1.本研究の概要
近年のコンピュータの計算性能の急速な向上は、多岐にわたる画像処理の研究への関心を高め、工学的応用をはじめ認知科学等の分野においても新しい可能性を示している。また、従来のCCDカメラ中心のハードウエア技術を越えて、リアルタイムに物体の動きを検出する人工網膜カメラや、人間の目には見えないいろいろな波長を捉えるハイパースペクトラルカメラなどの新しい画像センシング技術も確立されつつある。
しかしながら、衛星のリモートセンシングや医療MRI等の限られた領域を除いて、これまでの画像処理ソフトウエア開発はセンシング技術と独立した領域で研究が進められてきたため、長年抱えていた画像処理特有の問題を未だ解決できず、行き詰まりが生じているケースが少なくない。例えば、人間が行っているような知的視覚処理は理論的構築が極めて困難であり、その知能を実現できる理論体系が構築されるには長い歳月がかかるであろう。認識系を含む高度な知的処理を行う画像処理アプリケーション開発にはほとんど行われていない現状であり、従来行われてきた画像処理研究のように、最新のハードウエア技術を用いずに可能な計算コストの範囲で画像知識処理のアルゴリズムを確立するのは容易なことではない。このような現状を踏まえた上で、画像処理の研究において短期的な成果を見込むためには、新しい画像センシング技術に対応できるソフトウエア開発こそが性急の課題であるといえる。
本研究では、高度なセンシング技術を持つ入力デバイスを生かした新しい画像処理アプリケーションの開発を行った。各センシング技術の特徴としては、次のものが挙げられる。
1 網膜カメラ
1000フレーム/秒の動画像が撮影できる。また、単なる動画像の撮り込みではなく、カメラ内蔵の人工網膜チップによりオプティカルフローやエッジ検出などの画像処理がリアルタイムで可能になる。
2 ハイパースペクトラルカメラ
2nmごとに384種の「任意の」周波数帯域に関してスペクトラル画像を撮影できる。帯域は、400nm〜2500nmまで可変である。
3 超高精細(SHD)カメラ
400万画素×3(R,G,B)の性能を持つCCDカメラであり、対象物との距離を0.5μm単位の精度で連続的に変化させながら画像を撮り込むことができる。
最新のデバイスの利点を生かした研究成果として、次の4点について詳細を述べる。