他者の活動履歴に着目した実世界オブジェクト探索支援システムの設計
と実装
鳥谷部桜
政策・メディア研究科修士課程1年
saqura@sfc.keio.ac.jp
ある場所に訪れたユーザのその場所を訪れた目的の達成(オブジェクト探索など)に役立つ情報を過去に訪れたユーザが残した情報から提供するシステム"Hear Here"を提案する。特に実際のサービスとして使用される際に問題となる、過去に訪れた人からその場所で得た情報をどのようにユーザのモチベーションを下げずに取得するかを主な課題とし、その解決策を提案し、一部実装を行った。 |
1.背景
街中で買い物をしている人は、自分の好みのサービスや商品を手に入れるためにお店や商品を探している。一方過去に来た人が持っているお店や売られている商品に対する感想やイメージは、経験に基づいた信頼性の高い情報であると考えられる。そこで、過去に来た人のお店や商品に関する情報を蓄積し、のちの買い物客に情報を提供する。 ■提供される情報 ・値段 ・商品 ・混雑具合 ・雰囲気 2-2.映画館、遊園地、水族館、コンサートホール
■情報の内容 ・他者の感想 2-3.美術館、博物館
美術館や博物館を訪れる者は、その展示物に関する知識を得と考えている場合が多い。その時、同じ展示物を見た他者の意見や疑問を知ることで新しい視点に気付き、さらに興味や関心を持つことができる。興味や関心を持つことは新しい知識の理解や習得のモチベーション向上につながる。 ■情報の内容 ・他者の感想 ・他者の意見 ・他者の疑問 3.先行研究 現実世界の物や場所と関連した情報を実空間にいるユーザに提供する研究として、拡張現実感(Augmented Reality)と言われる研究がある。拡張現実感とは、場所や物を情報によって拡張するという意味である。この分野の研究では、ユーザが自然に物や場所と関連した情報を得るインタフェースの研究[1][2]やユーザの位置や趣向など現実空間にいるユーザの状況をいかにシステムで得るかといった研究[3][4]が多い。これらは情報の生成についてはあまり着目されておらず、提供される情報は事前に誰かが制作することを前提としているものがほとんどである。本システムは提供する情報の生成に着目し、情報がそこを訪れた不特定多数の人によって作られる点で異なる。また垂水らはSpaceTagという時空間限定でアクセス可能なオブジェクトを提案し、それによって実現する世界の構想を述べている[5]。SpaceTagでは、一般ユーザが情報を作成し、作成した情報はその場で貼り付けることを想定している点で本研究と同じである。しかし情報取得に関するシステム設計については述べられているものの、情報の生成に関しては具体的なシステムは提示されていない。 また、従来「いつでも」「どこでも」と言われるモバイル・インターネットを使ったサービスでは、いつでもどこでも「情報が得られる」ことを意味しているものが多かった。例えば外出時にインターネットにつながる携帯電話から電車の時刻表などを検索できる「駅前探索クラブ」[6]がある。本研究では現実空間で情報の入力も行うサービスという点で従来の多くのサービスと異なっている。 4.Hear Hereの設計 4-1.課題 本研究では、本システムの特徴の一つである「他者の活動履歴の取得」という課題に焦点をあて、システム設計を行った。ユーザの携帯端末による情報発信促進には、心理的、物理的にも、データ入力のモチベーションを向上する工夫が必要である。以下に課題をまとめる。 @心理的な問題 a.いつ情報入力をするか b.どこで情報入力をするか c.エンターテイメント性 A物理的な問題 a.情報入力項目の数や内容 b.入力方法 4-2.システム設計 4-1で述べた課題を考慮し、Hear Hereのシステムを提案する。 |
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ユーザが持つ端末は、ユーザの入力情報に自動的に含まれる位置情報の取得、ユーザが立ち止まったかどうかの取得が必要となる。そこで現在は、市販のPDAにGPSと万歩計をつけることを考えている。 またサーバへのデータアップを少なくするため、ユーザが入力した情報はある程度端末に貯蓄し、一定時間ごとにサーバーへアップするか、携帯端末内のデータをPCにシンクする際にデータをサーバーにアップする仕組みにする。
5.試作状況
@入力インタフェース 物理的な入力のやりにくさは、システム利用のモチベーションの低下につながる。そこで、はじめに行うユーザ登録以外は選択ボタンのクリックのみで利用できるようにした。具体的にはユーザの答えの選択肢をすべて用意し、それぞれ選択されるとGETメソッドを使ってCGIを呼び出すようにした。 A場所の選択 試作システムでは位置情報は自動的に取得できないため、ユーザがはじめに場所を選択を行うようにした。この部分は将来的には可能な限り自動で行われるようにする。現在は以下のような選択を用意した。 ・飲食のお店 ・洋服のお店 ・装飾品のお店 ・雑貨のお店 ・食材のお店 ・図書館 ・美術館 ・水族館 ・映画館 ・演奏会ホール ・遊園地 Bキャラクターとの会話 @で選択された場所のカテゴリーごとに、キャラクターの質問とユーザの答え(選択肢)が登録されている会話用データベースを用意した。ユーザが選択した答えによってキャラクターの次の質問をデータベースから取りだし表示している。また、ユーザが質問攻めにならないようにキャラクターの感想「それは良かったね!」などといった相槌も用意した。 C場所プロファイルへの情報蓄積 Bのユーザとキャラクターの会話用データベースの中のユーザの答えの中からいくつか情報提供時に役立つ答えを事前に決めた。この答えをユーザが選択した時は、場所のプロファイル用データベースに答えが登録される。ユーザがキャラクターと会話し答えている中で何度か、場所プロファイル用データベースに、場所、ユーザ、質問、答え、日時の値がデータベースに蓄積される。 Dユーザプロファイルへの情報蓄積 Cの場所プロファイルと同様に、Bのユーザとキャラクターの会話用データベースの中のユーザの答えの中から、いくつかユーザの趣向を知るのに役立つ選択肢を決めた。この答えをユーザが選択した時に、ユーザプロファイル用データベースに登録される。ユーザがキャラクターと会話し答えている中で何度か、ユーザプロファイル用データベースに、質問、答え、日時の値がデータベースに蓄積される。 Eユーザの特定 システム利用前にユーザ登録を行い、利用する際にはユーザを特定するようにした。ユーザの特定をする理由は、将来は情報提供をする時にユーザの趣向と提供される情報を入力したユーザの趣向によって、提供する情報にフィルターをかける為である。 6.今後の予定 現在主に3つの課題が残っている。 1つ目は、ユーザと自然に行うキャラクターとの会話を改良することである。作成したプロトタイプのユーザに提示する選択肢が適切か、キャラクターの返答が適切かについて、使用実験を通して改良する。 2つめは、「歩くペースが変化して一定時間たった後に問い合わせる」仕組みが本当に有効かという問題だ。これは実際の使用実験を通して検証する。現在handspring社のVisorと現在開発中の株式会社ハギワラシスコム社の万歩計モジュールでプロトタイプを作り実験を行う予定をしている。 3つ目は情報提供部分の実装である。 今後以上3点の課題について研究を進める。 7.関連研究 [1]暦元純一,綾塚祐二,林一輝:Augment-able Reality:実空間と情報空間を融合した情報交流,pp.115-pp.124,WISS'98,1998 [2]脇田敏裕,長屋隆之,寺嶌立太:2時限コードを用いたWWWと髪メディアとの融合の試み,pp.1-pp.6,情報処理学会ヒューマンインタフェース76-1,1998 [3]加藤清志,芦田和正,兼吉昭雄:加速度による携帯端末向け状況センシング方式の開発,pp.7-pp.12,情報処理学会ヒューマンインタフェース87-2,2000 [4]中村哲也,松尾真人,板生知子:適応型通信サービスにおけるコンテクスト情報提供方式,pp.83-pp.90,情報処理学会モーバイルコンピューティング12-10,2000 [5]垂水浩幸,森下健,上林弥彦:SpaceTagのアプリケーションとその社会的インパクト,情報処理学会グループウェア33-6,pp.31-pp.36,1999 [6]株式会社東芝 駅前探索クラブ http://ekimae.toshiba.co.jp/ |