Che タンパク群の相互作用に よるリン酸基の転移、 受容体付近における複合体形成および Che タンパクとモーターのスイッチタンパクの相互作用による モーターの回転方向制御のシミュレーションを行った。
Chemotaxis のシグナル 伝達経路は主要な反応が細胞膜近くで進行しており、物質の局地的な濃度 が反応速度に顕著な影響を与える。 受容体付近とモーター付近の反応モデルについて、それぞれ 均一系を仮定した E-CELL で現実的に扱えるよう工夫をした結果、 前年度は得られなかった、現実に近いシミュレーション結果を得た。
Chemotaxis の概要とモデリングに必要な事項、先行研究、 具体的なモデリング手法、シミュレーション結果、今回の モデリングとシミュレーションにより E-CELL Simulation Environment に 改良が必要と思われた事項を いくつか提案し、修士論文にまとめた。
このシミュレータについて2つの方向性で拡張を試みることにした。 ひとつは、Chemotaxis のもうひとつの 重要な現象である適応を再現することである。 もうひとつは、局所限定性のある反応をより正確に表現するために 拡散反応を処理する機構を導入することである。
刺激への適応は Chemotaxis の特徴的現象であり、これを再現することに よりはじめて、Chemotaxis におけるシグナル伝達の 主な相互作用を網羅することができる。 この現象についての調査を行い、具体的なモデルを提案した。
Chemotaxis に関わる反応のうち受容体とモーター付近 でおこるものは、それらの存在する 細胞膜付近の濃度が反応速度に影響する。 現在 E-CELL はひとつの `System' について均一系を仮定している。 しかし、Chemotaxis のような局所限定性のある反応を含む系については、 局所濃度を表現できるモデルの方がのぞましい。 そこで、反応のおきる `System' を拡散系として扱い、 濃度の不均衡と拡散反応を組み込んでシミュレーションを行なう 方法について具体的に検討し、E-CELLにシミュレーションルールと して実装する方法を提案し、そのために必要なツールを開発した。
今年度の研究で、E-CELL でモデリングする際に信頼できる 計算結果を得るための条件がいくつかあることがわかった。 このモデルで行なう数値計算について、より細かく検証する。
すでに準備研究を終えた、適応機構の表現と拡散系としての 扱いを実装する。
シグナル伝達系は、少ない要素間の相互作用がいりくんだシステムである。 システム解析の手法をシミュレーションの解析に応用し、 シミュレーション結果からより多くの情報を引き出したい。 この系の特徴には以下のようなものがある。
今回はひとつのモーターの回転方向を確率で示すだけにとどまったが、 今後は求めた確率にしたがって複数のモーターの回転状態を表現したい。 モーターを8種の別の物質として定義し、 回転方向の確率を8個程度あるモーター それぞれに分配すれば、菌体全体の挙動のシミュレーションも できる可能性がある。このようなモデルの提案は実験方法の 制約からほとんどなく、シミュレーションによる解析に適している。