2000年度 森基金報告書


研究課題名  「地域社会によるチャータースクール設立と地方分権改革の考察」
慶応義塾大学大学院
政策・メディア研究科
修士課程1年
Network Community Project
    木幡 敬史
■はじめに
 
 教育の統制と自由化は公教育制度が始まって以来、おそらくすべての国家、社会が抱えてきた普遍的課題であり、
わが国にとっても非常に重要な課題である。わが国でも教育の地方分権化、学校選択の自由化、教育の個別化
が議論される時代を迎えている。
 過去の文書を紐解くと、実は30年ほど前から「分権化」・「地域との共存」といった議論がされてきたものの、
具体的な政策としてはなかなか実現せず、さらに近年の教育現場が抱えるいじめ・不登校といった問題も加わり
日本の教育は大きな閉塞感のなかにうずくまっているような状況ともいえる。
 2000年3月に首相の私的諮問機関である「教育改革国民会議」(座長・江崎玲於奈元筑波大学学長)が設置され、
2000年12月に森首相に対して最終報告が提出された。21世紀を見据えた教育行政の抜本的な改革が必要とされ
るなかで、奉仕活動の制度化を含め、17の提案がまとめられた。
 教育改革国民会議の第2分科会において、金子郁容教授によって「コミュニティスクール構想」が提案され、注目
を集めている。2000年5月、金子郁容教授、鈴木寛教授とともに、慶応義塾大学SFCにおいて有志により
「コミュニティスクール研究会」を設置し、日本の教育現場が抱える諸問題、海外の教育改革事例などを
調査・分析した。
 海外事例に関して、特にイギリスのサッチャー・保守党政権下からの大規模教育改革と、1990年ごろからの米国
におけるチャータースクールの動向について重点をおいて調査を行った。
コミュニティスクールに関してまとめたものが、金子教授・鈴木助教授・渋谷氏によって「コミュニティスクール構想」
として出版された。
 
ブレア政策とイギリスの学校制度
 国立教育政策研究所の小松郁夫氏は、イギリスとアメリカの教育政策をこう表現している。
「両国の肥大化した教育組織を改革するにあたって、会社組織を考えてみると、イギリスは教育行政組織全体の
改革を行った。LMS(Local Management of Schools:自律的学校運営)というスキームのもと、学校理事会を設置し、
文献を進め、組織運営の効率化をはかった。一方、アメリカは肥大化した教育行政組織を“分社化”し、チャーター
スクールやホームスクーリングなどを推進している。
 アメリカの場合はNTTを例にとってみると、NTT本体は残し、消費者の多様なニーズに答えるために、NTTドコモを
創った、という表現があうのでは。」と述べている。
 組織を組み上げなおす教育改革を行ったイギリスと、既存の公立学校制度には手をつけずに、新たな公立学校
制度を創っているアメリカ。「大企業病」と呼べるような肥大化した教育組織を抱える両国の教育改革から日本は
何を学べるのであろうか。
教育現場への民間活力の導入〜官民連携による教育条件の整備〜
 イギリスでは、国家財政の効率化、財政赤字の縮小などの視点から、政府の役割をどのようなものとして描くのか、
何を国が保障し、どんなことは個人や民間の役割として自主性にゆだねるのかが、政治の大きな論点として登場して
いる。国家財政の建て直し策と、経済対策としての側面を持つ政策として、民間活力を利用した社会資本整備の
取り組みである、「Private Finance Initiative」(以下、PFI)が注目されている。日本では1999年7月、「民間資金等の
活用による公共事業等の推進に関する法律」が成立し、その取り組みが注目されている。
 イギリスはいち早く民間活力を利用した社会資本の整備の手法に着目し、サッチャー政権下のPFIの導入を検討し、
1992年にその構想を固め、1993年から本格的に実施した。その後、種々の検討や修正がなされ、拡充整備が進めら
れた。そして、ブレア政権により、このPFI政策はより公共部門の役割を明確化した形での発展が図られ、その名称
もPPP(Public-Private Partnership)とされた。
 イギリスは、中央政府と地方政府など公共部門の活動見直しを他の国に先駆けて精力的に進め、その中から
民間活力を利用した社会資本整備の手法を開発し、その成果をあげていると評価されている。2000年9月のイギリス
の国会においても、PPP政策の具体的政策について大きく議論されている。
 PFIの定義は「従来公共部門によって行われてきた社会資本の整備、運営等の分野に、民間事業者の資金、経営
手法を導入し、民間主導で効率的、効果的な社会資本の整備を行う手法」、とされる。
 教育の分野においては、市場原理の導入、学校選択による学校間競争の激化、地方教育行政からの権限の剥奪
と学校への委譲など、民間的な手法で教育の質を向上させ、「アメとムチ」の政策で学校や教職員への厳しい管理を
進める政策が1980年代に次々に推し進められた。
ブレア首相はPFIよりも広い概念として、「官民の連携による社会資本整備(PPP)」を提唱した。PPPはPFIのように、
事業の責任やリスクのすべてを民間に移転するのではなく、公的部門と民間部門とのそれぞれの長所を効果的に
引き出しあいながら、両者が連携して社会資本整備のプロジェクトを遂行しようとする考え方である。その考え方の
もとに、実際に教育分野において事業が動き始めている。
 民間の資金や発想を公共部門のサービスの質の向上に活用しようとする動きは、まず教育施設の整備や情報教育
の機器の設備への対応など、ハード面を中心に活発化している。
 教育雇用省事業実施計画(1999年7月)として大蔵省の審査委員会で承認され、契約が成立した数は8事業、承認
はされたが、まだ未契約の事業数は28事業という状況である。
 具体的にどのようなことが行われるかというと、学校の設計・建設(再建)、清掃、校舎及び施設設備の修繕、グラウ
ンドの整備、ケータリングサービス、警備、カリキュラム管理と事務管理の電子情報化、設備の整備と移転の活動な
どである。
 PFI・PPPは公共サービス部門で創意工夫を尊重し、知恵比べによってサービスの質の改善や向上を図ろうとする
試みである。公共セクターが持っている高コスト体制や非効率性は、自己変革に期待するだけでは不十分だった
のである。
イギリスにおける教育改革

 

 

 イギリスは1980年代より現在に至るまで、法改正を伴う大規模な教育改革が続いている。イギリスは公立学校制度の中で、出資母体・形式の異なる多様な形態の学校が運営されている。教育財政の効率的運営と教育の結果を重視した改革方針は様々な問題を指摘されながらも、確実にその成果をあげているようである。「海外の教育制度は素晴らしい!!」といった類の話ではなく、問題を含みながらも試行錯誤を続け、確実に前進しているイギリスの教育制度について紹介する。

イギリスにおける教育政策の概観
 

 イギリスでは1979年保守党サッチャー政権より大規模な教育改革が始まる。当時イギリスは厳しい不況の中にあった。不況は当然教育財政も圧迫していた。イギリスでは伝統的に地方分権の色が強く、中央の教育財政は膨らむものの、教育の内容に対する責任と権限の発揮はほとんどできなかった。「教育行財政の合理化」、「公教育における中央集権化」そして教育の効率を上げるために「競争原理の導入」が教育改革の柱であった。その基本路線は1990年11月からのメージャー政権へと引き継がれた。

 
1997年6月、労働党は18年ぶりに保守党から政権を奪取し、T.ブレア首相のもと教育改革に取り組み始める。ブレア首相は「新」労働党キーワードとして、「社会的公正(Social Justice)」、「連携(Partnership)」、「コミュニティ(Community)」の3つを挙げている。
 
 

また、政策理念として、従来の企業国有化・福祉国家を重視する社会民主主義か、それとも個人の自助・市場をもっぱら重視する新自由主義かの二者択一ではなく、両者の結合こそ今日の変化の時代に求められるものであるとして、自らの立場をそのどちらでもない「第3の道」とし、新しい中道左派の立場から精力的に政権を運営している。ブレア首相がいう「第3の道」は、21世紀をグローバリゼーションの加速する変化の時代と捉え、世界経済はいよいよ知識主導型経済に移行し、そこでは一国の反映、国際競争力は国民の教育・訓練水準に依存し、教育が最も重要な課題となる、ということである。
 
 
 政府の教育改革のスローガンは、教育水準の向上である。この点においては、前保守党政権の主張と一致し、多くの政策を引き継いでいる。例えば、学校選択の拡大とその前提となる学校情報の公開、学校監査の拡大・強化、国の教育課程基準と全国テストの重視、高等教育の評価・効率的拡大、教員資質の向上などがある。一方、労働党政府が、前保守党政府とは異なる施策をとったものとしては、例えば、保育バウチャーの廃止、優秀な生徒の私立学校進学を助成する補助学籍制度の撤廃、国庫補助学校の地方補助学校への地位変更を行った。さらに、権限の縮小が著しかった地方教育当局に対しては、教育水準の向上の観点から新たな役割付与を行っている。
 

 こうした背景には、教育の機会における「公正さ」の確保、前保守党政府が教育関係者のパートナーシップ(連携協力)の強化といったねらいがある。
公立・公営学校の再編
 
1998年教育水準・新学校法により従来の公立(営)学校は1999年9月から、以下のように再編され、地域学校約14,000校、地方補助学校約1,000校、有志団体立学校約7,000校及び地域・地方補助学校特殊教育学校約1,000校の計約23,000校(イングランド)となっている。
<従来>                  <新学校>
・県立学校(County School)         地域学校(Community School)
・有志団体立管理学校             有志団体立管理学校
 (Voluntary Controlled School)
・有志団体立補助学校
 (Voluntary aided School)         
・特別協定学校                有志団体立補助学校
 (Special Agreement School)
・国庫補助学校                地方補助学校(Foundation School)
 (Grant Maintained School)        

それぞれの学校の違いは権限と、「学校理事会」メンバーの構成に顕れている。イギリス教育制度のなかの中心的存在である学校理事会については次の部で紹介する。有志団体立学校は宗教団体等の民間団体により設立される。経費負担や学校理事会構成、宗教教育の在り方などにより「管理」「補助」と分類される。

地域学校(Community School)
 地域学校は県立学校(County School)と同様の性格を有する。すなわち、地方教育当局が教職員を雇用し、学校の施設設備を所有し、入学方針について基本的な権限を有する。

有志団体立管理学校(Voluntary Controlled Schools)
 有志団体立学校は、その教職員は地方教育当局が雇用し、入学方針についても地方教育当局が第一の責任を負う。しかし、学校の施設設備は、通常、学校法人(Charitable Foundation)が所有する。学校理事については従来よりも多くの親の代表及び地方教育当局の任命理事を迎える。

有志団体立補助学校(Voluntary Aided Schools)
 有志団体立補助学校は、その教職員を雇用し、入学方針について基本的な責任を持つ。学校の施設設備は、通常、学校法人の所有である。また、学校理事会は、資本的経費を負担する。法人理事(Trustees)が学校理事の過半数を任命する。学校理事には、地方教育当局任命者を含む。

地方補助学校(Foundation Schools)
 公立(営)であったものが、保護者の投票に基づき、地方教育当局の所管を離れ、自主自立的に運営されるようになった学校。地方補助学校は国から直接補助金を受けていた国庫補助学校が、1999年4月より、地方から補助金を受けるようになったものであり、学校の基本的性格に変更はなく、学校理事会が教職員を雇用し、入学方針についても学校理事会が基本的な責任を負う。また、学校の施設設備は、学校理事会あるいは学校法人により所有される。ただし、学校理事会には地方教育当局任命理事を含む。
 

設置・維持の観点から見たイギリスの公立学校
地域学校(Community School)は地方教育当局が設置・維持している。経常費及び資本的経費の全てを地方教育当局が負担している。有志団体立管理学校は、経常費、資本的経費のいずれも地方教育当局が負担。設立母体の任命理事は半数以下となっている。また、有志団体立補助学校は、経常費のほか資本的経費の85%までを地方当局が補助している。学校理事の3分の2は設立母体が任命を行う。宗派教育は可能となっている。イギリスでは宗教教育が義務付けられているが、宗派は限定していない。

学校の自主自律的な運営を支える学校理事会
 イギリス教育制度の中の特色の一つといえるのが、学校理事会(School Governing Board)
である。全ての学校に設置することが義務付けられ、校長を超えた、学校の最高意思決定機関となっており、学校予算、人事管理、カリキュラム決定の権限をもっている。
 現在、約24,500の学校理事会があり、34万人が理事として学校運営に関わっている。
1999年9月からの理事員構成は以下のようになっている。
・保護者代表理事(Parent Governors):保護者の中から選出された代表
・地方当局代表理事(LEA Governors):地方教育当局代表
 ※LEA:Local Education Authority(地方教育当局)
・教員代表理事(Teacher Governors):教員の中から選挙で選出された代表
・職員代表理事(Staff Governors):職員の中から選挙で選出された代表
・創立者代表理事(Foundation Governors)各学校の創立に関わった諸団体の代表
・共同選出理事(Co-opted Governors):地域の教会、警察、産業界などの代表
・校長(Head Teacher)
・パートナーシップ理事(Partnership Governors):詳細は今後省令により規定
・第一号理事(First Governors):地方補助学校のみのもので、公立学校から地方補助学校に移行するときの公立学校当時の理事のことで、以降後数年間だけ設置される。

 理事の任期は4年となっており、欠員が生じたらその都度選挙が行われる。保護者代表選挙は、全ての親に選挙権と被選挙権があり、立候補を募る。立候補者は公約をあげ、その旨、全ての親にニュースレターで通知される。投票は郵送・無記名で行われる。立候補者がいないときには他の理事員により任命される。共同選出理事は簡単にいうと地域代表ということだが、共同選出理事の選出法は、他の理事員が選出し、3分の2以上の支持が必要となる。共同選出理事に関しては、学校財政管理の面から、会計学の知識を持つ人が重要視されている。
    

学校理事会が最高意思決定機関となる経緯
 

学校理事会は「1944年教育法」により初めて法的に整備される。この法律では、学校理
事会が一定の学校管理責任を有する存在であると規定された。しかし、イギリスの地方分権的な伝統によって、中央政府の意図通りに改革は進まず、全国一律に1学校1理事会制が徹底されなかった。
 1970年代の「英国病」といわれる経済危機の中で、効率的な公立学校の経営管理とその結果という「教育の質」が問われるようになった。すなわち、公的機関としての学校の責任、「アカウンタビリティ」が問題となった。当時はロンドンなどの都市部を中心とした公立学校の荒廃や学力の低下に対する保護者(=納税者)の厳しい批判が増大して、家庭や地域との連携(パートナーシップ)が改革のための重要な鍵として論じられていた。その後、各学校に学校理事会を設置し学校外の人々と責任を分担し、協働することによって学校教育の質の向上を図ることが提言された。それを受け、学校理事会の設置を提言した「1980年教育法」が出される。そして「1986年法教育法(第2)」においてその権限が拡大され、性教育や政治教育、特殊教育に関する学校理事会の権限が明確にされる。さらに「1988年教育改革法」で、学校予算や人事管理などの権限が学校理事会に委譲された。これによって学校理事会は各学校の最高意思決定機関としての地位を確立する。1988年教育改革法によって、各学校の理事会は予算の運用権という大きな権限を地方教育当局から委譲されたのだが、予算の運用権が各学校に委ねられたことで、各学校の理事会は予算の範囲内で教員定数を定めることもできるようになった。
 こうした新しい政策の展開は「自主的学校運営」(Local Management of Schools :LMS)と呼ばれ、各学校の自主自律性を尊重するものとされるが、他方、この背景には教育に競争原理を導入しようという考え方がある。すなわち、予算の配分は入学した生徒ひとりあたり(Per Head)で配分されるため、多くの生徒を入学させればさせるほど、自主的に運用できる予算を多く獲得できることから、入学者の獲得をめぐって各学校を競争させ、これを通じて教育の質と効率の向上を図ろうとするものである。逆に入学者が少なければ学校は縮小し、ついには廃校ということにもなる。
 
 

学校理事はボランティア
 

学校理事会のメンバーは無報酬のボランティアの理事たちによって組織され、運営されている。保護者や地域代表といった人々が学校の運営に参加し、各学校の最高意思決定機関の一員として活動していくにあたり、多くのNPO団体や政府が学校理事としての能力の向上を支援している。教育への関心が高い地域とそうでない地域の学校理事の能力格差が生じているという問題もある。学校理事は無報酬で責任が大きく,職務の負担があり、会合の機会は多い。いかに優秀な人材を保護者代表理事や地域代表理事に迎えるかは、学校にとっても重要な課題である。一部の大企業では、理事になることは社員の社会貢献とみなし、知事活動のための有給休暇制度を設けているという。こうした社会のバックアップがあってこそ、学校理事会が機能するようになってくるのであろう。
 
 

学校番付(スクールリーグテーブル)と客観テスト
 
 

イギリスの公立学校はどのような基準で評価されているのであろうか。「1992年教育法」により教育水準監査院が設置され、?教育の質の高さ、?教育の達成度、?財政の健全さ、?児童・生徒の精神的・道徳的・社会的・文化的発達度の4つの柱で評価が行われるようになった。全ての学校を対象に6年ごとに学校監査が行われ、その結果は学校理事会へ提出される。学校理事会はそれに基づく「行動計画」を作成し、その計画の成果が1年後に再監査される。学校にとっての一番の目標は「学力向上」である。全国共通テストの結果により、学校はランク付けされ、理事は共通テストの結果を重視した運営を迫られる。共通テストで高得点を得なければならないが故の問題も生じているようである。仮に試験の成績(生徒の平均点)が下がった場合は、カリキュラム、授業方法、教材、教員の研修などの分野で問題解決と改善に取り組まなければならない。
 イギリスでは学校選択制がとられている。自分の住む学区の学校を選べるということだが、この学校番付がその判断基準にもなっている。学校選択制は、競争原理により学校の質を向上するというものだが、学校がランク付けされると、学校の人気が偏り、教育困難校はより苦しい状況となる。政府や地方教育当局はうまくいっている学校はあまり関与せず、こうした運営の厳しい学校を支援・指導していく方針をとっている。

<参考文献>
・「諸外国の教育の動き」1999年 文部省
・「学校改善と学校理事会の役割?学校の自律的経営の行方?」小松郁夫、「学校経営」1997年7月
・「イギリスにおける学校参加と学校選択」梶間みどり 国立教育研究所 1999年
 
 

 
■アメリカにおけるチャータースクール
■チャータースクールの設置理由

アメリカ教育省が行ったチャータースクールに関する調査の中で、「どうしてチャータースクールを創ったのか」
という質問が、27州・971校に対して行われた。その答えを示したのが以下の表・グラフである。

Estimated Percentage of Charter Schools by Reasons for Founding



まず、第一に“Realize an alternative vision”(公立学校とはことなるビジョンを持っていた)が挙げられている。

そしてその次に、“Gain Autonomy”(教育の自治権を得る)となっている。そしてその次に、“Serve special
population”(特別なニーズのある子供に対応する為)となっている。
(このアンケートの対象は?新規に創設された学校、?既存の公立学校がチャーター化した学校、?既存の私立学校がチャーター化した学校と3つに分けられている。)
 

国立教育研究所の小松郁夫氏はチャータースクールの設立理由を以下のように分析している。

「チャータースクールはマイノリティ(民族・言語)に対する教育への対応策と捉えられがちだが、一番の理由は、公立学校の荒廃が挙げられる。銃やドラッグで荒れ果てた公立学校への入学はできるだけ拒否したいが、だからといって、私立学校へ入学させる資金面の問題もある。公立学校が“行きたい”と思える状況になかったのが現状であり、マイノリティに対する教育を重視した為の政策ではない。」
 
  州主導の教育政策では、銃やドラッグといった、学校が抱えている学校荒廃という問題をなかなか解決できない。それならば、自分たちの手で改革をしていこうじゃないか、というのがチャータースクールの起源でもあるようだ。
チャータースクールは、州ごとのチャーター法が異なるように、それぞれの学校で特色が全く異なる。
結果として黒人の割合が多い学校が増えているのは事実であるが、公立学校に“NO”を唱えた人々が結集して
新たな学校を作り上げ、多種多様な教育を行っている。
 
 
 

Percentage of Charter Schools by Most Important Reason for Founding







Percentage of Newly Created versus Pre-existing Charter Schools by Most Important Reason for Founding

出典:“The State of Charter School 2000”Fourth-year Report January 2000
 
 
 
 

■チャータースクールの人種構成

 以下の表は1997年にアメリカ教育省よりまとめられた、チャータースクールの人種構成である。
新設、既存公立校の転換、既存私立校の転換の3つの場合に分け、チャータースクールの人種構成について興味深い数字を示している。
 

 まず第一点は、全体でみると、新規設立されたチャータースクールのマジョリティは白人であるということだ。
チャータースクールは人種的マイノリティの為の学校という評価をされているが、実はチャータースクールに入学している数は白人の割合が多く、67.2%を占めている。

小松郁夫氏が言うように、貧困や人種の問題がチャータースクールを生み出したのではなく、従来の公立学校の荒廃が、「公立離れ」を引き起こし、チャータースクールを生み出したと考えるのが適切であるように思える。

 確かに、チャータースクールは各州、各学校によって様々に異なるが、人種・貧困問題の解決の為の1つではあるが、全てではないのである。チャータースクールの人種構成が偏っている学校もあれば、その学区の他の公立学校の人種構成と同じような割合のチャータースクールもある。
 

Exhibit C-6 -- Student Ethnicity by Newly Created or Pre-existing Charter School, 1995-96
 
 
 
 Newly created
Pre-existing public 
 Pre-existing Private 
White, not of Hispanic origin
67.2%
44.2%
47.6%
Black, not of Hispanic origin 
11.5%
12.4%
48.0%
Hispanic 
15.8%
31.4%
3.0%
Asian/Pacific Islander
3.3%
8.6%
1.0%
American Indian/Alaskan Native 
2.2%
3.4%
0.5%
Total
22,085
35,422
3,200

 
 

■最後に

 コミュニティスクールという提案のなかで、イギリスとアメリカの教育改革について調査を行い、日本における
教育改革に対しての大きな示唆を得ることができた。
コミュニティスクールは、日本の人々が議論を重ねていくことによって実現へと近づいていくのではないだろうか。