2000年度森基金活動報告書
冷戦後の国際社会における日本型国際支援の検証
−日本の中東和平支援政策を事例として−
政策・メディア研究科 修士課程2年 89932359 山本達也
○ 研究活動の概要
本研究のテーマは、「日本の中東和平支援政策」である。特に、現行の中東和平プロセスを事例としてとり上げ、主に日本外交論の視点から研究をすすめてきた。今年度は、特に現地中東(シリア、ヨルダン、イスラエル、パレスチナ自治区)を訪れ約1ヶ月かけてフィールドワークを行った。
今年度は、これまでの研究活動をふまえ、研究成果を修士論文の形で執筆しまとめた。本報告書では、今学期の具体的な活動内容に加えて、執筆した研究成果(修士論文)の概要を紹介する。
1. 研究テーマ
主題:冷戦後の国際社会における日本型国際支援の検証
副題:日本の中東和平支援政策を事例として
2. 具体的な研究活動報告
本研究では、関係者へのインタビュー調査を重視しており、国内・海外を問わず多数の方へのインタビューを行ってきた。具体的には、2000年9月に中東を訪れ、インタビュー調査を中心としたフィールドワークを実施した。また、国内でも関係省庁、機関へのインタビュー調査を行った。
訪問国(訪問地): シリア(アレッポ、ダマスカス)・ヨルダン(アンマン)
イスラエル(エルサレム、テルアビブ)・パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区)
インタビュー実績:
<外務省>
○有吉氏(中近東アフリカ局中近東第一課)
○大石氏(経済協力局無償資金協力課)<国際協力銀行(JBIC)>
○長谷川氏(開発業務部)<国際乾燥地農業研究センター(ICARDA)>
○折田氏(ICARDAコンサルタント)
○福木氏(ICARDA研究員)<在シリア日本大使館>
○飯野氏(文化担当専門調査員)
○天寺氏(研修員)<在シリア国際協力事業団(JICA)事務所>
○森氏(副所長)<在シリア青年海外協力隊隊員>
○渡辺氏(青年海外協力隊隊員)<在ヨルダン日本大使館>
○中沢氏(一等書記官)<在ヨルダン国際協力事業団(JICA)事務所>
○矢部氏(所長)
○岩井氏(副所長)<在ヨルダン国際協力事業団(JICA)派遣専門員>
○三井氏(主任アドバイザー)
○田中氏(アドバイザー)<在イスラエル日本大使館>
○中沢氏(パレスチナ自治区事務所所長)3. 研究成果
今年度は、上に示したインタビュー調査の結果などをふまえつつ、これまでの研究成果を修士論文の形でまとめ、執筆した。修士論文の概要は以下の通りである。
論文要旨:
本論文のメインテーマは、日本の中東和平支援政策の全体像を明らかにし、それらの政策が中東和平交渉にどのような影響を与えているのかという点を明らかにすることである。
政策サイクル論に基づくと、一般に政策は政策形成の段階と政策実施の段階の2つに分割することができる。本論文では、中東和平支援政策をこの2つの段階に分割し、政策形成の段階では、中東和平支援政策の全体像と政策形成のメカニズムを明らかにし、政策実施の段階では、日本の中東和平支援政策が中東和平交渉に与える影響について考察する。
日本の中東和平支援政策は、大きく6つの分野から形成されている。6つの分野とは、中東和平プロセスにおける多国間協議、中東和平当事国へのODA、対パレスチナ支援、中東・北アフリカ経済サミット、ゴラン高原へのPKO部隊派遣、要人往来を通じた政治的働きかけである。これら諸政策は、それぞれ独立した政策であるものの、相互に関連しあっているため、これらの政策を一つの「政策のセット」としてとらえ、全体を日本型中東和平支援政策として分析を行うことが可能である。
日本型中東和平支援政策が、中東和平交渉に与える影響を分析するにあたっては、中東和平交渉そのものの進展に直接寄与する「短期的効果の視点」と、中東和平交渉を行う前提となる地域の安定にいかに貢献するかという「長期的効果の視点」という2つの視点からの分析を行う必要がある。この2つの視点を導入すると、日本型中東和平支援政策は、短期的効果の視点においてほとんど影響を及ぼしていないものの、長期的効果の視点からは一定の貢献が認められる。
また、全体の分析を通して、日本型中東和平支援政策にはいくつかの課題も存在する。短期的効果をあげるための課題とは、首脳レベル、大使レベルでの交流の活性化という人的資源に関わる問題、援助を行う際により政治的、戦略的な視点を導入するという戦略援助に関する課題などである。一方、長期的効果をあげるための課題としては、被援助国のファクトファインディングを的確に行うことでの真のニーズに適した政策の展開、中東諸国のイスラーム的性格への対応などが指摘される。
最終的には、本論文での分析結果から、交渉支援者が交渉に与える影響を分析するための「交渉支援者モデル」を提示し結論とする。
キーワード:
1. 中東和平交渉 2. 日本外交論 3. 政策サイクル 4. 戦略援助 5. 交渉支援者モデル