森基金結果報告書

マウスcDNAを利用したpolyA signalの統計的解析

博士課程3年 鷲尾尊規

目的

3'-UTR における polyA signal の位置や頻度を解析する。 polyA signal として実際に機能しているパターン配列の同定。Substraction 強度との 関係をみることによって転写量と polyA signal のパターンとに相関があるかどうかを探る。

方法

ゲノム全体における PolyA signal の統計的な解析を行うことによって、その特徴を調べる。またこれまでに知られていない機能未知の配列の特定を行う。 substraction 強度とpolyA signal の関係からクローンの転写活性とpolyA signal との関係をみる。 精度の高いクローンだけを抽出し、クローンごとの polyA signal 数を計算、substraction 効率との比較を行う。

他にも以下のようなテーマについて、マウス cDNA を使って冨田研究室の学生と共に研究を行った。

  • Alternative splicing の解析
  • 5'-UTR の立体構造と翻訳機構の解析
  • コドン頻度から求めた CAI値 とコザックコンセンサスの関係
  • イントロンの位置と長さ、スプライスサイトのコンセンサス
  • ストップコドン周辺のコンセンサスパターン
  • 18S Ribosomal RNA と cDNA の相補性
  • Alu, Line などのレトロトランスポゾンの解析
  • 5'-UTR の CpG 頻度の解析
  • GC 含量
  • cDNA, ORF, UTR の長さの分布
  • 5' から100bp のコンセンサス
  • アミノ酸2文字のパターン
  • di - hexa nucleotide の頻度解析
  • パリンドローム配列の解析
  • タンデムリピートの解析

    研究の実施経過

    重点研究期間1(Tom Project)
    cDNA の大まかな解析を目的として、プログラム作成、並びにそれらの整合性、データ検証を行った。前期の研究として、Tom Project(トムプロジェクト)と命名。
    合宿にて成果発表
    冨田研の合宿においての研究成果を発表した。
    手直し、全体でまとめ
    個々のプログラム修正、ならびに理研での発表準備。
    理研で全員出席の発表会ならびに親睦会
    理化学研究所にて Tom Project の成果を発表しディスカッションを行った。
    FANTOM 開催
    世界中の第一線の研究者が集まる FANTOM Meeting というコンソーシアムに参加し、 マウス cDNA のアノテーションを行った。 Tom Project の成果も提供し、コンソーシアムへの貢献を行った。
    重点研究期間2(Jerry Project)
    FANTOM Meeting での結果を加味して、Tom Project で出されたデータの再検証、再計算を行った。
    夏プロ成果発表合宿
    冨田研の合宿にて Jerry Project の成果発表を行い、これらの成果を個別の論文にするためのディスカッションを行った。
    個別論文の作成
    各テーマについての個別論文の作成を行った。

    研究の成果

    (実績)Nature誌に論文が掲載されました。

  • The RIKEN Genome Exploration Research Group Phase II Team and the FANTOM Consortium.
    "Functional annotation of a full-length mouse cDNA collection.", Nature 409, pp685-690, 2001, PDF available (138KB).

     マウスのcDNAを過去に類を見ない規模で網羅的に解析したもので、表紙の見出しにもなりました。これは国際コンソーシアムの成果ですが、SFCからは冨田研学生18人が参加、コンソーシアムに参加した中ではSFCは2番目に貢献度が高く、主としてDNAのコンピュータ解析を担当し、全員Nature誌の論文の共著者あるいは謝辞に名前が掲載され、新聞記事にもなりました。私はSFC側のリーダーとして実際の研究の指導・まとめを行い、著者の一人として選ばれました。(See pp.689)