本研究の概要 本研究は本邦において個々の患者に対する心理面、社会面までも含めた新たな医療ケアサービスを確立し、質の高い医療実現に資することを目的としている。今年度は多種多様な患者支援体制を確立・運用しているアメリカを主たる対象地域として、
慢性疾患患者向けケアサービスの現状と問題を分析し、国内における患者中心のケア制度確立のための要件について調査研究を行った。
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調査対象 本研究ではアメリカのChildlen's Hospital(Boston),
Mayo Clinic(Minnesota), Cedars-Sinai Hospital(California), Keiser
Hospital(Hawaii)、計4施設を対象に、Oncology(がん)を対象疾患として、当該施設で行われている個別患者ケアの体制に関する調査を行った。
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調査結果の概要
- 1.医療機関が提供する患者支援プログラム
- 医療機関が提供している患者支援プログラムにはには以下のようなものがある。利用者の満足度は概して高かった。
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- 院外支援プログラム
- 就学支援プログラム
- コミュニティとの連携プログラム
- 社会心理支援プログラム
- 外国人向けプログラム
- コールセンター
- 家族向けプログラム等
- マッチングプログラム(同様の疾患を持つ患者やニーズをもつ家族を相談相手としてマッチングさせる)
- 家族を対象とした教育プログラム(疾患に関する知識の教育支援)
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- 2.患者ケアに関わる体制
- A.個別患者ケアに関わる体制
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- 個別患者ケアには以下のような職種のスタッフが参加している。このうち、主体となってプログラム運用に携わっているのはRegistered
Nurseである。
- Registered
Nurse
- ソーシャルワーカー
- コーディネーター
- ケアプログラムスタッフ
- Registered
Nurse
- ボランティア等
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- B.Registered
Nurseの職務と権限について
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- アメリカの看護婦資格は大きく登録看護婦=RN(Registered
Nurse)と、准看護婦=LPN(Licensed Practical
Nurse)の2つに分かれている。日本でいう看護婦はRNに相当すると考えられているが、臨床現場における権限等はRNの方が大きく、日米差がある。
- さらに上級の資格としてAdvanced Registered
Nurse
Practitioners(ARNP)がある。これは4年の大学教育を受けRNとなったものがさらに約2年の修士課程を経て、認定試験を合格した場合に与えられる資格である。ARNPはプライマリケア資格を有した、看護婦というよりは医師に近い存在である。通常の患者ケアはRegistered
Nurseが主体となって行い、医療機関が提供する患者支援プログラムはほぼ全部がRegistered
Nurseの責任下で運営されている。
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- C.他の職種スタッフの業務とRegistered
Nurse業務との関わり
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- 医療従事スタッフの構成とその業務内容は日米で大きく異なる。
- 事務仕事にはクラーク、雑務にはボランティア等、業務の細分化が進んでいる。
- ボランティア育成体制もその資格やトレーニングプログラム、業務内容のリストアップ等が確立している。
- しかしボランティアは一部患者や家族のケア支援業務があるものの、ほとんどの場合受付、電話の取次ぎ、片付け、小児患者と遊ぶ等、雑務的な業務に従事している。
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- 例えば Children's
Hospitalでは年間800名以上のボランティアがさまざまな支援活動に参加している。
- こうした他の職種における業務分担が確立しているため、アメリカのRNたちは本来の業務である患者ケアに専念することができている。
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考察 これまで述べてきたように、アメリカでは業務分業と人員配置体制が実現されているが、日本ではこうした体制が確立されていない。このため、アメリカと同レベルの個別患者ケアプログラムを日本で実現することは、現在の状況では困難であると思われる。日本における人口1000人対比の看護婦数は1997年で8.0人、アメリカは8.3人とさほど差は見られないものの、アメリカではクラーク、コーディネーター、ボランティア等、相当数の業務支援スタッフがこれ以外に配置されており、実際の医療体制には大きな差があるためである。
一方、わが国の看護婦はアメリカではすでに他職種のスタッフに分散譲渡された業務を現在もまだ多く引き受けており、こうした状況下で別途患者ケアプログラムを立ち上げても、運用が立ち行かないと考えられる。しかし患者のケアに対するニーズは国が異なっても大差はないものと考えられる。こうした体制の中で、患者が満足する効率のよいケアを行っていくには、情報技術を応用することも方策の一つであると考えられた。
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研究成果
- 本研究で得た知見をもとに患者ニーズに関する調査をすすめ、以下の発表を行った。
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- 「WWWを利用したがん及び難病情報サービスにおける患者ニーズ」内山映子ら
第20回 医療情報学連合大会
- 「難病患者の情報ニーズ分析からみたWWWサービスのあり方」内山映子ら
平成12年度厚生省特定疾患 特定疾患患者の生活の質(QOL)の向上に関する研究班会議
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