計算機における資源分配モデルの選択機構とその可能性

慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科
修士課程2年
遠山緑生


研究概要

計算機上のソフトウェア、特にシステムソフトウェアにおいては、限りある資源をいかに効率よく公平に配分するかというのが大きな課題である。例えば、CPUや主記憶の資源配分はオペレーティングシステムの古くからの問題である。比較的最近大きなトピックになっているものとしては、ネットワーク資源の要求に対する適切な配分を実現するためのQoS(Quality of Service)の課題などがある。

通常これらのソフトウェアでは、それぞれの利用用途に応じた特定の資源配分アルゴリズムを固定的に用いている。しかし今後の分散システムの利用環境などでは、様々な目的に多くのユーザが同じシステムを利用する環境がより広まる。本研究では、これらの資源配分アルゴリズムを固定的に用いるのではなく、参加ユーザの要求や意図に基づいて、動的に適応し、アルゴリズム自体を入れ替える事を可能とするようなメタ・ポリシー機構を提供する事で、柔軟性の高い資源配分を可能とする機構の実現を目指す。

また、これらの資源配分を行うアルゴリズムや機構がユーザにとって明確に理解可能な形で見えるようにする事で、計算機システムに対する教育的な目的に利用可能な環境を提供する。

本研究ではこのようなシステムについて、具体的な配分対象の資源としてCD JukeBox の制御権に関して、このような資源分配機構の実装を行う。


CD JukeBox 制御システムの概要

本研究では、CD JukeBox を資源配分の対象として利用したシステムを構築している。資源配分対象としての CD JukeBox を、TCP/IPネットワークを通じて広範囲な場所から利用可能とし、そのCD JukeBoxの利用権を資源配分の対象と考えたシステムを構築している。

図1にシステムの概要を示す。


システム概要図

図1: システム概要


本システムでは、200連奏のCDチェンジャーを制御用コンピュータよりコントロールする。制御用コンピュータはWWWページとAppletを通じて、このJukeBoxの制御を、TCP/IPによるネットワークを通じた広域の場所から制御可能とするユーザーインターフェースを提供し、この制御に複数人が参加可能とする。複数人による様々な要求に対して、実際にどのようにCDチェンジャーを制御する資源配分のポリシーをモジュール化する事で、広域の多数ユーザからの、各時点での要求に適応した動的なポリシー変更を可能とする。

今回実装した CD JukeBox システムは次に示す要素からなる。

  1. 200連奏CDチェンジャー Sony CDP-CX200F
  2. 制御用コンピュータ
  3. クライアントコンピュータ

システムの要となるのは、制御用コンピュータである。このコンピュータが本研究の目指す資源配分機構の実現と、そのユーザインターフェースおよびCDチェンジャーの制御を行う。

制御用プログラムの実装と構成

CD JukeBox の制御用プログラムは、制御用コンピュータで動作する制御用サーバと、ユーザのWWWブラウザで実行され、ユーザインターフェースを提供するJAVA Appletから成る。

実装はJava言語を用いて行った。CDチェンジャーの制御には、JAVACOMMを用いてシリアル通信を行っている。現在制御用コンピュータとしては、Sun社のUltra2ワークステーションを利用している。

制御用コンピュータによるCDチェンジャーの制御

本システムで利用しているCDチェンジャーである、CDP-CX200Fは、コンピュータからシリアル接続を行うことで、その装置制御と状態管理が可能となっている。しかし、専用ソフトウェアの利用が想定されているため、今回はこの制御プロトコルの解析を行い、本研究用に作成した制御プログラムから制御を行っている。

Appletによるユーザインターフェースの提供

制御用コンピュータは、ユーザに対してWWWページと制御用Appletを提供する。これらのページとAppletは制御用コンピュータのWWWサーバから、ユーザのWWWブラウザにダウンロードする。 Applet は分散オブジェクトシステムであるHORBを用いた通信を制御用コンピュータのCD制御プログラムを行う。

これにより、ユーザはJAVA Appletに対応したWWWブラウザを用意することで、 接続可能なネットワークからこの CD JukeBox を利用する事ができる。

資源配分ポリシーのロード・切り替えを行うメタ・ポリシー機構

資源配分ポリシーは、その切り替えとローディングを行うメタ・ポリシー機構によって、ユーザの利用状況と要求に適応した形で、動的にローディング・切り替えを行う。 個々の資源配分ポリシーモジュールは、特定インターフェースを実装したJAVAクラスの形で用意する。JAVAクラスローダをメタ・ポリシー機構が制御し、 これらのモジュールのダウンロードを行う。

出力音声データのユーザへの配信

制御された結果のCDチェンジャーからの音声出力は、RealAudioシステムを用いて、 参加しているユーザにネットワークを通じて配信する。 ユーザはRealAudioプレイヤーを用意する事で、制御結果の音声出力をネットワークを通じて聴くことができる。

実装の進行状況

現在、本システムを構成する制御用サーバおよびユーザインターフェースのプログラムは実装中である。進行状況は、CDチェンジャーの制御部分はほぼ完成し、単純なユーザインターフェースも提供している。ネットワークを通じたCD JukeBox の基本的な制御は行えるようになっている。資源配分ポリシーは現在単純な横取り制御のアルゴリズムを直接組み込んで利用しているため、これをメタ・ポリシー機構によって置き換え可能なものとする部分を実装している段階である。

成果物の内容と配布

本研究で実装を行ったCD JukeBox のプログラムとプロジェクトの紹介は、以下のWWWページで行っている。まだ実装途上のため現在は行っていないが、全てフリーソフトウェアとしてダウンロード可能にする予定である。 実際に稼働しているシステムを利用可能とするWWWページを用意しているが、音楽著作権の問題があるため特定ネットワークのみからアクセス可能としている。


Norio Touyama
Graduate School of Media and Governance, Keio University, Japan
E-mail:next@tom.sfc.keio.ac.jp