平成12年度森基金助成研究(A研究)報告書

研究課題:藤沢市における災害情報早期把握システムに関する研究

(都市空間におけるリスクマネージメントプロジェクト)

研究担当者: 代表 塚越 功

研究分担者: 梶秀樹、石川幹子、金安岩男、福井弘道、

金井淳子、薗一喜、藤岡正樹、吉ヶ江学、他

助成金額: 1,500,000

1.研究の目的

 湘南地域では、南関東地震、東海地震、神奈川西部地震、直下型の内陸地震などが懸念されており、藤沢市ではこれに対応するため地震防災情報センター(仮称)を設立する計画であり、SFCの協力が期待されている。実際に、これらの地震が藤沢市を直撃したとすると、家屋の倒壊や公共施設の被害、大規模な火災被害が予測されており、被災直後の多大な混乱を最小限に抑え、早期の復旧を目指すためには、いち早く被災情報を把握することが肝要である。

 これを実現するためには、市域全体のリアルタイム画像情報の把握が必要である。このためには高解像度衛星写真情報やヘリコプターなどによる情報収集が検討されているが、衛星情報は災害発生時点の衛星軌道が問題となるし、仮にたまたま軌道条件が良好でも気象状態に左右されるから確実な情報源とは言えない。ヘリコプターは、燃料消費を考えると高空まで上昇することが難しく、長時間の観測も困難である。

 そこで本研究では、市内各所の高層構造物から高所カメラによる観測による被災情報把握を目的とし、この可能性を探るための基礎的研究を行なう。また、高所カメラの死角になる領域については市民ネットワークにより被災情報が災害情報センターに供給されるシステムに期待し、地元企業や防災市民組織の情報収集・伝達能力をアンケート等により調査するとともに、期待できるマンパワー・資機材・連絡手段などのデータベースを構築するための研究を行なう。

2.研究成果

  1. 高所カメラによる画像情報収集
  2.  南部塵芥処理場の煙突は常時稼動中であり、調査のために登ることには危険が伴うということで、これは断念し、藤沢駅近傍のNTTマイクロアンテナ塔、江ノ島灯台の2かしょについて、高所カメラによる撮影を実施し、その活用方策を検討した。

     NTTマイクロアンテナ塔は、地上高約120mで、藤沢南部一帯の広域撮影には最適な立地条件であるが、湘南台方面を含む北部地域もこれでカバーすることにはやや標高が不足することが分かった。また、建物が建てこんでいる市街地においては、道路上の地物の判定は困難であるが、地震直後の火災発生等の概略情報把握を行ない、これに基づいて地上情報収集網による確認を行なうという機能については有効であることが分かった。なお、現在、塔の隣接地に建設中の藤沢市防災センターが完成すれば、この塔上からの常時観測を実施する計画があるが、市民の安全監視システムとプライバシー確保の関係、観測データの常時解析による異常判定システム、ハードシステムの維持管理体制、等の研究課題が存在することがわかった。

     一方、江ノ島灯台からの観測については、藤沢市の海岸部全域の映像(附図参照)の把握が可能であり、とくに、海洋型地震発生に伴う津波災害を想定した観光滞在者避難誘導システムの拠点として好適な条件を備えていることが分かった。このため、本研究では、津波災害時の避難施設、そこへ到達するための避難経路の調査を行なった。また、海上浮遊工作物に取り付けた無線避難誘導システムなどのアイデアをまとめ、今後、藤沢市の防災部局との共同研究に繋げて行くこととした。各種の避難誘導システムの効果を判定するために避難者の行動を判定するシミュレーションシステムの必要性が不可欠であると認識し、これを開発するための基礎的研究を実施した。この研究成果は、今後の学会発表等にまとめる予定であるが、平成13年度研究としてモデル開発を実施する計画である。

    図1 江ノ島灯台から見た腰越海岸の展望

  3. 市民ネットワーク活用による情報収集

 高所カメラ情報は部分的に死角になるところがあり、最終的な被害実態は地上調査により確認する必要がある。行政機関は当然市役所出張所、消防、警察などの組織を動員して情報収集に努めるが、市全域を行政職だけで検分するだけの人員は確保できないし、消防活動や避難住民のケアなどで忙殺され情報収集活動に万全を帰することは困難である。したがって、直接地上の状況を検分し、その結果を伝達する役割は住民に期待せざるを得ない。本研究では、この観点から、つぎの調査を行ない、住民による情報収集・伝達の可能性を確かめ、現在設立を進めている藤沢市防災情報センターと住民組織との連携方法について提言をまとめた。

  1. 市民ネットワークによる情報収集
  2. 阪神・淡路大震災のような場合、被災地内の自治体や公共機関といった防災関係機関は、物理的な被害や職員自体の被災により、その機能が低下するため、どうしても地域の住民自身による情報収集体制に頼らざるを得ない。応急時の情報、生活情報の提供、外部への情報の発信、復旧対策など、被災地の状況を速やかに把握するための情報が不可欠となる。

    平時からの有機的なつながりを利用して、地域に適したネットワークをつくることが、災害時における住民の救助・救援活動の基礎となる。

    ケーススタディ:藤沢市石川・天神地区における「地震災害時協力会」

    藤沢市石川・天神地区における「地震災害時協力会」は、地元の住民が自主的に防災の啓発活動を行い、災害時の建設業との協力関係を締結することに成功した事例である。

    「地震災害時協力会」は、平成11115日六会市民センターにおいて発足式が行われ、各自治会と地元建設業を中心とした52の企業が参加し、地震災害時における協力体制を宣言した。その内容は、地震災害時における機械・資材の提供や貸与を約束するものである。また企業の位置及び機材貸出しリストを載せた防災マップを全世帯に配布した。

    この協定の締結にあたっては、地域の安全や福祉等を要望・提言する組織として発足した「六会地区くらし・まちづくり委員会」を中心として調整が進められた。

    最終的な協力会の組織は、52の企業のほかに、10名の六会地区くらし・まちづくり会議の役員、自治会員、消防団(第13分団)を加えたものとなった。

  3. 商店会組織と災害情報収集の可能性

藤沢市商店街連合会の協力を得て、藤沢市全域の商店会会長を対象とする防災体制に関するアンケート調査を実施した。その結果、一部には、六会地区(石川・天神地区)のように防災に対する関心の高いところも存在したが、総じて関心度は低く、防災は商店会の問題ではなく、いわゆる自主防災組織の問題と考えられている現状が明らかになった。一方、自主防災組織も、通常時の自治会組織の枠を越えるような活発な災害防備体制を実施しているとは言い難く、新しい住民防災組織のあり方を再考する必要性が高いことが分かった。