森泰吉郎記念研究振興基金報告書
マルチエージェントモデルに基づいた証券市場のシミュレーション

ノーベルコンピューティングプロジェクト
武藤研究会
修士1年 岩村拓哉


活動報告
前期は先行論文のサーベイ、証券市場の仕組みや投資家心理、群集心理、ゲーム理論、ミクロ経済理論の勉強と、研究手法についての議論に費やした。
IN-THE-BOXというエージェントベース経済シミュレーションのグループを井庭崇(本研究科博士課程)、島広樹(同修士課程)らと運営した。 その活動を通じて研究仲間を増やし、議論を深めた。

8月にはフロリダで開催されたコンピュータサイエンス、エンジニアリングの国際学会(SCI99)において“Emergence of Cooperative Behavior by Simple Reactive Agents” という題で研究発表を行った。
この研究は単純な構成要素から成るマルチエージェントシステムにおける協調行動の創発について論じている。

後期はIN-THE−BOXの活動からのアウトプットを出すことを心がけた。
エージェントベース経済シミュレーション全般に通じる、コンピュータシミュレーション開発に関する議論を元に具体的な提案を行った。その結果として 11月にはエージェントベース経済学全般における、研究手法についての研究発表を第8回マルチエージェントと協調計算ワークショップ(1999年11月30〜12月1日、京都)にて行った。
この「エージェントベース経済シミュレーションのためのフレームワークデザイン」はマルチエージェントモデルによる社会シミュレーションにおけるプログラミング資源の共有化等を通じ、発展途上にある本領域の研究のあり方を論じたものである。

2月現在、証券市場における投資家心理を表したモデルを考案し、Artificial market based on agents with fluid attitude toward risks and returnsという題の論文を書いた。 International Conference on Computer Simulations and the Social Sciences (Sep. 18-20. 2000, Paris) で発表すべく申請中である。
このモデルは投資家のリスクとリターンについての好みの動的な変化を単純な構造で実現した。 投資家の心理モデルを期待効用理論に基づいて設計し、現実のデータを学習させることで心理要因を取り込んだ証券市場シミュレーションが可能になると考えている。 現段階ではごく一般的な期待効用理論に基づいているが、今後は実験経済学などの知見を参考にしていきたい。 既存の理論をベースにしつつ、証券市場のシミュレーションにおいて心理的なメカニズムを取り扱うことが可能になると考えている。

この研究は私の修士論文の基礎研究と位置づけられる。
来年度はこのモデルを用いたマルチエージェントシステムの構築を行う予定である。

研究発表
Takuya Iwamura, Takashi Iba and Yoshiyasu Takefuji, Emergence of Cooperative Behavior by Simple Reactive Agents, 3rd World Multiconferene on Systemics, Cybernetics and Informatics and 5th International Conference on Information on Systems Analysis and Sysntesis,1999

岩村拓哉、広兼賢治、井庭崇、竹中平蔵、武藤佳恭 「エージェントベース経済シミュレーションのためのフレームワークデザイン」第8回マルチエージェントと協調計算ワークショップ(MACC'99),1999

Takuya Iwamura and Yoshiyasu Takefuji, Artificial market based on agents with fluid attitude toward risks and returns, submitting to International Conference on Computer Simulations and the Social Sciences(ICCS&SS II ),2000