1999年度森基金 国際共同研究 結果報告書 タイトル: メディアアート作品“flow#8: Seoul Project”の制作/展示を通しての国際 文化交流 代表者:岩竹 徹 プロジェクトNo.:国際-1 プロジェクトコード:82032090104 <本研究制作の目的> 98年の韓国の文化政策改革による韓国国内における日本文化の開放にともな い、本年9−12月に韓国で初めて開催される日本現代アート展「Fancy Dance: Contem-porary Japanese Art After 1990」展【主催:韓国ソンジュ文化財団, 協力:国際協力基金,協賛:資生堂】に、日本を代表する若手作家として、当プ ロジェクトの大学院生および研究員が招致され、作品の出品を依頼された。 本研究目的は、このメディアアート作品“flow#8: Seoul Project”の制作お よび、日韓文化交流という主旨の本展覧会での展示を通して、国際レベルでメ ディアアートの領域における文化と精神の相互理解を図ろうとするものであっ た。 <作品制作から発表まで> ○ 設置場所の選定 −第一回目の渡航 作品を発表するにあたって、設置場所を決定するために99年3月中旬にソ ウルへ渡航した。パブリックスペースで展示することがコンセプトの重要な意 義をもっているため、美術館外での設置場所を必要とした。 5日間に渡り美術館のアシスタントキュレータ−と共に適切な場所を選出して 歩き、候補をあげ、その場所を借りるための申請願いを出して帰国した。 ○ 作品の制作 ●照明ボックスカー制作(担当/田中) コンセプトに近い照明を実現する装置を制作するため、千葉県松戸市にある 松下電工の照明研究所を福田忠彦環境情報学部教授のご紹介でお借りし、数回 にわたる実験を繰り返した。結果、食品などを撮影する際に用いられる高輝度 の蛍光管を使用することに決定した。 またバギーカー専用タイヤ8本と中古のサスペンションとフロントアームを 購入して鉄工工房に持ち込み、フレーム部分と組み合わせる作業を鉄工溶接の 専門家らと共に3ヵ月にわたって行いながら制作した。 ●音響デザイン(担当/瀬藤) 都市空間をハードウェアと見立て、世界に遍在する近代的な都市空間にイン ストールされるべきソフトウェア的作品として企図されたこの作品の中で、音 響パートではまず、ソウルの都市空間および生活におけるサウンドスケープ( 街の喧噪、ラジオやTVの音、インターネット上の音素材)を無差別に収集する。 主体的な意味解釈のプロセスを表象するものとして、それらの音に対してMAX /MSPを用いたComp FilterやGranular SynthesisなどのリアルタイムのDSP を施すプログラムを制作し、聴覚的な刺激だけではなく物理的な振動をともなう 重低音が、大音量にて会場を満たした。 ●ネットワークデザイン(担当/山岸) 事前の準備として会場で響かせる音をつくるためのサンプルとして用いるた め、クリス・ペンローズ氏の協力の下、perlとCによるプログラムで、.mp3の サウンドファイルを無差別に収集した。 また当日は、アートソンジュセンターにフリーのRealServerG2をWindowsNT サーバに立て、クライアントのWinNoteからこれもフリーのRealProducerG2 でリアルタイムにエンコーディング・ライブストリームを行った。その際映像は デジタルカメラ、音声はMixerから直接取込んでいる。 日本からのRealPlayerによる視聴は、音については比較的クリアに、映像につ いては韓国−日本の距離が程よいディレイとコマ落ちを引き起こし、逆に魅力の ある映像になっていたようである。 ○ 作品発表 9月6日に設置のために現地入りした。 照明器具の組み立て、調光器のプログラム、配線。ネットワークの調整、配 線。音響設備の設置、音調整。光と音のバランス調整などを済ませ、9日にリ ハーサルを行い本番に備える。 9月10日、11日、展覧会オープニングに合わせパフォーマンスを行う。 非常に多くの人達が訪れる中、展示は公開された。 各装置は想定していたものに近いかたちで機能し、パフォーマンスは、特に大 きなトラブルもなく無事終えることができた。 12日に帰国した後、その状況を記録した映像を編集し、そのビデオを会期中 美術館に展示した。 10月中に終了する予定だった展覧会だったが、非常に入館者数が多く人気が 高かったため、12月中旬まで会期が延長された。 <研究制作の結果及び考察> 会期の延長にみてとれるように、この「90年代の日本の現代美術の現在 展」の人気は高かったようだ。これは明らかに日本文化への興味の高さを物語 るものと言えよう。我々を含め、チーフキュレーターの長谷川祐子氏の意図で 集められたアーティストは、現在の日本の若者の感覚を端的に表象する作品を 出品しており、韓国の若者に文化比較において多いに参考になったであろう。 我々の作品への反応は様々で、インターネットの普及率があまり高くない韓 国において、ネットワークの知識が作品の理解において重要な意義をもつこの 作品は、解釈が容易なものではなかったようだ。しかし、そのような知識をな くしても光の効果や音響に対して自分独自に接し方を見い出してインタラクシ ョンを楽しんでいたようだ。 専門家からの評価は高く、光州ビエンナーレ(韓国内にて隔年で催されてい るアジアで最大規模の現代美術展)のチーフキュレータからの作品出品依頼 を受けたり、国立美術館の館長からも高い評価をいただいた。地元新聞やアー ト関連の雑誌など各種メディアにも写真入りで取り上げられ、高い評価を得て いた様である。 韓国人の現代美術に関する認知度はまだまだ低いようで、現代美術を伝統的な 絵画/彫刻の延長として捉える感が強い印象を受けた。しかし今回の美術展を 通して認識を深めた人は多かっただろうことを考えると、この企画展の果たし た役割は大きく、その作品の中でも最先端の領域に位置していた我々の作品は、 韓国のアーティストに何か新たなヒントを与えたに違いない。 <その他の成果> ○ニューヨーク現代美術館での企画展「dot.jp」(日本のメディアアーティス トを抜粋した企画展)に招待され、会場で映像での展示およびウェブ上で紹介 されるに至った。 http://media.moma.org/dot.jp/ ○またビエンナーレで行われている日本最大の現代美術のコンペティション Philip Morris Art Awardの一次審査を通過し、現在最終審査会のための 準備を進めている。 (2000.2.29現在) 文責:SFC研究所 訪問所員 田中陽明
関連URL:http://www.floweb.org/archive/flow8/img/
上記のURLにて画像ドキュメントがアーカイブ化されている