都市のリスクマネージメントプロジェクト 2000年度秋学期 活動報告 2001/2/9

「災害後の応急対応におけるコミュニティ資源の活用方策」

政策・メディア研究科 89932390 吉ヶ江 学

1 研究の背景 

阪神・淡路大震災では、広域的、組織的な防災の初動体制は一定の時間を要することが改めて認識され、災害発生直後における被災地域住民自らの判断による避難行動、あるいは初期消火活動や救助活動といった応急対応の重要性が一層クローズアップされることとなった。

大規模災害時において被害を最小限にくい止めるためには、地域の防災組織の育成や住民の発災直後の救助活動が不可欠である。

このようなソフト面の防災対策を進めるにあたって重要な点は、地域のコミュニティ資源を活用することである。住民、行政、企業など様々な立場にある地域の住民が、地域に存在する資機材や物資を活用し、震災時にどのように対応を進めるべきかを決め、住民自らの力で復旧できるよう事前準備をしていく必要がある。

本論ではコミュニティ資源の活用に着目して、地域防災における応急対応のあり方を検討する。

 

 コミュニティ資源の定義・内容について

本研究の対象とする地域防災の規模は、小学校区程度までの近隣防災を範囲とする。ここではとりあえず、自らが所在するコミュニティで防災活動へ活用の可能性を持つ、人材、組織、物資、空間などをコミュニティ資源と定義しておく。具体例として(表1)が挙げられる。

(表1)コミュニティ資源の分類

人的資源

物的資源

空間資源

 

自主防災組織

消防団

企業

医師会などの非営利組織

PTA

など

 

防災備蓄資材

企業の資機材

個人の資機材

流通備蓄

防災井戸

など

 

小・中学校

病院

福祉施設

広域避難場所

屋外のオープンスペース

など

 

 研究の目的

 研究の目的は、第一に住民による応急対応の現状を把握し、阪神・淡路大震災の教訓を参考として、課題を抽出することである。第二に、ケーススタディを通じて、地域特性の分類とコミュニティ資源の活用可能性の検討を行った。第3にコミュニティ資源を活用した住民による応急対応の方向性を提示する。

4 研究の流れ

 

 研究内容

1 住民による応急対応の現状と課題の抽出

まず住民の応急対応の主力として自主防災組織と消防団に着目し、活動状況や問題点を指摘した(表2)。

次に阪神・淡路大震災の教訓を基に、災害時の問題点を指摘した(表3)。

(表2)平常時の問題点

町内会・自治会との重複による防災活動の低調

人的資源の問題(高齢化・リーダー不足など)

◆物的資源の問題(資金・資機材の不足など)

◆都市的な生活スタイルの進行によるコミュニティ意識の希薄化と昼間人口の減少

 

 

 

 

(表3)阪神・淡路大震災の教訓

A住民による応急対応の活性化の諸条件

@の結果、被害を最小限に抑えるために、発災直後の段階から、被災した住民によって組織的に救助・消火活動が有効に行われる仕組みを構築することが必要であることが分かった。

よって住民の応急対応を活性化するためには、以下の3つの柱が挙げられる(表4)。

まず地域内のコミュニティ資源を活用するために、住民の防災意識を啓発し、地域の企業や民間組織と協力体制を構築し、協定を締結することである。

第二に協定によって結ばれた協力体制がネットワーク化されていることである。

第三に資機材や人材の情報のデータベースを構築することである。

(表4)活性化のための3つの柱

1:防災意識の啓発と組織体制の再編成

2:組織のネットワーク化

3:コミュニティ資源データベースの構築   

 

 

B石川・天神地区におけるコミュニティ資源の調査

(1)アンケート概要

このアンケートの目的は、コミュニティ資源のうち人的資源と物的資源について4つの指標を用いて測定を試み、コミュニティ資源の活用可能性を評価することである。

この調査は、藤沢市石川・天神地区の9自治会を対象とした。石川・天神地区は、藤沢市の北部に位置し、東西約2km南北約3km、世帯数約4,000、人口約15,000人の規模の地域である。

アンケート調査は平成12年12月に実施し、訪問回収方式により、300のアンケート票を無作為に配布し、237票を回収した。(有効票数234票・回収率約78%)

(表5)自治会の構成と回答者

自治会

登録世帯数

有効票数

下町

227

16

原庭

446

23

丸石

735

43

南原

690

38

山田

260

23

大山

302

33

卸売団地

23

0

近藤山

31

3

天神

1220

47

不明

 

8

合計

3934

234

 

(2)各指標の算定方法

(表6)コミュニティ資源の4つの指標

指標

意味・内容

 

居住地近接度

家族構成員の行動半径に着目して、各世帯と居住地との密着性を探る

 

資機材準備度

資機材の保有状況・備蓄状況に着目して、各世帯の資機材の潜在性を探る

 

安全性関心度

安全性への意識に着目して、意識的な面から各世帯の防災活動への参加可能性を探る

 

防災活動度

実際に行っている防災活動の内容に着目して、能力的な面から各世帯の防災活動への参加可能性を探る

(3)世帯別集計結果

世帯別集計の結果、以下のことが分かった。

一定の資機材と防災活動の蓄積があること

趣味・同○ 好会などの活動が藤沢市内を中心とした範囲で日常的なつながりが多く存在すること

    ● 安全性より利便さや健康性を重視していること

● 地域の大部分の世帯は居住地近接度が低く、横浜や都内へ通勤・通学する同居家族が多い都市的な生活スタイルを送る世帯が多いこと(図1)

防災活動の主力として期待される、居住地密着性の高い世帯は、救助を必要とする高齢者が多いこと(表7)

災害時には家族を優先し避難すると考える住民が多いこと

 

この結果、考えられる災害時の活動イメージは、地域全体の活動というよりも、一部のリーダーを中心とした活動が各自治会のなかで展開されるというものであると思われる。住民の全世帯参加を前提とした応急対応は困難であり、また各自治会によって差が生じるため、災害時には地元企業や他の自治会との連携が不可欠であることが指摘できる。

 

 

 

 

 

 

 

(図1)世帯別居住地近接度

(表7)居住近接度別平均家族数と世帯一人当たりの平均年齢

居住近接度

家族構成員数(人)

世帯年齢(歳)

0〜1.00

3.6

37.6

1.00以上

2.5

53.2

 

 

 

(4)自治会別集計結果

各指標について基準化変換を行い、各自治会についての相対的なコミュニティ資源のバランスを評価した(表8)。

人的資源に関しては、原庭・天神自治会は地元にいる確率が高いこと

山田・原庭自治会は安全性への意識が高いこと

下町・南原自治会は実際の防災活動の能力が期待できること

物的資源のうち資機材に関しては、丸山・大山自治会が資機材の潜在性が高いこと

 

対象地域において(図2)及び(図3)のように、各自治会のコミュニティ資源の内容は大きく異なっており、自治会に物的資源や人的資源が存在していても、災害時にそれを活用できる人材がいなかったり、能力が不十分であったりすることが予想される。また災害発生時に住民の多くが地域を離れている可能性や、救助・消火活動が住民の能力を超える場合も予想されることから、地元企業や民間組織へ参加・連携を促すことが重要である。

(表8)基準化変換した後の各指標の結果

自治会

居住地近接度

資機材準備度

安全性関心度

防災活動度

下町

2.823

2.823

2.867

3.319

原庭

3.202

3.066

3.438

2.795

丸石

2.998

3.331

2.821

2.985

南原

3.081

2.713

3.088

3.110

山田

2.909

3.042

3.104

2.910

大山

2.868

3.080

2.638

2.953

天神

3.101

3.006

2.934

2.922

(図2)原庭自治会の各指標

(図3)丸石自治会の各指標

6 まとめ

本研究では、住民の応急対応の現状や阪神・淡路大震災の教訓を参考として課題を抽出し、その結果から藤沢市石川・天神地区を対象としてアンケート調査を行い、地域特性の分類とコミュニティ資源の活用可能性の検討を行った。

その結果、大部分の住民は昼間居住地から離れていることが多いため応急対応に参加できない可能性が高いこと、また各自治会によってコミュニティ資源の内容が異なることが分かり、各自治会が相互連携を行い、他の地域や企業と連携体制を構築して、コミュニティ資源の内容を補完する必要があることが分かった。

7 今後の課題

今回の研究では、コミュニティ資源データベースの基本構想を提案し、プロトタイプとして既にある資機材に関しての情報をWEB上にデータベース化することを試みた。今後の課題としては、資機材だけでなく、人材やコミュニティなどの情報を取り込んで、平常時から利用可能なコミュニティ資源データベースを構築することが挙げられる。