メディアとしての地域通貨


「エコマネーがもたらすコミュニティの可能性についての考察」

  〜自然環境問題における情報の効果〜



<研究意義>

Key Words 共通の価値判断基準/環境価値の貨幣評価/個人の環境意識/エコマネー

私たちは、日常生活を取り巻く環境において、自然環境・福祉・介護など、多様な問題に直面している。例えば、自然環境問題に注目すると、そこでは、開発推進側と環境保全側の感情的な対立は後を絶たず、かつ、解決にも至っていない。今の私たちに必然的に求められているのは、合意形成を目的とした自然環境をはじめとした身のまわりの生活環境に対しての共通の価値判断基準をもつことではないだろうか。

既存の基準としては貨幣が一般的であり、CVM(仮想市場評価法)をはじめとした環境価値の貨幣評価が行われている。徳島県吉野川の可動堰化計画の際にも、CVM調査が行われている。そこでは、全国世帯を対象にすると評価額は2648億円となり、可動堰建設費用950億円をはるかに上回っている。しかし、この評価額と一般住民の環境意識の整合性は疑問を抱かざるを得ない。もちろん、環境価値を経済に内部化することによって、開発と環境とが同じ次元で捉えられ、両者の対立の焦点が明確になる。

しかし、価値判断基準を貨幣にのみあてはめるのは限界があるのではないか。貨幣には換算できないけれども、共通して受け止めることのできる複数の価値判断基準の存在を認めていかなければならないのではないか。もちろん、ここの「共通」とは同意ある妥協の産物で構わないと思う。

合意形成に有効な環境評価の実現のために必要なのは、一般住民が、身のまわりの環境価値を日常生活の中でどのように位置づけているのかを明確にする手法を身につけることであろう。個々人の環境意識を表出する有効な方法を身につけるべきである。そして、それを可能にするものが、エコマネーであると考えている。

あらゆる環境問題は、問題の根源を考えてみても、もはや、「環境」という1つの枠組みの中で解決できる状況にはない。そこで、地域コミュニティを媒体として、他の社会問題とのバランスを考慮に入れながら、問題解決のプロセスをつくりあげる必要があろう。そして、エコマネーならば、あらゆる生活環境に価値と信用をつくり出すことによって、結果的に、個人の環境意識を生かした環境負荷軽減に向けての環境政策も期待できると考えている。

さらに、個人の環境意識を日常生活のなかで価値付ける習慣は、将来的には、個人意識の反映という点において、CVMなどの経済手段を従来よりも政策決定にとって有効なものにするであろう。エコマネーを通して環境価値を社会システムに組み込むことによって、結果的に、CVMなどのような環境価値を経済システムに組み込む手法にも影響を与えていきたい。そして、最終的には、社会システム・経済システムの枠を超えて、個人の環境意識の反映する手段を模索していきたい。



<研究目的>

Key Words エコマネー/地域コミュニティ/電子マネー

個人の環境意識を社会システムに表出する手段として「エコマネー」を取り上げる。環境配慮への個人の自発性を高めることで、最終的には、エコマネーによって形成されたコミュニティにおける環境負荷軽減を目的とする。そこでは、コミュニティにおける環境価値の位置づけを明確にし、個々人が環境価値の相対性を生活実感として認識することを可能にしていきたい。
環境やボランティアなど貨幣には換算できないが「価値」として影響力をもつものを、地域住民が主体となって相手との話し合いのなかで価値評価をおこなうことによって、特定のコミュニティ内に多様な価値の創造を可能にし、環境問題をはじめとしたあらゆる社会問題の解決を促していくことを目的とする。



<研究手法>

1.<貨幣システムの限界とエコマネーの必然性についての検証>
→「公」「私」「共」の再編と貨幣部門・非貨幣部門の分類の認識

2<エコマネーのもたらす組織論的効果の検証>
→コミュニティマネーが、地域住民やボランティア組織に与える影響
→拘束されない組織形態がもたらす効果

3.<エコマネーのもたらす経済的効果の検証>
→資金循環の実現による地域経済の活性化への期待
→コミュニティマネーやLETSが既存の経済システムに与える影響

4.<エコマネーと環境問題との相関関係の検証>
→地域内での物質循環の形成による環境負荷軽減化への期待
→個人の環境意識の自発性の尊重と、それを組み込んだ環境政策の実現

5.<エコマネーのもたらす新たな地域コミュニティの検証> →地域コミュニティという、住民のコミュニケーションの場の構築

6.<電子マネーを活用したエコマネーの可能性> →コミュニティ内部における、価値情報の共有化 →外部の他のコミュニティとの連携における電子マネーの活用




<地域通貨・エコマネーの現状>


各国の地域通貨

地域通貨は、特定の地域内で、通常の国家通貨以外の通貨を発行するシステムで、世界各国、各地域で、さまざまな動きが見られる。

システムの種類としては、@紙幣発行型、Aタイムダラー型、B通帳記入型、C小切手型などがあり、世界的には、 ロバート・オーウェン → 労働交換証券 / マイケル・リントン → LETS < Local Exchange Trading System > / ゲゼル → スタンプ通貨 などがある。

現在、世界には、2000以上の地域通貨があり、規模の大きいもので、スイスのWIR(ここでは、スイス企業の17%が参加)、さらには、アルゼンチンのRGT(約10万人が参加)などが存在している。




□地域通貨の社会的効果


<国民通貨と地域通貨>

LETSのような地域通貨はあくまでも国民通貨の補完であり、代替ではない。
地域通貨と国民通貨の並行通貨制こそが望ましいのではないか。

国民通貨
:個人の消費活動や資産に関わるプライバシーを守る装置

地域通貨
:市場経済のなかの個人の私秘性・匿名性を公共空間へ開いていく装置

地域通貨と国民通貨の共存
:自己をどの程度外部に開示していくかを個々人に自律的に選択させ判断させるもの


<地域通貨をどの程度組み込んでいくのか?>

そこで、重要なのが「地域通貨をビジネスとして企業が承認し、いかに活用していくか」である。

具体例↓
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「サステイナビリティ・プロジェクト」(キッチラノ)

目的;自立的資金循環の形成・地域経済の安定化

手段;コミュニティ・ウェイと呼ばれる、地域に根ざした一般企業からの資金調達法を利用

企業の利点:現金がなくてもコミュニティ援助が可能
     :顧客の認知と愛顧を獲得可能

住民の利益:金銭的犠牲がなくコミュニティ援助が可能
     :地域ベースの企業から商品やサービスを購入することで
      人々は自分たちが望ましいと思うプロジェクトを選択し、投票できる

全体の利益:公的プロジェクトが住民からの資金調達と民間企業からの寄付によって実行
     :公的プロジェクトを介してその地域の自律的資金循環を形成
     :より持続的で、発展性のある地域プロジェクトの実現

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地域通貨の導入とは↓

 :地域やコミュニティを外部市場から閉じてしまうことではない
 :部分的な閉域化によって地域経済の自律性を制御し、
  住民側の自発的な意思決定にその制御を委ねることである
 :グローバリゼーションとローカリゼーションの融合における住民の意思表示としての機能






日本の地域通貨(→エコマネー)


地域・団体名 目的 活動 エコマネー名
北海道 栗山町 介護・福祉・
市街地活性化
H.12.2月より、2ヶ月間、第1次実証実験開始/ 夏、2次実験。H.13より、本格開始。 クリン
北海道 下川町 地域活性化 H.12年度より、事業化調査
北海道 富良野市 地域活性化 H.12年度より、事業化調査
北海道 女満別町 地域活性化 H.12年度より、研究会発足
群馬県 太田市 NPO連携 H.12年度より、実施予定
群馬県 南牧村 NPO連携 H.12年度より、実施予定
神奈川県 横浜市 100人委員会 まちづくり H.12年7月、計画発表
長野県 飯田市
飯伊地域メディア協会
環境対策 環境都市を目指し、ゴミ問題に適用の予定
長野県 駒ヶ根市
つれてってカード共同組合
駒ヶ根青年会議所
市街地活性化
まちづくり
プリペイドICカードとの連携を計画/ 青年会議所の本年の活動方針を受け、 4月から模擬実験活動開始 ずらー
長野県 長野市
長野青年会議所
まちづくり H.12年度中、小学校に「エコマネー」導入を計画
富山県 高岡市
商工会議所
まちづくり
地域活性化
商店街活性化とボランティア活動の連携を計画/ 3月末に第1次報告 どら―
富山県 富山市
社会福祉生協
高齢者福祉 元気な高齢者の生きがいづくりに導入を計画 キトキト
静岡県庁 介護・福祉・まちづくり・環境対策 H.11年度に調査研究会発足/ H.12年度には候補地を選定し実験予定
滋賀県 草津市 NPO連携
まちづくり活性化
H.11年6月より、草津コミュニティ支援センターを 中心としたNPOの活動に導入 おうみ
兵庫県 宝塚市 NPO連携
まちづくり活性化
行政のスリム化(アウトソーシング)と NPOの連携に導入を計画
高知県 中村市 環境対策とまちづくり 四万十川の環境対策と 下流域の中村市商店街活性化に導入を計画
愛媛県 高齢者福祉
まちづくり
地域活性化
H.11年度、調査開始/ H.12年度、5地域を選定し実施
沖縄県 座間味村 地域活性化 H.12年、研究会発足
沖縄県 石垣市 市街地活性化 H.12年、TMO発足、計画立案
日本青年会議所
市民セクター応援特別委員会
まちづくり H.12年、活動計画に組み込む/ H.12年7月計画発表


→さらに、日々、全国各地で、エコマネーの実践が広まりつつある。