6.参考(パルス伝達型ニューラルネットワーク)

本研究の一環として週に一度, Pulsed Neural Networks (MIT Press)をテキストに勉強会を行った要点を以下にまとめる.

6.1 活動電位と静止膜電位

生きている細胞の内側は,細胞の外側よりもマイナスに偏った電位が測定できる.この細胞内外の電位差は,細胞の内側と外側とでイオンの組成と濃度が異なることにより生じる.このマイナスに偏った電位を静止膜電位という.一方,ニューロンには「興奮する」という独特の現象がある.ニューロンが興奮すると,活動電位というパルス状の電機が発生する.

6.1.1 イオンの役割

前述の静止膜電位,活動電位はどうして生じるのであろうか?これにはイオンが関係してくる.

軸索の膜の両側にあるイオンには,カリウム,タンパク質陰イオン,塩素,そしてナトリウムがある.そして,通常膜の内側には陰イオンが過剰に,外側には陽イオンが過剰にある.このため,およそ−70mvほどの静止電位が生まれる.ところが,イオンは自然に拡散して電荷や濃度を均一化する傾向になるため,何らかのエネルギーによってこの傾向に逆らわなくてはこの電位差を維持することはできない.その傾向に逆らう代用的な物としてナトリウムポンプが知られている.細胞膜はカリウムや,ナトリウムイオンを選択的に通すことができる特別の穴(チャンネル)が膜を縦貫して沢山開いており,細胞は必要に応じてこの穴を開閉することでポンプとしての役割を果たす.

ニューロンが興奮状態にあるとき,細胞内外のイオンの様子はどうなっているのであろうか?ニューロンが興奮状態にあるとき,細胞膜のナトリウムイオンのチャンネルは一斉に1msほど開く.また,ナトリウムイオンは静止状態において,外側の方が濃度が高いので,チャンネルが開くと一過性に細胞の内側に流れ込もうとする.そのため,電位の平衡状態が変化して,細胞の内側に逆転する.これが活動電位である..1ms後には,ナトリウムイオンチャンネルは閉じ,カリウムイオンチャンネルが開くため,電位は再び元に戻る.

6.2 活動電位の伝播

活動電位は軸索に分布するナトリウムイオンチャンネルが次々と開くことによって,他のニューロンへと伝わる.では,ナトリウムチャンネルはどのように次々と開いて行くのであろうか?軸索に活動電位が伝わるには電位依存性チャンネルと脱分極という現象関係する.電位依存性チャンネルとは,細胞内の巻く電位がプラス側にシフトすると,勝手に開いてしまうナトリウムチャネルのことである.また,脱分極とは,ある場所で発生した活動電位によって,隣接した膜の内側の静止膜電位がわずかにプラスにシフトすることである.脱分極の大きさがある閾値を超えると,その場所の電位依存性ナトリウムイオンチャンネルが一斉に開き,新しい活動電位が発生する.新しい活動電位が発生すれば,またその隣の場所でも活動電位が発生し,まるでドミノ倒しのように活動電位が伝わって行くのである.しかし,どうして,一方方向に電位は伝わって行くのであろう?細胞膜でいったん活動電位が生じた場所は,約3msの間興奮できない状態になる.これを不応期と呼ぶが,この不応期があるため活動電位は一定の方向に伝わって行くのである.

6.2.1 シナプス

軸索の末端は,次の細胞の樹状突起か細胞体部の膜とシナプス結合をしている.結合とはいっても細胞膜同士が直接つながっているわけではなく,シナプス間隙を隔てている.そのため,活動電位は一旦,化学物質へと形を変えて伝達される.

6.2.2 EPSPとIPSP

シナプス間隙を超えてきた化学信号(物質)は脱分極によってシナプス後膜にシナプス後電位(PSP:Post-Synaptic Potential)を生じさせる.シナプス後電位は距離と時間の経過とともに消えるが,この信号は他のシナプスからきたPSPと統合される.このシナプス後電位には2種類有り,神経伝達物質と,それが結合する受容器の種類によって決まる.ある種の伝達物質がシナプス間隙を超え受容器と結合した際に,シナプス後膜の内側の電位を通常よりもプラスに傾ける脱分極を起こす場合.この脱分極を興奮性シナプス後電位(EPSP: Excitatory Post-Synaptic Potential)といい,シナプス後膜が活動電位を起こしやすい状態に導く.一方,シナプス後膜の内側の電位を通常よりマイナスに傾ける過分極を起こす場合.この過分極を抑制性シナプス後電位(IPSP: Inhibitory Post-Synaptic Potential)といい,シナプス後膜が活動電位を発生しにくい状態にする.

これらのシナプス後電位は軸索小丘という場所で最終的に統合され,電位が閾値に達するとニューロンが活動電位を発生し,軸索にそって信号を送り出す.

付録 パルスニューラル勉強会参加者一覧

青葉雅人 SFC研究所研究員
岡宗一 政策・メディア研究科 博士2年
茶志川孝和 政策・メディア研究科 博士1年
吉池紀子 政策・メディア研究科 修士2年
北端美紀 政策・メディア研究科 修士2年
坂口琢哉 政策・メディア研究科 修士1年

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