持してゆくのに必要な デザインパターンについて、研究開発と評価を行う。 -- 各種の技術分野について、それぞれが持つパラダイム、 社会的機能や文化的意義のようなものを分析して整理する。 また、それらの将来性や、活用の方策を調査した上で、 私家版ポストWebシステムの要素としての利用の可否を検討する。 私家版ポストWebシステムとして、 ネットワーク上の情報や、ユーザー達の関係性の構造を、 MVC的な発想でオブジェクトとして扱うコミュニケーションウェアを、 マルチサーバ・マルチクライアントの分散オブジェクト環境に構築する。 このようにして、ポストWebのグランドデザインを示す。 あわよくば、ポストWeb的地位を目指す。 2. 研究コンセプト(主張) 万人に「関係性」という問題の存在を気付かせた黒船:WWW WWWというものは、以下の3点について文化的意義があるのではないか。 ☆homepageというメディア:「私は誰、私は誰、私は誰…」 @describe me, ~/.plan 「自分と世界の関係性に悩みつつも自らを記述し続けるユーザ」 という存在を、そこかしこに開拓 ☆HTMLという経験: ユーザーレベルで情報を記述する共通言語の獲得 ☆HTTPという共有財:「世界中どこでも、どのOS上でも」通用する プロトコルと、サーバ、クライアント、周辺技術のインフラ。 ポストWebの模索は、こうした文化的意義をふまえた上で、 その方向性を引き継ぎ発展させるような形で、 各要素を次世代技術に置き換えてゆくような作業となるべき。 (マルチメディア化、プッシュ技術による情報配信、電子商取引などは、 ここで述べているWebの本質とは無関係の、周辺技術であると思った方が良い。) 3. 研究の着眼点 ポストWeb開発の手がかりは、 『各ユーザが、ネットワーク上の情報や、自分や他のユーザー達との関係性の構造を、 記述・視覚化・編集できるための基盤』 というものを、いかに実現するかという部分にある。 4. 研究の意義 着眼点である『関係性の構造の、記述・視覚化・編集』の実装に対しては、 以下に挙げるような具体的ニーズが存在する。 (このいずれかを修士論文とするのが妥当かも…) ・今後の情報社会においては、「公的情報」「私的情報」の境界を引く仕組みを、 誰がどうやってどのようにデザインするか、という問題は、 社会的に重大な影響(一種の政治力)を持つ。 この作業を効率化したり、誤謬を防いだり、 民主的に行えるようにするための要請がある。 ・業務用システム分野における 情報を構造的に記述したり視覚化したり編集することで、 業務の効率化を図るアプリケーションの要請がある。 ・自分の周囲の関係性を構造化すること自体が快楽である、 ということによる、エンターテイメント的な要請がある。 5. 先行研究・事例の状況 関係性の構造化--「構造化した関係性の記述、視覚化、編集」: ☆オブジェクト指向〜という道具:「知的構造物」を組み立てる時の魔法の杖。 関係性の構造化--構造化した関係性の記述、視覚化、編集という問題を 扱う試みが、ソフトウェア工学の中には連綿としてある。 特に、オブジェクト指向でのGUIプログラム開発工程における 設計のフレームワークに、MVC(Model,View,Control)という、 メタレベルのデザインパターンが捻り出されるまでの経緯が面白い。 また、企業経営や組織コンサルティングの場面でも、オブジェクト指向の 概念を利用して、関係性の構造化--記述、視覚化、編集を行うという手法 が普及しはじめている。これも面白い。 今後5年くらいの間に、オブジェクト指向概念をいろいろな現場で応用する ブームが起こりそうな気配…。 しかしこれらの、「構造化した関係性の記述、視覚化、編集」という問題自体を、 Web的に分散的主体によって情報構築がなされるシステム上に展開して考えた 事例はまだない(と思う)ので、これを実装したい。 また、そうした作業と並行して、ソフトウェア工学に限らず、 そもそもの原典であるアレグザンダーのパターンランゲージ以来の、 「構造化した関係性の記述、視覚化、編集」の試みの歴史を調べながら、 多人数の参加によって知的構造物を構築・維持してゆくための 一般的なパターンを抽出できれば面白い。 6. 技術的な「こだわり」の主軸をどこにするか。 ・シングルマスタvsマルチマスタ、多人数によるDBMS上の情報更新 ・知的関係性、コミュニケーション関連オブジェクトの MVCモデル化におけるテンプレートの作成 ・一般ユーザがオブジェクトを定義できるようなインターフェイス開発 # 基盤技術のトピックには触れていたいが、 # そうした基盤技術のイノベーション競争への参加自体にはあまり興味がない。 # 一般社会で実際に利用されるアプリケーションの開発などによって、 # 技術の発展と応用事例の広がりのサイクルに主体的に参加することをしたい。 # (就職しろって?) 7. 具体的な計画 とりあえず、これまで通り、下流工程部分を作り続ける。 機をみて、参加している組織や仕事先の企業などでシステム導入をし、 上流工程部分での経験を積んでいく。 作成したシステムはフリー・シェアウェアとして公開する。 8.進捗状況 http://www.sfc.keio.ac.jp/~hiroya/nomos/ http://www.sfc.keio.ac.jp/~hiroya/Physis/ として公開。