研究テーマ：インターネット上の３次元CGコンテンツ作成と支援技術の研究
-CT・MRIデータからのラティス構造に基づく医用曲面モデル自動再構成-
プロジェクト名： サイバーワールドモデリングと医学への応用
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
千代倉 弘明
Abstract
形成外科では患部の形状を可視化する目的から、患部の三次元モデルを作成する研究が盛んに行われている。従来の手法では各CT・MRIデータから得られるスライス画像一枚づつから輪郭線を抽出し、上下の輪郭線と繋ぎ合わせることによりポリゴンモデルを再構成していた。この手法は輪郭線の抽出を手作業で行うことにより、三次元再構成対象外組織の削除、CT・MRI撮影時における欠損データの補完といった利点がある反面、多大な労力を費やすという欠点を持つ。また、ポリゴンメッシュを用いて滑らかな人体の表層の形状を表現しているため、データサイズが膨大になる。そこで本研究ではCT・MRIデータからマーチングキューブス法を用いてポリゴンメッシュを自動再構成し、そこからラティス構造に基づいた曲面モデルを生成する手法を提案する。本手法は、マーチングキューブス法を用いて自動的に生成したポリゴンメッシュに位相情報を持たせることでモデルの整合性を保たせ、マーチングキューブス法の欠点である穴の処理、稜線の重なりといった問題を解決した。また、マーチングキューブス法により生成されたポリゴンメッシュの各断面における輪郭線を抽出し、その輪郭線を編集する機能を付加した。以上の手法で得られたポリゴンメッシュに対して、本手法ではQEM(Quadric Error
Metrics)を拡張した手法を用いてラティス構造に基づいた曲面モデルを生成する。ラティス構造とは制御格子を定義し、その中に自由曲面を内挿する手法である。サブディビジョンサーフィスの制御格子のように粗い格子で曲面データを持つことが出来るため、データサイズは非常に小さい。その上、QEMを拡張した手法を用いることによって精度は十分に保たれる。本手法によりCGの知識が無い医師や医学生でも、容易にCT・MRIデータから高精度でデータサイズの小さな医用曲面モデルを生成することができるようになった。また、本研究で開発したシステムで生成したデータを使って、WWW上に医用教育アプリケーションを構築することも可能である。
本手法の概要
本手法の概要を図１に示す。
図１
本研究で開発したシステム
本研究では二つのシステムを開発した。一つが図２のマーチングキューブス法によりCTデータからポリゴンメッシュを生成する部分である。ここで得られたポリゴンメッシュを用いて図３のシステムでラティス構造に基づいた曲面モデルに変換する。
図２ ポリゴンメッシュの生成 図３ 曲面メッシュの生成
本手法で得られた下顎骨の曲面モデル
本手法を用いて得られたラティス構造に基づく曲面モデルと、手法の途中で得られるデータを示す。図４は左から順にCTデータ、ポリゴンメッシュ、ラティス格子、ラティス構造に基づく曲面モデルとなっている。
(a) CTデータ (b) ポリゴンメッシュ (c) ラティス格子 (d) 曲面モデル
図４ CTデータからラティス構造に基づく曲面モデルへの変換
本手法の評価
Data |
Poly.Face |
Poly.Size(KB) |
Lattice.Face |
Lattice.Size(KB) |
Error(%) |
|
下顎骨 |
17098 |
8590 |
1899 |
93.1 |
0.55 |
|
下顎骨 |
17098 |
8590 |
1024 |
47.1 |
0.74 |
( Poly.Face, Size: ポリゴンメッシュの面数、データサイズ Lattice.Face, Size: ラティス格子の面数、データサイズ)
Webアプリケーションへの応用
本手法で得られたラティス構造に基づく曲面モデルを医用Webアプリケーションに応用した例を示す。図５のCT/MRI Viewerは頭部のCT・MRIのスライス画像を三次元データ上にわかりやすく表示するアプリケーションである。図６の3D Viewing System
of Mandibular Movementは下顎骨の運動を３Dアニメーションを用いて解説するアプリケーションである。
図５ CT/MRI Viewer
図６ ３D Viewing System of Mandibular Movement