2000年森基金報告書

サンフランシスコ市立図書館に見る障害配慮のインビジブルデザイン

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 修士課程1年

飯塚慶子

80031089  iizuka@sfc.keio.ac.jp

 

目的

今回サンフランシスコ市立図書館を調査対象に選んだの最大の目的は「トーキングサイン」の実用であった。要所にはめこまれた電子案内板から情報を手元のレシーバーが受け取って音声に変える情報案内システムである。サンフランシスコ市内では図書館のほかに市内、地下鉄などに普及している。

 

時期

2000年8月

 

<図書館内設備>

違和感のない案内サイン

図書館に入ってまず驚くのは、設備の新しさとどこに障害配慮が組み込まれているかわからないほど、全体がコーディネートされていることだ。床には凸凹のかわりに、感触の異なる石がしきつめてある。なるほど、目をつぶって歩いても触感の違いがはっきりわかる。道先案内としては十分である。

敷石の感触の違いで誘導する廊下

トーキングシステムの実用

受け付けで研究の目的を話し、トーキングシステムを1台借りる。他に使用しているユーザーはいなそうだ。取り扱い説明を簡単に受けた後、いざ図書館内に乗り出した。

 

トーキングシステム

大きさは手の中にすっぽり入るサイズ。携帯電話よりも少し大きい。重さは負担にはならない。壁に埋め込まれた案内板に向かって、ボタンを押すと「ここから2階にあがる階段です」という女性の声が流れる。かなり大きな声なので、周囲から注目を浴びてしまう。急いで、ボリュームを最低に設定しなおした。それでも周りに聞こえるほどの声量なので、周囲の視線が使用するたびに気を遣う。図書館という静かな環境上、声をいうツールは遣いにくいことを実感した。人のなるべく少ない場面でしか遣わないようになっては、このマシーンの意義が希薄になると思った。

 

要所にとりつけられたサーバーに反応

壁の一部としてデザインされたサーバー

電子案内板は視覚的に目立つ必要がない。よって目立たないようにデザインされている。どこから見ても派手に設置されている日本の案内板に比べて、はるかにデザイン配慮が見うけられる。

 

 

視覚障害者サービスセンター

この図書館には視覚障害者と聴覚障害者に対する専門の図書館サービスがある。聴覚障害者サービスは日本では見ないので、それに特化して報告する。

 

光を駆使した聴覚障害者サービス

サービス担当者にインタビューを実施。所要30分。

Q1.聴覚障害者は読書に関して、どんな障害を持つのか。

A1.聴覚障害によって本が読みにくくなる、という症状が発する。通常、文字は耳から覚え、知覚して、目で読めるようになる。聴覚障害者はそのステップに障害があるので、専門的なフォローが必要になる。

Q2.聴覚障害者に対してのサービスとして、特徴的なことは何か。

A2.まずはユーザーの表情がうまく伝わるように室内の光を工夫している。聴覚障害者は話すことに障害があり、表情も読み取らないと内容が把握できないので。あとは、本の内容や種類が他の在庫と少し異なる。

 

通常の図書館サービス内容として健常者と区分けするほどの、目立った特徴はないように思った。それより、このサービスがあることで安心してここに通えるというメリットによって成立しているサービスであると思った。

アメリカでも珍しい聴覚障害者用図書館

 

 

 

表情が読み取りやすい採光になっている

 

点字マップ

エレベーターわき各階に設置されていた。かなり詳細が記載されているが、逆に細か過ぎて自分がどこにいるかわかりにくい。視覚障害者に必要な情報に絞り込んだほうが有用であると思った。

細か過ぎる点字マップ

 

総括

サンフランシスコ市立図書館はハード、ソフトともに新しい挑戦に溢れていた。図書館という建物機能上、新しさを求めるユーザーは少なく、従来のサービスに甘んじてしまう傾向があると思う。サンフランシスコ市立図書館に学んだことを以下にまとめる。

1.障害の種別によって、細かくニーズを読み込んでいる。

2.1を具現化するにあたって、障害配慮が全体デザインと共生できるように工夫されている。すなわちインビジブルデザインである。

3.障害者、健常者の動線をフェアに扱い、誰もに広く開放された図書館として認知されている。

 

トーキングサインに関しては実用レベルでの声量調節が必須である。点字マップも実用には至っていない。しかし、このような目先の失敗によって邁進を失速することなく、今後も図書館にできる障害配慮を示唆してほしいと思う。