平成12年度森泰吉郎記念研究振興基金

「国際共同研究・フィールドワーク研究費」

研究課題:環太平洋防災ネットワークの設計

研究代表者: 梶 秀樹(総合政策学部・教授)

研究協力者: 塚越 功(政策・メディア研究科・教授)

日端 康雄(政策・メディア研究科・教授)

薗 一喜(政策・メディア研究科・博士課程2年)

藤岡 正樹(政策・メディア研究科・博士課程2年)

外部共同研究者: 皆川 泰典(国際連合地域開発センター)

Paul A. Deery(米国太平洋災害センター)

小川 雄二郎(アジア防災センター)

助成金額:1,000,000円

1.研究背景

国際連合が、日本の提案により、開発途上国の自然災害の軽減を目指して、20世紀最後の10年間を、「国際防災の10年(IDNDR: International Decade for Natural Disaster Reduction)」と定め、1990年に運動を開始して以来、昨年の1999年まで、ジュネーブに置かれた本部を中心に、世界各国で数多くの活動が行われてきた。その成果は、直接的に目に見える形で災害被害を軽減させるには至らなかったが、途上国の災害研究機関や、防災関係行政機関、NGOなどの、幅広いネットワークの確立として結実した。

そこで、日本政府は、国際防災の10年終了後も、そのネットワークを維持し、情報を共有しあうとともに、防災対策の重要性を絶えず啓蒙することを目的として、1998年6月に、神戸市に「アジア防災センター」を設立した。また、米国は、1996年に、ハワイに「太平洋災害センター(PDC)」を設立した。そして、現在、この2つの機関と、国際連合地域開発センターとが共同して、アジア太平洋地域の開発途上国を対象に、インターネットを用いた防災関係情報を提供するシステムを確立するためのプロジェクトが、昨年から始められた。

このプロジェクトの当面の中心的課題は、対象各国のデータベースの構築と、災害被害のモニターリング、ならびに、応急対応のための情報提供にあるが、その後の緊急な課題として、事前に災害危険地域を判定し、必要な予防対策を採るための、ソフトウェアの開発、さらには、それを実行するための人材の育成と能力の向上を図る研修プログラムの提供、などが挙げられている。

本研究代表者(梶)は、昨年3月まで、国連職員の立場でこのプロジェクトに関わり、主導的役割を果たしてきたところから、本塾内において、プロジェクトチームを作り、継続的に協力していくことが強く期待されている。そこで、昨年度は、当森記念研究振興基金を得て,SFC教員によるプロジェクトチームを結成し、災害予防計画策定の基礎となる、危険地域判定の基本設計仕様を作成した。これは、本年度アジア防災センターに引き継がれ、実装のための詳細設計が行われることとなっている

2.研究目的

本研究は、アジア太平洋諸国の、行政官、民間企業、NGOなどが参加して行う、徳に、特に、地震災害を対象とした災害予防計画を組みこんだ地域計画策定のロールプレーイング・ゲームを開発することを目的とする。

具体的には、1999年度に作成した地震危険地域判定システムの結果をデータベースとして、ゲームの各参加者が、交渉と意見調整により、ケースとして与えられた地域の防災計画と開発計画を策定し、コンピュターに内蔵されたシミュレータにインプットすることにより、10?20年間に起こる地震被害ならびに、経済成長の結果をアウトプットとされるもので、立案した防災計画の妥当性や、防災投資と開発投資のバランスの取り方などを学習することを可能とするものである。

本モデルのうち、開発計画と経済成長の関係を記述する部分については、既存のモデル(PANGAEA)を利用するため、本研究では、ゲームの参加者(プレーヤー)が作る防災計画の内容によって、地震被害がどれだけ低減するか、また、被害の程度によって、中・長期の経済成長にどのような影響が及ぶかを推定するモデルの開発が主たる研究内容となる。慶應大学グループは、そのプロトタイプモデルの開発を行う。

3.研究成果

1)途上国における防災投資計画の把握

本年度は、上記研究目的に従い、PANGAEAに防災計画を実装するための技術的調査を行った。具体的には、PANGAEAのデータベースならびにシミュレーションエンジンへ追加する変数、パラメータを、現在までにアジア各地で発生した災害の被害資料の調査ならびにヒアリング調査を行い、検討を行った。

その結果、途上国においては、防災計画は主たるライフラインの一つである社会基盤(特に道路整備)を重点的に行うことであることが明らかになった。すなわち、道路さえ整備されていれば、たとえ、災害によって道路が寸断されたとしても代替経路が確保され、初期対応が可能になる。また、復興計画による支援物資の運搬や経済活動による生産物や財の輸送も円滑に行うことができることが明らかになった。

今後、本年度の研究で明らかにした知見を、PANGAEAと連動するように実装することが課題としてあげられる。

2)インド地震現地調査

本年度(2001年)、1月26日(現地時間、午前8時50分ごろ)、ニューデリー(インド)南西580マイルに位置するBhuj近郊において、マグニチュード7.9の地震が発生した。この地震による死亡者は約1.7万人(2001年3月28日現在)、負傷者は約15万人という、甚大な被害を出している。これまで、アジア各地で発生した地震の中で、1999年にトルコで発生した地震に並ぶ人的・物的被害となっている。

本プロジェクトでは、インド地震による被災状況を調査するために、緊急に調査チームを編成し、現地調査を行った。

現地では、地震直後(約5週間後)ということもあり、災害の初期対応は完了していたが、倒壊した建物の除去が進んでおらず、また瓦礫が放置されている状況にある。しかも、これらを撤去するための機材が絶対的に不足しており、瓦礫からの火災や伝染病といった2次災害が発生することが懸念される。また、調査時期と大きく関係していると考えられるが、本調査をサポートは現地NGOによって行なわれた。このことより、被災地では、官民(NGO)が一体となった救援・支援活動を行っていることが明らかになった。

今後、アジア地域で大規模災害が発生した場合、阪神・淡路大震災における緊急対応策ならびに復興支援計画を、被災地の特性にあわせて計画立案することが可能となるような枠組みを明らかにし、これを実証することが課題としてあげられる。