研究題目:
「空間音響の音楽表現への応用に関する研究」
EAS4は、4基のスピーカーを聴取空間を囲むように配置する、2-2方式と呼ばれるレイアウトを前提にしている。このスピーカーレイアウトを前提とするのは、多スピーカーによる空間音響を作り出すためのレイアウトの中で、最もシンプルなものであることと、5.1サラウンドスピーカーシステムで、前方中央以外のスピーカーを用いることによって代用が可能となること、そして、(これは、私の音響エンジニアとしての経験から来る考えであるが)スピーカーの位置や角度の誤差に対する許容度が他の方式に比べて、高いことなどが理由として挙げられる。
また、EAS4の音像を作り出す仕組みは、ソフトウェア的に実現されているため、特定のハードウェアを必要としない。そのため、オーディオインターフェースはMax/MSPで利用可能で、4つ以上の出力があるものであれば良い。また、スピーカーは、4基とも、フルレンジスピーカー で同じ製品であれば良い。その結果、EAS4は、これまで提供されてきた音響提示システムのアイデアや作品と比べて、設置が非常に容易なシステムとなっていると言える。
EAS4では、音像が移動する直線の始点と終点の、2つのX,Y座標によって制御を行う。座標は4基のスピーカーの中心を原点とし、それぞれのスピーカーの座標が(1,1)、(-1,1)、(1,-1)、(-1,-1)となるようにマッピングしている。(図参照)
X,Yの値が絶対値で1よりも小さい場合、すなわち座標がスピーカーに囲まれた空間の中になる場合、音像は4基のスピーカーの出力のバランスによって作り出される。その結果、音像は、空間の中に作り出される。この場合、X軸とY軸のそれぞれで行われるパンニングは、コンスタントパワーパンニング と呼ばれれるアルゴリズムを用いている。
また、X,Yの値が絶対値で1よりも大きい場合、すなわち座標がスピーカーに囲まれた空間の外側になる場合、音像は、隣り合う2基のスピーカーによる、ファントムセンターによって作り出される。その際、横方向の動きは、2基のスピーカーの出力の大きさのバランスで作られる。そして遠近は、音の大きさを、座標の絶対値の2乗に反比例させて作り出している。また、座標が、スピーカーの座標と一致する場合、座標に対応するスピーカーからモノラルで出力される。
これらによって、EAS4は4基のスピーカーによる音像と、2基のスピーカーによって作られる音像、そして、多数のモノラル出力によって作られる音像の3つの音像を一つの座標系で記述することを実現している。また、実際に作り出される音像の移動も、スピーカーによって囲まれた空間の中と外を自由に動くことが可能となっている。
この変更に伴って、オリジナル版のアルゴリズミック・コンポジションを行う部分の内部にある、音像の位置を決定するための変数を作り出すアルゴリズムは、EAS4が音像の移動を生成するのに必要な、二つのX,Y座標のセットを作り出すものに変更している。また、このPatchによって作り出される楽曲をハードディスクに保存するための部分も、2チャンネル用のものから4チャンネル用のものに変更している。