2000年森基金報告書

キャンパスにおけるユニバーサルデザイン

UC Berkeleyと慶應大学湘南藤沢キャンパスの比較〜

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 修士課程1年

飯塚慶子

80031089  iizuka@sfc.keio.ac.jp

 

目的

自らが通う湘南藤沢キャンパスのバリアフリー整備の実態について2000年の春学期に調査を行った。その結果を踏まえて、障害配慮のキャンパスとし名高いUC Berkeleyのキャンパスについてフィールドワークを行った。

 

時期

2000年8月

 

場所

UC Berkeley, CA USA

 

<エントランス>

街と大学との境界線ははっきりしていない。門がないためだろう。何となく大学に入りなだらかな道が続く。段差はなく、左右にひかれた芝が安心感を誘う。

まず慶應との違いはベンチがあることだ。疲れたら休むスペースが設けてあるのは健常者にも嬉しい気遣いである。ベンチの周辺には余裕があり、足を投げ出したり、車いすで横に並んだりすることもできる。

 車いすで並ぶスペースもあるゆったりしたベンチ

迷いそうなところには必ず見かける案内ピクト

 

図書館

慶應大学のどのキャンパスの図書館よりも古い建築物であるが、障害配慮は徹底している。まず車いす用のエントランスは2箇所。健常者との動線を完全に区別している。利用時間の重なる図書館でも、他人の動線を気にせずすんなりと入館できるようになっている。

図書館全体像

二箇所あるエントランス

手でも足でも合図が送れるインターフォン

車いすユーザーと言っても障害の部位によって、手足の自由度が異なる。腹筋がしっかりしていれば、手をのばすことは可能であるが、そうでなければ足に頼るしかない。このエントランスには手用、足用、2通りのインターフォンが設置されていた。これなら足で蹴って合図を送ることもできる。

 

車いす用の設備

空間のバリアフリーばかりでなく、公衆電話やコピー機の設備に至るまで、配慮がある。ボックス型の公衆電話は幅員が足らず、車いすで進入することは不可能だが、必ず近辺に壁掛け型の電話があった。図書館には、高さを低くした車いす用のコピー機が周囲のスペースを保持して置かれていた。慶應には当該コピー機は設置がなく、またコピー機自体が狭いスペースに置かれており、車いすの進入を難しくしていた。

たやすくアクセスできる壁掛け型の公衆電話

座高の低い車いす用コピー機

大教室の車いす用スペース

 

ハート面でのバリアフリー

ハードだけでなく、ハートのバリアフリーにも出会うことができた。誰もが使用する図書の検索機の机上には、「椅子を使用したら、車いすがアクセスできるように片付けること」と明記されている。「車いす専用」とするのではなく、ちょっとした心遣いで誰もが容易に使えるようになっている。紙一枚であっても、深いメッセージを伝えるツールになりうることを痛感した。慶應にある検索機のほとんどがスタンド式であり、車いすでは使用できない。

 

車にまつわる配慮

障害者用パーキングは日本なら多くても2,3台である。UCBでは少なくとも3分の1が障害者用として確保されていた。空いていても健常者が止めてしまうようなことはない。日本ではハートビル法が施行され、台数が多く設置されるようになったが、健常者がつい利用してしまう状況にある。駐車場はトイレと違い、いつ空くかわからない特性があるので、健常者障害者用のはっきりした利用の区別が必要である。

障害者車両であることが人目でわかるラベル

 

障害者のレベルにあわせた設置

障害者が不便に感じるよりも、健常者のちょっとした不便で障害者の不便を克服する例である。EVのボタンが車いすユーザーの高さにあわせてある。これは思い切った手法であると思う。日本では通用しないであろう。

車いす用にあわせられたEVのボタン

 

電動車いすが主流

滞在中に出会った車いすはすべて、電動車いすであった。手動にくらべて操作が楽で、乗り越えられる段差のキャパも広い。腕に麻痺があっても、指の力でなんとか操作できるのが特徴だ。この電動車いすは民間保険会社から支給されるそうである。ガイドがついてキャンパスを回るユーザーも見かけた。

必要に応じてサポートにまわるガイド

 

総括

自分が車いすユーザーであったら、慶應大学ではなく、UCBに通いたいと思うだろう。それだけバリアフリー環境が整備され、車いすを受け入れる体制が整っていた。大学としてユニバーサルデザインを目指した結果、今に至ったわけではなく、一人でも多くの学生にUCBに来てほしいという門戸開放がキャンパスに段差をなくし、車いすの目線にあわせた設備が増えて行ったのであろう。

ハード面だけではなく、ハートの面でも整備されたユニバーサルな空間であった。