1999年度 森基金成果報告書

研究育成費(修士課程)「E-CELL System による大腸菌細胞のモデル化とシミュレーション」

概要
細胞内の全代謝活動についてDNA情報から細胞の実際の活動までを 分子レベルでコンピュータシミュレーションする E-CELL プロジェクトの サブプロジェクトとして、大腸菌の細胞全体をモデル化・ シミュレーションを行なう。 大腸菌は、今まで E-CELL プロジェクトが必要最低限の機能を持つ細胞のモデルとしてきた M.genitaliumに比べ、約10倍の数の遺伝子を持ち、 外界からの刺激に反応する機構も発達している。 より多くの種類のアミノ酸を自力で生成することができ、 ヌクレオチドを基本的な小分子から合成することもできる。 また大腸菌は、生物学界においては原核生物の中で標準に研究される モデル生物として採用されており、 このため生物学的にも遺伝情報的にも既に多くのことが明らかで、 実験結果の文献なども豊富に用意されている。 このため、全ての経路を忠実にモデル化すること、 実験の結果とシミュレーションの結果を詳細に比較すること が可能である。 E-CELL プロジェクトの長期的な目標は、 シミュレーションに必要なデータがそろった後に 真核細胞、多細胞生物と、より複雑な生 物にシミュレーション対象を展開させていくことにある。 それをふまえて、 現在データのそろっている 大腸菌について 生命体全体のモデルとして完成させ、 大規模なモデルのシミュレーションの際にも基盤となるような 技法とプロジェクトマネージメントの方法を開発する。
成果
今年度は、大腸菌の代謝経路のモデリングの完成を目指して 研究を進めた。まず、全体の反応経路図を、酵素などのデータベースや 大腸菌に関する文献から決定した。それをもとに解糖系など 個々の反応系についてモデリングを行なった。
  1. エネルギー代謝系のモデリングとシミュレーション
    ペントースリン酸回路、クエン酸回路、解糖系について シミュレーションを行なった。
  2. 生合成系のモデリングとシミュレーション
    ヌクレオチド合成系、アミノ酸合成系のほかに、 グリコーゲン、脂肪酸などの生合成について調査した。
  3. その他
    シミュレーションルールを EcoCyc などのデータベースから 自動生成するツールを開発した。
展望
今後は、中間代謝や各経路の統合により、 大腸菌の代謝系全体を統合したシミュレーションを行なう。 さらに、物質輸送などの代謝以外の細胞活動についてのモデリングを 検討し、順次加えてゆく予定である。