森泰吉郎記念研究振興基金2000年度助成対象研究
「住民との社会的合意形成による交通環境整備方策の研究」活動報告B
特別車両アコモデーション改善方策の研究
Research of value about first class car (Called “Green
Car”
in
Japan) and improvement plan.
In these days, public
transportation systems become to the service organization not only carry
oriented system but also provided of various additional value system. This research
is proposal of improvable plan and what we should have a first class car
(Called "Green Car" in Japan), based on evaluation value for it by
citizens.
As a result of the analysis, we proved the users' feel value
at green-car is about 74% as compared with showed one from JR-group. Details of
the user’s value are classified for seat, setting, silence, and composure. And
we realized an indicator about how we should improve service and accommodation.
キーワード: アコモデーション,グリーン車,価値,横須賀線,仮想評価法
Key
words: accommodation , green car , value , Yokosuka-Line
Contigent
Variation Method(CVM)
1. はじめに
私達は「利用者志向の交通環境整備」というテーマに立脚し,事業者と利用者を結ぶ一次インターフェイスとしてのアコモデーションに対して関心をもっている.私達は利用者として鉄道と対してきたが,常に疑問に思い浮かぶこととは「利用者が支払う料金は設備やサーヴィスの代価として妥当なものなのであろうか」という点である.
JRグループ各社は,基本的な運賃や料金に関してほぼ均一の計算方式・営業方式が整備されている.しかし,その上に立つ列車や設備は,発足10年を過ぎて各社ごとに差が見られるようになった.結果として,価額と得られるサーヴィスに食い違い=価値観の相違に関し,疑念を持たれる状況が散見される事態に疑う余地が無くなった.
本研究は,アコモデーションの差異に価値が依存しているグリーン車について,JR横須賀線を事例として料金・制度の現状を評価する.併せて,今後のグリーン車のサーヴィス改善方策に関し,利用者が現在及び将来に抱く価値を明らかにすべく調査・研究を行うものである.
本稿はこの研究におけるJR横須賀線内で展開した社会調査の報告を中心にしたものである.
2. 研究の社会的背景
アコモデーションが注目される背景として,第一に社会構造が量充足から質重視へと移行したことが挙げられる.平均所得の向上による「総中流意識」の醸成である.これは松下圭一(法政大学名誉教授)が提唱する国家近代化モデルに基づいた「シビルミニマム」達成が要因と考えられる.
第二に,移動空間に対する欲求の多様化が挙げられる.鉄道が単に運ぶだけの「箱」から,質の重視を目標にする必要が出てきたためである.鉄道は自家用車が持つ「究極の個別空間」で後れを取り,航空機客室乗務員に代表される「キメ細かいサーヴィス」といったソフトウェアで遅れを取ったことが,この背景を確立する推力となった.
第三に顧客満足度(CS)を重視する時代に入ったことが挙げられる.少子高齢時代を迎え,全体の旅客輸送量は低下している.複数の事業者が縮小した顧客を奪い合う構図になっていることは事実だ.「顧客満足度アップと維持」は企業や事業が継続し,発展するために欠かせない条件である.
これからの公共交通機関の整備の中で,利用者と事業者の間で演繹的アプローチを経た事業政策を展開する必要性が挙げられる.「事業者と利用者のコンセンサス」を策定し,価値観を反映させることが必要になってくる(図1).利用者のコンセンサスを得られることは,利用者志向の施策を実現することである.初期設定とコンセンサス策定を出発点とした交通環境整備の必要性を志向するものである.
図1 演繹的アプローチ
3. 本研究の目的
3.1.目的の設定
本研究のきっかけとなった疑問の根元は次の4つである.
1・現状のグリーン車について,利用者はどのくらいの価値を持っているのか? 2・利用者はどのような目的や理由でグリーン車を選択しているのか? 3・現在のグリーン車に対する不満点や希望する点はあるのだろうか? 4・施設やサーヴィスが向上した場合,どのくらいの価値を置くのだろうか? |
3.2.先行研究事例
3.2.1肥田野論文
東京工業大学の肥田野教授が土木学会に発表している「鉄道サービスの質的評価に基づいた都市通勤輸送におけるハイグレードカーの導入可能性に関する研究」がある.西武鉄道の特急「レッドアロー」号の車内にてアンケートを展開し,特急料金負担を払ってもなお利用する理由について調査を行ったものだ.
利用者の多くは確実に着席できることや,高速輸送が実現していることに対して料金負担の意義を感じていることが読み取れる.サンプル数の少なさに不安があるものの,仮想状態を用いた通勤列車の乗換抵抗軽減の価値についての質問を展開しており,有料列車の意義ばかりでなく,仮想部分の価額とについて多くの指針を得られる.
3.2.2. 湘南ライナープロジェクト
1994年,先のJR東日本派遣研究員辻巻伸とJREメンバーが行った「湘南ライナープロジェクト」が存在する.東海道本線の通勤ライナー「湘南ライナー」の着席整理券を対象に「着席に対する価値」を測定してその価値を導き出した.このプロジェクトで注目されるべき点は,着席整理券(ライナー券)を求めるために毎月展開される長時間の行列が解消された場合の価値を仮想条件として調査しており,仮想評価法の応用形態としても参考になる.問題点としては,調査の結果得られる着席の価値に関して,停車駅が精選されている「速達列車」の性格を併せもつため,普通列車に比して速達性が高いことと,東京駅以外の拠点駅(新宿駅など)へ直接乗り入れできる価値などが混用されている可能性を否定できない部分が残ることであった.
3.3.対象設定の条件
先行事例を踏まえ,純粋に特別車両の価値を求めるためには次の条件が必要である.
(A)スピード・停車駅はまったく同等であること (B)設備やサーヴィスに差異が見られること (C)サンプル数が確保できる路線であること (D)状況が把握できる路線・地域であること (E)バイアスが発生しづらい条件が揃っていること |
本研究では,これらの要素を勘案した結果,JR横須賀線を対象とした.同線は,都心と神奈川県下のベッドタウンを結ぶ通勤基幹路線であり,横浜・鎌倉といった観光地の性格を持つ地域を結ぶことで,さまざまな目的をもつ利用者の乗車が考えられること.また,一部のライナー列車を除いて同一形式(E217系)による運用がなされており,設備に依存したバイアスの除去が可能であること.慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の至近地域にある路線であり,現地調査が容易に行えることである.
3.4.仮説の設計
これらの背景を踏まえ,次のような仮説を設計した.
(A)今のグリーン料金は高いと考えられている. (B)普通車利用者よりグリーン車利用者の方が価値を高く判断する. (C)家計満足度が上昇するほどグリーン料金への価値が高くなる. (D))改善プランに対する価値観はグリーン車利用者 の方が高くなる. |
この他,探索的に従来は根拠無きまま語られてきたグリーン車の価値について定量的裏付けを見つけるべく,探索的調査を併せて行う.繰り返しになるが,本来的に求める内容は次の通り.
(1) 現状のグリーン車について,利用者はどのくらいの価値を持っているのか (2) 利用者はどのような目的や理由でグリーン車を選択しているのか (3)現在のグリーン車に対する不満点や希望する点はあるのだろうか (4)施設やサーヴィスが向上した場合,どのくらいの価値を置くのだろうか |
4.
手法の選択
公共交通環境は自然環境に通じる非排除性と非競合性を持っている.このことから,環境評価の調査手法を導入することが可能であり,かつ客観的な価値観を導入する必要が課せられる.このことから,次の4手法を想定し,結果的に仮想評価法・コンジョイント分析の手法を合わせた方法が最も適していると考えられる.
(A)仮想評価法(CVM) (B)コンジョイント分析 (C)トラベルコスト法 (D)ヘドニック法 |
5.
調査の手順
種々の背景と,研究内容の検討を行った結果,調査の形態として仮想評価法とコンジョイント分析を主軸に,質問を展開することとした.調査形式については,客観性・定量性を主眼に据え,次の4項目を目標に検討した.
(A)調査対象は東京〜逗子間のJR横須賀線利用者 (B)サンプル数が集まるような調査形式を考慮する (C)極端な負担を強いらない分量と形式に留意する (D)プライバシーの侵害が発生しないように務める |
調査形式であるが,事前の複数回の下見によって,グリーン車は朝夕のラッシュタイムを除くと決して利用数が多くないことが判っている.普通車は時間帯を問わず旺盛な需要があり,ラッシュ時は非常に混雑すると言うことが明らかになっている.そこで,確実な回収と,利用者・調査側ともに安全性を考慮した結果,及び事前の下見の結果を総合して,展開する調査は次の形式で計画し,準備を開始した.
○配布場所 グリーン車…東京駅〜逗子駅間のグリーン車車内 普通車…東京駅ホーム及び逗子駅ホーム ○調査形式 グリーン車…調査票の車内配布・車内直接回収方式 及び調査票の車内配布・郵送回収方式 普通車…調査票の駅構内配布・郵送回収方式 |
調査列車に関しては,多くのサンプル数を押さえる目的と,幅広い利用客層を捉える意味合いから,朝ラッシュ・データイム・夕ラッシュの時間帯をピックアップすることになった.結果,次の列車を候補としてピックアップした.以降,これら対象にした列車を「軸列車」と呼称する.なお,下記のダイヤは調査日となった2000年10月10日現在のダイヤを基にしている.また,軸列車にはそれぞれA〜Dまでの行路番号を振り,分析・集計作業に供した.
1回目 逗子08:17発− 848S−東京09:17着→A行路 2回目 東京11:08発−1069S−逗子12:09着→B行路 3回目 逗子15:16発−1578S−東京16:15着→C行路 4回目 東京18:30発−1787S−逗子19:37着→D行路 |
調査日については普通車が10月10日,グリーン車の1回目が10月11日,2回目が10月12日となった.
質問票作成に関しては,総合政策学部片岡正昭助教授の指導を頂戴し,幾度にもわたるミーティングと質問票の試作を繰り返した上で,構成・ワーディング・調査上で起こりうる可能性について状況を詰めた.質問の選択項目に関しては,有澤研究会を始め,多くの方に協力を戴き,考えられる限りの要素を選択した上で精選した.作成した質問票については,有澤研究会でプリテストを行い,回答時の障害・疑問点・誤読の可能性などについて調整を行い,調査に可能な限りで備えた.
図2は,質問票の仮想評価法に関わる部分である.誤読を起こさないようにワーディングや用語はもちろん,レイアウトや文字フォント・サイズなどにも配慮した.文字サイズやフォントに関しては,揺れる車内という「悪条件」で回答することを考慮に入れ,紙面が許せる限りで文字を大きく,ちらつきのしづらい,読みやすいフォントを選択した.
図2 仮想評価質問部分
6.
調査の経過
調査については,自分の他に研究室のメンバーを加え,6名/1日で配布に備えた.普通車・グリーン車の調査日とも,好天に恵まれ,概ね支障無く予定通り展開することができた.
7.
集計・分析結果
7.1.集計結果
調査票の配布終了後,普通車・グリーン車ともに表1に見られる返答及び回収があった.普通車では,平均回答率が20%前後の郵送回収調査にも関わらず,回収率38.2%に達した.グリーン車についても,直接配布・直接回収と郵送調査を併用した形式での回収率は実に70%に上った. 横須賀線利用者にとって,グリーン車がいかに身近で,かつ回答モティベーションが高い存在であることを物語る一端であると見ることもできる.
普通車 行路 A B C D 合計 準備枚数 250 250 250 250 1000 配布枚数 237 116 151 146 650 回収枚数 108 34 47 59 248 回収率 45.6 29.3 31.1 40.4 38.2 グリーン車 行路 A B C D 合計 準備枚数 200 50 50 200 500 配布枚数 123 22 12 76 233 回収枚数 78 13 11 61 163 回収率 63.4 59.1 91.7 80.3 70.0
表1 配布数と回収率
7.2.グリーン車利用者
利用者年齢層を見てみた.調査票では年齢別に分けたのだが,図3を見るとおり,グリーン車は50歳台をトップに,全利用者の約74%を40〜60歳台が占めている.反面,20〜30歳台の利用も見られるものの,数は少ない.男女比については,男:女でほぼ3:1となっていた.
図3
図4は行路別の利用目的であるが,A・D行路では通勤需要が圧倒的である.図4で興味深いのはどの行路を通してみても,私達用にて利用する人が一定数存在することである.少数ながら,日常用途としてグリーン車を使っている人が見られる.利用目的の自由回答記述を参照すると,通院や高齢のため,普通車の利用が困難なためにグリーン車を使っている回答が見られた.私達用の多くはこのような用途でグリーン車を使っていると考えられる.列車別の利用目的で見ると,昼間帯のB・C行路では,この他に観光・旅行需要が散見できる.また,夕刻下りのD行路で観光にいくらか数が挙げられているのは,当該調査列車が成田空港からの快速「エアポート成田」であり,成田空港から大型スーツケースを持った利用者が,グリーン車を使ったためである.
図4
利用頻度で見ると,週5日以上と週1〜4回という人が全利用者の70.6%を占める.また,図5に挙げる行路別で見てみると,A・D行路で週5日以上と言う利用者が飛び抜けて多い.また,週1〜4回利用すると言う人も比率的には週5日以上の利用者と歩を合わせている.
利用乗車券及び利用グリーン券で見てみると,A行路のような朝ラッシュ時は,グリーン定期券・グリーン回数券の利用が非常に目立つ.同じラッシュ時間帯でもD行路は回収サンプルに対し,普通乗車券を別途購入して利用している人が目立つ.先の利用目的と相照らすと,夕方の利用者は平時,定期券で利用して居る人が別途グリーン券と乗車券を購入して利用しているパターンと,空港からの帰途で荷物や疲労条件が厳しい人が利用していると考えられる.また,データイムグリーン料金回数券が利用できないA行路で同券利用者が見られた.これは,利用者が利用時間を錯誤しているか,JRの案内不足と見られる.
図5
7.3.普通車利用者
図6を見ると,普通車利用者の年齢層であるが,50歳台が飛び抜けて多い.若年層も絶対数としては多くなっているが,グリーン車に比して少ない.配布は,当該地点を通過するすべての利用者を対象として,配布時点での年齢層や回答層にバイアスが発生しないように務めた.若年層が少ないことについては,配布時刻が学業時間帯に入っていることにあると考えられる.
図6
利用目的について見てみたい.左図(図7)を見ると,通勤利用が圧倒的である.次いで私達用・業務と続いている.列車別の利用目的を見てみると,グリーン車とほぼ共通した目的が並ぶ.列車別で用途を見てみると,C行路での私達用が飛び抜けている事がわかる.方向からすると午後に逗子から東京へ向かう流動である.私達用は買物・通院などが背景としてまとめられる項目となり,時間帯的にも納得がいく.
図7
普通車で,グリーン車の利用経験と頻度を尋ねてみた(図8).まず,利用経験の有無を列車別で見ると興味深い点が見られる.A行路利用者の相当数がグリーン車利用経験があると答えている.逆に,利用経験の無い人がある人を上回っているのはB行路だけであり,C・D行路とも何らかの形で横須賀線グリーン車について利用した人が多いと明らかになった.
そこで,グリーン車の利用経験がある人に限り,利用頻度を尋ね,これを列車別に表したのが図9である.これを見ると,B・C・D行路では「滅多に使わないものの,利用経験はある」人が多い.しかし,A行路では週1〜4回の利用をしている人が少なからず居ることが判った.ここから見られることとして,横須賀線の利用客層としては,グリーン車を全く利用しない人が少数派であり,かなりの人が状況や時間帯に応じ,グリーン車を利用している人が相当数存在すると見ることができる.
t-value |
自由度 |
危険率 |
3.28856 |
375 |
p=0.0011 |
図8
図9
8.
集計・分析結果
8.1.仮説の検証
先に提示した仮説の検証を行ってみる.(A)については,グリーン車利用者・普通車利用者が現在のグリーン車に関し,抱いている価値の平均によって結果が出る.表2は,東京〜逗子間(現行所要時間60〜70分,運賃890円・グリーン料金950円区間)をモデルとして,現状の設備・サーヴィスの価格をつけてもらった結果についての,各項目毎の平均値統計量である.
|
平均値 |
標準偏差 |
平均値標準誤差 |
普通車 |
672.70 |
279.89 |
18.46 |
グリーン車 |
765.65 |
247.29 |
20.40 |
両者統合 |
708.94 |
271.14 |
13.96 |
現行料金 |
950.00 |
|
|
表2
一番下にモデル区間の現行グリーン料金を出してみた.グリーン車利用者では80%前後,両サンプルの通算平均で74%前後,普通車では70%程度の評価しか与えられていないことになる.いずれの数値も,現行料金を上回る価額評価を下しているサンプル群は存在せず,仮説(A)は成立している.
仮説(B)であるが,すでに仮説(A)で普通車利用者とグリーン車利用者の差について判断が出されている.両者の価格差について有意な差が認められるのか,という点について見てみたい.表4は表3で出ている現状価値の差について個別にT検定を行ったものである.
|
平均値 |
差95%信頼区間 |
|
t 値 |
自由度 |
|
|
下限 |
上限 |
|
|
普通 |
672.70 |
636.33 |
|
36.45 |
229.00 |
グリーン |
765.65 |
725.34 |
805.96 |
37.54 |
146.00 |
両者統合 |
708.94 |
681.48 |
736.40 |
50.77 |
376.00 |
表3
表4
これにより,グリーン車と普通車利用客の価値平均差が有意であることが確認できた.故に,普通車利用者よりグリーン車利用者の方が高い価値をもっていると判断することができた.これにより,仮説(B)は成立したと言える.
仮説(C)は,表5のような家計満足度とグリーン車の価値のクロス集計を行い,一元分散分析に掛けた上で有意確率の検定を行えばよい.表の横軸は,「G」がグリーン車,「E」が普通車である.それぞれのアルファベットの右数字は,「1→5」に向かって「満足→不満」となっている.
|
度数 |
最小値 |
最大値 |
平均値 |
標準偏差 |
分散 |
G1 |
24 |
450 |
1000 |
734.5833 |
197.8357 |
39138.95 |
G2 |
47 |
400 |
1900 |
820.4255 |
253.291 |
64156.34 |
G3 |
45 |
500 |
1800 |
775.7778 |
270.4835 |
73161.31 |
G4 |
17 |
500 |
1500 |
711.7647 |
253.4323 |
64227.94 |
G5 |
11 |
300 |
800 |
627.2727 |
155.505 |
24181.82 |
|
|
|
|
|
|
|
E1 |
51 |
0 |
2000 |
727.0588 |
356.1645 |
126853.2 |
E2 |
42 |
450 |
1200 |
628.0952 |
174.6109 |
30488.97 |
E3 |
47 |
300 |
1300 |
695.3191 |
265.1566 |
70308.05 |
E4 |
47 |
300 |
1500 |
660 |
226.5334 |
51317.39 |
E5 |
43 |
300 |
2000 |
640.9302 |
325.2312 |
105775.3 |
各数値について家計満足度を因子とした一元配置分散分析にかけた結果,95%以上の確率で有意になる数値が発生したのは,G2のみであった.結果から家計満足度が価値評価に影響を及ぼしていると結論づけることはできない.仮説(C)は成立しない.
仮説(D)であるが,表6として,各種改善プランに対する価値についての評価を表6で出してみた.それぞれの改善プランに対して,ある程度の価値を見いだしている人が確認できる.実際問題として仮想改善サーヴィスを希望しない人の部分だけサーヴィスの提供を停止すると言うこと は不可能である. 表5
|
度数 |
範囲 |
最小値 |
最大値 |
合計 |
平均値 |
|
標準偏差 |
分散 |
|
統計量 |
統計量 |
統計量 |
統計量 |
統計量 |
統計量 |
標準誤差 |
統計量 |
統計量 |
G車 座席幅 |
68 |
740 |
10 |
750 |
4995 |
73.46 |
13.30 |
109.72 |
12037.51 |
G車 フットレスト |
64 |
790 |
10 |
800 |
3860 |
60.31 |
16.55 |
132.39 |
17526.88 |
G車 背もたれの改善 |
66 |
590 |
10 |
600 |
3380 |
51.21 |
9.61 |
78.04 |
6090.82 |
G車 全面カーペット |
30 |
250 |
0 |
250 |
710 |
23.67 |
8.00 |
43.84 |
1922.30 |
G車 おしぼり |
19 |
200 |
0 |
200 |
520 |
27.37 |
9.80 |
42.70 |
1823.25 |
G車 携帯電話スペース |
35 |
100 |
0 |
100 |
1120 |
32.00 |
4.79 |
28.37 |
804.71 |
G車 車内放送カット |
41 |
800 |
0 |
800 |
1890 |
46.10 |
19.60 |
125.49 |
15748.14 |
|
統計量 |
統計量 |
統計量 |
統計量 |
統計量 |
統計量 |
標準誤差 |
統計量 |
統計量 |
普通 座席幅 |
101 |
290 |
10 |
300 |
5230 |
51.78 |
5.37 |
54.01 |
2916.79 |
普通 フットレスト |
109 |
190 |
10 |
200 |
4540 |
41.65 |
2.90 |
30.23 |
913.91 |
普通 背もたれ改善 |
112 |
290 |
10 |
300 |
4480 |
40.00 |
3.56 |
37.70 |
1421.62 |
普通 全面カーペット化 |
62 |
195 |
5 |
200 |
1600 |
25.81 |
3.88 |
30.58 |
935.40 |
普通 おしぼり |
32 |
95 |
5 |
100 |
745 |
23.28 |
3.79 |
21.46 |
460.66 |
普通 携帯電話スペース |
76 |
295 |
5 |
300 |
2285 |
30.07 |
4.83 |
42.08 |
1771.00 |
普通 車内放送カット |
50 |
295 |
5 |
300 |
1400 |
28.00 |
6.41 |
45.33 |
2055.10 |
(表6)
グリーン車利用者と普通車利用者の間の平均値の差には有意な差があるか,という部分について,T検定を利用して表7のような検証を行った.その結果,いずれの項目についても,両側の有意確率が0.05を超えた項目は無かったことから,改善設備の平均値について有意差は認められなかった.
(表7)
|
|
母平均差検定 |
|
|
|
|
|
|
|
|
t 値 |
自由度 |
有意確率 (両側) |
平均差 |
差標準誤差 |
信頼区間 |
|
|
|
|
|
|
|
|
下限 |
上限 |
座席幅拡大 |
等分散仮定 |
1.704 |
167.000 |
0.090 |
21.674 |
12.721 |
-3.440 |
46.788 |
フットレスト設置 |
等分散仮定 |
1.413 |
171.000 |
0.160 |
18.661 |
13.208 |
-7.411 |
44.733 |
背もたれ改善 |
等分散仮定 |
1.288 |
176.000 |
0.199 |
11.212 |
8.704 |
-5.965 |
28.389 |
カーペット化 |
等分散仮定 |
-0.272 |
90.000 |
0.786 |
-2.140 |
7.874 |
-17.782 |
13.503 |
おしぼり配布 |
等分散仮定 |
0.455 |
49.000 |
0.651 |
4.087 |
8.979 |
-13.957 |
22.132 |
携帯スペース |
等分散仮定 |
0.247 |
109.000 |
0.805 |
1.934 |
7.831 |
-13.587 |
17.455 |
放送カット |
等分散仮定 |
0.948 |
89.000 |
0.346 |
18.098 |
19.090 |
-19.833 |
56.028 |
|
1人辺り平均額 |
|
単位・円 |
両方 座席幅 |
24.58
|
両方 フットレスト |
20.19
|
両方 背もたれの改善 |
18.89
|
両方 全面カーペット |
5.55
|
両方 おしぼり |
3.04
|
両方 携帯電話スペース |
8.19
|
両方 車内放送カット |
7.91
|
このことから,各種改善プランに対する利用者の価値観については,普通車・グリーン車といった利用設備にこだわらず,差は殆どないということができる.この結果を基にすると,仮に上記の各種プランが全て実行された場合のグリーン車(仮に「改善グリーン車」)の価値は,表8に示された価値を東京〜逗子間のモデル区間で提示された現状価値判断額に加算した「797.39円」(1円部分の四捨五入によって≒800円)が,利用者の考える「改善グリーン車」妥当とするグリーン料金となった.
表8
8.2.探索的検証
8.2.1.グリーン車の選択動機
グリーン車を選ぶ理由について,質問票でたずねた.図10がその結果である.
図10
回答は複数回答となっているが,グリーン車・普通車共に「座席確保のしやすさ」「普通車の混雑」「グリーン車は快適」の3点について多くの票が集まっている.グリーン車利用者に見られる傾向として,先の3項目では,票数が互いに迫っているが,それ以降の項目で落ち込んでいる.それでも,グリーン車利用が認められているケースが見られるのは,会社の重役クラスなど,グリーン定期券の支給あるいは購入が叶っている人がいるためと考えられる.
普通車利用者では,相当数が普通車の混雑に因した回答を行っており,それ以外の項目でも,グリーン車は「使える機会があれば」使う旨の回答が見られた.このことから見ると,グリーン車利用者は着席・快適を主眼としてグリーン車を利用するが,普通車利用者がグリーン車を利用する動機は普通車の混雑から逃避するための手段であり,かつグリーン車に対する高いモチベーションを持っていると言える.
次に「グリーン車は快適」と回答した人に,どの部分やサーヴィスを指して快適なのか尋ねた.これが図11である.
図11
この図で見る限り,グリーン車・普通車利用者のいずれにしても「座席がゆったりしている」「静かだから」「落ち着いているから」の3つに分かれた.「静か」と「落ち着いている」に関しては,マクロに捉えて通じる部分が多いと考えると,グリーン車が快適と感じる大きい要素は「ゆったりした座席」と「静かさ・落ち着き」であり,これがグリーン車の「快適の価値」であると言える.
8.2.2.グリーン車の価値配分
利用者はグリーン車の機能やサーヴィスのどこに比重を置いた価値判断を行っていたかについてまとめてみた.調査票では問6で行った現状評価の金額について平均を取り,これをグリーン料金の平均値で割った上で比率を出してみたのが図12のグラフである.
図12
現在のグリーン車の価値として評価できる要素について,座席・個別空間・静かさ・落ち着いた雰囲気が体勢を占めることが判った.少なかった内容として,備え付けの雑誌やテーブルがあった.雑誌については,調査日が雑誌「トランヴェール」の在庫が払拭していた日にあったことも,インパクトの少なさにつながっていると考えられる.テーブルに関しては,コンピュータを使ったり,食事しない人はあまり使わないものなので,重みとしてはそれほどではないと見られる.「その他」には具体的・抽象的な用途や機能が実に多く並んだが,この中にも「確実に座れる」という意見が少なからず見られた.
8.2.3.自由記述回答について
今回,項目を選択する他にグリーン車の制度や設備・サーヴィスについて利用者が考えていること,感じていることについて自由記述回答の形で意見聴取も行った.回答は実に多様で,かつ複数の分野にまたがる意見が集まる.そこで,1人で複数の意見が被さる場合,筆頭に記している,あるいはもっとも強調している分野を選択した.図13を見ると,規則・制度に関する意見が圧倒的であり,続いて車両・構造に関する意見・その他が続いている.車内設備・乗務員の応対など・利用者のマナーに関しては,ほぼ同数となっている.それでは,以下,それぞれの項目について見てみたい.
図13
<車両・構造>
多かったのが,グリーン車の存否そのものに関する意見.普通車の増結を希望する声が少なくない一方,グリーン車を残しながらも両数の削減について意見を表すケースも見られた.グリーン車利用者の意見としては,現状の料金を収受する以上,グリーン車として提供されるサーヴィスの「確実」な実現を希望する意見が多かった.
<車内設備>
圧倒的に多かったのが,座席周りの苦情と意見である.隣人とふれあいたくないという意見が女性客を中心に多く見られた.次にリクライニングシートの故障・不具合に関し,修繕サイクルが遅い苦情が散見された.その次に空調関係の意見が多かった.スポット空調が設置されているのにも関わらず,壊れていたり,存在を知らなかったりという訴えに近い意見が見られた.全体空調に関しても,暑すぎ・寒すぎの調節が行き届かない点で,高齢者・女性客を中心に多くの意見が挙がった.
<規則・制度>
圧倒的に多かったのが,通勤定期券でグリーン券を別途購入してもグリーン車が利用できない問題であった.後に触れるが,私達鉄各社の有料列車は,定期券があっても別途料金券を購入すれば乗車できるケースが殆どである.しかしJRグループでは,別途乗車券を購入し直さなくてはならない.
これは,定期券というシステムが創設されてから伝統になっていたものである.しかし今日,この規則がコンセンサスを得られていない例になっていることを物語る結果となった.あとは,グリーン料金の割高感や距離区分の刻みの粗さなどについて,多くの意見が寄せられている.
<乗務員>
乗務員の業務内容に関する苦情と意見になっていた.多かったのは車内放送の長さ・多さ・声の大きさなどであり,続いてラッシュ時のグリーン券発売扱いに差が見られることであった.このほか,マナー違反の利用者を排除するなどの権限強化,あるいは秩序維持に関わる職権行使について意見が多く見られた.
<ダイヤ・サーヴィス>
比較的意見がはっきり割れた項目で,横須賀線のダイヤそのものに対する増発希望,グリーン車の停車位置,グリーン券を容易に購入できる自動販売機の要望,車内での飲料類の販売機設置などが見られた.
<マナー>
最も多かったのが,携帯電話に関する苦情であった.携帯電話については,仮想改善プランにあった「専用スペース」を設置しても排除して欲しいと言う意見と,グリーン車での携帯電話利用全面禁止を希望する意見が大勢を占めた.
<その他>
今回の調査の感想・ライナー列車の増発などが見られた.また,普通車利用者に多かった意見として,普通車の輸送環境の悪化(着席数可能の激減や振動など)に対し,
この結果としてグリーン車の存在がさらに際だってしまっていると見られる意見も多かった.この部分については8.2.1.の結果に通じる点であり,興味深い.
9.
結論としての提案
これらの結果から,横須賀線グリーン車について,自身が実際に調査及び事前準備の段階で利用した部分で気がついた事を交え,提案という形で結論を出してみた.
9.1.制度的に改善が求められる部分
9.1.1.グリーン券との併用制度
グリーン券と定期乗車券との併用が不可能な点について,多くの意見と批判が寄せられた.グリーン車あるいは優等列車利用の可否について,私達鉄各社はその殆どが定期券について,乗車券に準じたモジュール化・コンポーネント化が完了しており,基本的な輸送サーヴィスをピザの土台部分(ドゥ)にたとえると,有料特急列車・特別車両など,上に乗る「具」との関係が綺麗に成立している.
しかし,JRグループは,現行営業制度を見る限り,定期乗車券が創設された明治時代からの「パッケージ商品」の発想を脱しきれていない.グリーン車は勿論,特急列車・急行列車などの優等列車に関し,別途制限を緩めた列車以外は,料金券を追加購入した上でも利用することができない.料金で利用者を区分けする時代でなくなったにも関わらず,営業規則自体が身分制度に縛られた旧態依然となっている.
そこで,一般的にはグリーン券を定期券の全面的な併用を認めることが改善事項に上がると想起できる.しかし,現状の東海道本線及び横須賀線の混雑時間帯を見ると,グリーン定期券やグリーン回数券を利用している利用者でさえ座りそびれうることを考えると,満杯どころか一部車両では普通車より輸送環境が劣悪になる可能性が高く,この時間帯に限っては料金差の設定による利用分化が容認されると考える.次善の策として,企画料金券の「データイムグリーン料金回数券」通用時間帯に限り,定期券とグリーン券・データイムグリーン料金回数券との併用を認めることが考えられる.グリーン車の空間や座席リソースに関して,データイム時間帯へ利用者を積極的にシフトさせる推力となり,普通車の混雑低下を図り,体調のすぐれない利用者や空港利用者など,特段の事情を持った利用者への利便性の向上に供することができる.
9.1.2.グリーン料金
営業キロ 〜30km 〜50km 〜80km 〜100km グリーン料金 500 720 800 950 主要駅(東京起点) 川崎 大船 平塚 小田原 横浜 千葉 国府津 真鶴 津田沼 鎌倉 上総一ノ宮 逗子 大原 久里浜 成田空港 表10
現在のグリーン料金が利用者の価値観に照らして釣り合わない存在になっていることは定量的なグリーン車の現状評価部分と自由記述回答から推測は容易である.グリーン車利用者は,現在利用している価格の2割引相当,普通車利用者に至っては3割引相当が適当という判断を下していた.
また,グリーン車利用客・普通車利用客を通して自由回答記述に多かったものとして,データイムグリーン料金回数券の存在が挙げられる.これは,現在のグリーン車の価値に関する質問の回答で,現行価格帯の900〜950円・50kmの現行価格帯となる750円を抜き,500円前後の回答数が群を抜いていたことからも明らかである.現実の価格と価格乖離感が発生している状態は,適正価格にて適正サーヴィスを提供する輸送環境としては不適当である.現状評価の平均値(普通車・グリーン車合算分)に,仮想評価における各種改善プラン平均値をすべて累加した場合,はじめて現在の価額と同水準に並ぶ.
すなわち,短期展望として現在のグリーン車のレヴェルとサーヴィスを今後も提供し続ける場合,グリーン料金については値下げを前提とした見直しが必要であり,現状は価格が高値側に不均衡状態であると結論づけられる.
9.1.3.グリーン料金の距離刻みについて
先に9.1.2.でグリーン料金の割高感について指摘した.自由記述回答でも特に普通車利用者から意見が寄せられたものとして,グリーン料金の刻みが粗すぎるとあった.確かに,距離的な不平等感が割高感につながっているとも考えられる.そこで,表9に現在のグリーン料金表を挙げてみた.尚,各料金枠の下にある各駅は東京駅を起点として,各ゾーン内の主要駅である.
営業キロ 〜50km 〜100km 〜150km 151km〜 グリーン料金(円) 750 950 1620 1900 主要駅(東京起点) 品川 藤沢 熱海 静岡 川崎 平塚 伊東 島田 横浜 小田原 沼津 大船 成田空港 富士 津田沼 逗子 勝浦 千葉 表9
この表を見ると,横浜まで使うのと,大船まで使うのでは距離感も所要時間の違いも大きい.100kmを超える長距離部分はともかくとして,朝晩を中心に利用が多い100km以下について,1〜2段階くらい料金帯を増してもおかしくない.そもそも,この料金帯自体はまだ昼間の普通列車で浜松・名古屋・大垣)辺りまで直通列車が存在していた頃から殆ど変わっていない.そこで,100km以下に別途,仮設として30kmと80km料金帯を設定してみた.料金についてはそれぞれデータイムグリーン料金1回分と,両側距離の中間として半額算出した.すると,表10のようになる.
先ほどより,幾分か納得がいく距離区分になっていると考えられる.80km以下の料金区分と主要駅に注目すると,モデルケースの逗子駅がある.先ほどの分析結果でも,現状グリーン車で平均で708円,仮装改善グリーン車で800円前後と価値付けを行っていた.この距離レートで考えてみると,利用者判断と事業者提示価格の中間に相当する料金帯が実現できている.かつてのような,超長距離を直通するグリーン車の運用が無くなった今,比較的近距離で,気軽にグリーン車を利用する人を誘発する制度が策定されても不自然ではないし,調査結果にも見られる実際の使われ方からも納得いく方策である.
9.2.技術・設備的に改善が求められる部分
9.1.1.座席横幅の拡幅
E217系グリーン席の座面横幅は45cmとなっている.これは新系列通勤電車のロングシート1人分と同じである.旧来の標準的なグリーン車に比すると,2cm近く広がっている.在来車基準値は昭和30年代の平均的な身体寸法を基準にしたものであり,決して十分ではない.自由記述回答でも見られた通りで,通路の通行に支障が出ない範囲で横幅の拡幅を行う必要がある.
9.1.2.アームレスト(肘掛)の改善
次にアームレスト改善を挙げる.グリーン席にはサイド(横肘掛)・センター(中央肘掛)が付いている.インアームレストについて,サイズ・形状共に隣席との仕切の機能を果たしきっていない.座面からの長さ・高さがサイド側と付合しておらず,実際に利用すると,身体バランスに不均衡感が発生する.利用者のプライバシー向上と機能性向上を勘案した場合,現在のアームレストは本来の機能を果たしていない.
9.1.3.フットレスト(足乗せ・足置き)設置
仮想改善プランの中で,座席幅に次いで要望が多かったのが,フットレスト設置である.今日の若年層は体格的に恵まれており,取り立ててフットレストを利用する必要は無い.一方,高齢者や女性は,着座した時点で床面に足が届ききらない人も多い.今回の調査でも,自由記述回答の他に調査員に直接この旨を伝える利用者が多かった.
JR他社では,E217系と同等のシートピッチにも関わらず,フットレストを装備している車両が多い.機構自体も,人手を煩わせないメンテナンスフリー構造になっているものが多くなった.高齢者や女性を中心に,ニーズに合致すると判断する.
9.1.4.背面形状の改善
仮想改善プランで選択されたものとして「隣人と触れ合わない」というものが多かった.実乗調査で判ったこととして,背面形状が現実的な形状になっていないと考えられる.この座席の場合,まず臀部座ブトン形状が平面に近い形状になっており,上半身からの体重遷移に腰部でのホールドができていない.腰部を背もたれ側に付けても前方にせり出る,落ち着かない着座姿勢になってしまう.足で床面を押さえる姿勢が必要になるが,床は本章で後述しているカーペットなどの滑走低減策が施されておらず,また,安楽が前提の座席環境では落ち着きの無い状態になっている.
リクライニングさせた時,他人との境が明確になることで,プライバシーの確保が達成されることで心理的に安心感が発生する.しかし,この座席はヘッドレストなどの装備がなく,隣人の視線を感じる意見も散見された.そこで,背面について上方に2〜3cm程度し,ヘッドレスト部分について緩やかに前方傾斜する形状にすることが望ましい.また,外部環境と仕切る意味合いで,背面の一部はサイドアームレストの上側に張り出す形状も有効である.一部特急車両のアコモデーション改善車にも採用されており,視覚的に幅広い座席の印象を持たせると共に,上半身の安定したホールディングに寄与している.
9.1.5.手すりの設置
鉄道車両に限らず,バ
リアフリーやユニバーサ
ルデザインについて積極
的配慮した製品や設備の
普及が著しい.グリーン
車は全員着席を前提とし
ているためか,階段やデ
ッキ以外に取り立てて手
すりが設置されていない.
ところが,実乗調査では,
自由記述回答でも新型車
両の揺動に関しての指摘
が多かった.
写真1は中央線特急「 写真1
スーパーあずさ」普通席
である.ヘッドレスト背後に手すりが設置されており,揺れる車内でも安全通行が可能である.また,形状も設置場所を工夫したことで,手すりが露骨に通路へはみ出していないことにも美観上・機能上から好感が持てる.グリーン席のヘッドレスト背面側に通行者用の取手を設置し,今後,高齢者や障害者向けの手すりを背面に増設することも必要だろう.
9.1.6.床面カーペットの充実
仮想改善案でも,床面全体のカーペット化について評価が集まった.E217系グリーン車は,客室通路部分にのみカーペットが敷かれている.実際に着席すると,着席時に足下が滑る感触を受ける.また,フットレストあるいは類する姿勢保持用のパーツが存在しないことと,座面構造によって上半身の重量がそのまま臀部から下半身へ流れる状態になることから,静閑性の向上と床面の摩擦維持の観点からも必要である.
同様に,昇降で激しい騒音源となっている階段部分も壁面と床面について布を貼った上で静音化が必要である.新型車両のグリーン車に特有の音として,在来車より中高音部の騒音が多く入って来ているように見られる.また,同一レヴェルの外部騒音(駅の発車ベル・列車のすれ違い音等)に関しても,在来の同一構造車(2階建グリーン車)に比して,多く侵入している.外部からの音環境は,残念ながら確実に悪化していると取ることができる.これらを少しでも軽減することは,静かさを求められているグリーン車の価値をアップさせるための施策として必須である.
9.1.7.仕切扉設置
デッキと客室の間に扉の設置を要望するものが多く見られた.グリーン車では,携帯電話に関し,デッキへ誘導しているものの,デッキに近い2階席・階下席では,話し声がそのまま入ってくること,ドアが開く度,外気が流入して,空調効果が良くないことが挙げられている.
現在の構造では一見,設置は不可能に見える.しかし,折戸設置を条件にすると,2階席部分は階段上端に,階下席部分は階段下端で客室側に開扉形状の仕切扉が設置可能であると見られる.構造的に,デッキ側・客室側双方からの視界を確保した上での設置は,取り立てて難しいことではない.これは空調効果の維持も兼ね備えることとなり,客室としての落ち着きを考えると,極めて実利の多い,かつ利用者にも直接的にメリットが分かる改善案となる.
9.1.8.携帯電話・モバイルスペースの設定
情報機器普及に伴い,車内利用を志向する人と快く思わない利用者が対立するようになってきた.現在,JR及び私達鉄では,デッキを持つ車両など音源隔離できる列車以外では,通話機能を焦点として基本的に利用を禁止している.そこで,グリーン車では通信機器が利用できることを付加価値の一端として認め,携帯電話による通話・通信及びコンピュータ類の利用が可能な空間に提供することを提案したい.自由回答記述意見と照らし合わせると,利用志向側と隔離志向側共に,この空間の設置には好意的であった.
このスペースを設置する場合,普通車からの乗り込みが無く,かつ医療器具を付けた人が容易に場所を移れるように,現在の4号車車掌室側の1階席部分に設置するのが効率的かつ理想的である.電源についても可能であれば,コンセントの配慮をしておきたいし,将来的には列車自体を一つのサーバーとして情報通信が可能なインフラを備える必要もある.
9.1.9.荷物置場の設置
成田空港利用者は少なからず,グリーン車に乗車しているが,スーツケースなどの大型荷物を収納するスペースが存在していない事が挙げられる.2階席・階下席などは車両構造上の問題で荷物棚が存在していない.しかし,1階席部分にも荷物スペースが存在していないのは現在の用途を考慮すると問題である.
今回の調査では,D行路で成田空港からの帰途利用者が乗車していた.しかしながら,スペースが存在しないためやむなく通路に置いていた.これは,乗務員・他利用客の通行阻害になるばかりか,非常時は通路をふさいでしまう危険物になる.所有者自身も,転動しないよう,常に監視していなければならず,精神衛生的に必ずしもよい状態とはいえない.
現在のE217系車両が投入される前の2階建てグリーン車には,荷物置き場が1両に1ヶ所設置されていた.安全上・実用上の観点から,1席(2人分)の定員減は仕方ないとして,荷物置場を設置すべきである.あるいは閑散時間帯について,車掌判断で業務スペースを随時開放するなど,現有設備の弾力的な空間利用を図るべきである.
9.1.10.車内放送のカット
グリーン車では,多くの人が過剰な車内放送のカットを望んでいた.今回,仮想評価のサーヴィスでも,本来的に運用経費が0円と同義のプランにも関わらず,多くの価値を見いだした回答が多かった.
これは,利用者の多くが「毎日聞いている」常連客の意見であることが挙げられる.朝晩の利用者が固定されている列車では,終着・非常事以外の車内放送をカットしても構わないと考えられる.今まで,一斉放送でまかなってきた情報提供手段のメインを,各客室に設置されている電光掲示板にシフトさせた方が,ユーザーニーズとグリーン車に求められた価値に応えている.この上で,新規あるいは利用回数の少ない利用客が,車掌を呼び止めて個別応対した方が利用者により近いサーヴィスの展開となる.
9.1.11.その他
このほか,グリーン券売機の増設や満席案内灯の設置について,いくつか意見が挙げられた.
10.
まとめ
本調査では,CVMに代表される表明選好アプローチを用いることで,実際にJR横須賀線の車両及び施設内で調査を展開したことから,個々の価値・意見・情報の信頼性は高いと考えられる.
懸念されるバイアスに関しても,利用者に可能な限りで正確な情報を伝えた上で,実際にサンプル数を確保することで,客観的なデータをより正確に得ることが可能になることから,今後,交通運輸環境に限らず,広く様々な価値観を計測し,プライオリティやニーズを捉えるために有効な手段であると考えられる.
今後の課題としては,普通車と一部のグリーン車では回答時間や枚数の関係で郵送回収方式となったが,可能であれば両者共に同一のシチュエーションで回答が出来る環境,あるいは紙面を用いた静的な仮想評価を一歩進め,現状と改善案について可能な限り体験・経験できる上でその価値観を探り出す動的な仮想評価プロセスを行うことができれば,より現実に近い数値が得られると考える.
謝 辞
本研究は,社会調査や史資料収集をはじめとして森泰吉郎記念研究振興基金の財政的支援に依ったところが大きく,研究助成の対象となったことについて,改めて感謝と御礼を申し上げる次第である.
本研究は慶應義塾大学東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の寄附講座構成員が遂行したが,講座は寄附基金の運用果実を基にしている性格上,折からの低利率によってその財政的基盤は不安定かつ不十分なものとなっている.
本研究の分野は鉄道に限らず,広く社会環境の向上に貢献するものであり,多様化した価値観を実社会で反映させる視点について,社会的意義は十分あるものと考えている.また,この研究の他にも当プロジェクトでは交通環境をベースとした諸科学横断的アプローチに立脚する現実的な問題発見解決型の研究を遂行しており,今後とも変わらぬご支援を頂戴できればこの上ない幸いである.
研究成果・外部発表等
(1)
内垣大輔・有澤誠「特別車両アコモデーション改善方策の研究」(日本地理学会2001年度春期学術大会,2001年3月27,28日,於:千葉県佐倉市)
(2)
内垣大輔「鉄道車両アコモデーション改善の研究」(慶應義塾大学有澤研究室・交通運輸情報プロジェクトレビュー8,2000年2月)
(3)
内垣大輔「特別車両アコモデーション改善方策の研究」(慶應義塾大学有澤研究室・交通運輸情報プロジェクトレビュー9,2001年2月)
参考文献・参照論文
松下圭一:現代政治の基礎理論,東大出版会,1995
鈴木浩明:快適さを測る,日本出版サービス,1999
野田正穂/原田勝正/青木栄一/老川慶喜:
日本の鉄道,日本経済評論社,1994
星 晃:回想の旅客車(上・下),交友社,1985
飽戸弘:社会調査ハンドブック,日本経済新聞社,1987
竹内憲司:環境評価の政策利用,勁草書房,1999
日本国有鉄道:日本国有鉄道百年史,日本国有鉄道,1971
経済企画庁総合計画局:
おいしい交通をめざして,大蔵省印刷局,1991
慶應義塾大学交通運輸情報論ジュニア研究会:
交通運輸情報論レビュー4, 慶應義塾大学交通運輸情報論ジュニア研究会,1995
慶應SFCデータ分析教育グループ:データ分析入門,慶應義塾大学出版会,1998
鉄道図書刊行会:鉄道ピクトリアル, No.458,495,506,524,543,581.
鉄道ジャーナル社:鉄道ジャーナル, No.269,270,323,347.
交友社:鉄道ファン,No.218,311,323,341,343,464.
肥田野登:鉄道サービスの質的評価に基づいた都市通勤輸送に於けるハイグレードカーの導入可能性に関 する研究,土木学会論文集,No.413,pp.57-66,1990
鈴木浩明,白戸宏明,小美濃幸司:
列車の車内快適性に影響する要因の特定,鉄道総研報告 No.11,pp.31-36,1997
加藤尊秋:欧州都市鉄道における車内設計の動向−移動過程の機能の考慮による鉄道の魅力向上策, 運輸と経済 No.57,pp.56-64,1997.
須田義大:乗客の快適性定量的評価手法と快適通勤車両の提案,運輸と経済 No.58,pp.44-53,1998