※本研究は助成金申請時には「ミニマル・モバイル・ライフ」というタイトルであったが、研究の方向性を明確にするために、単身者の都心居住の可能性を考察するという内容に焦点をしぼり、「ミニマル都心ライフ」というタイトルに改題され研究が進められた。




「ミニマル都心ライフ  ―単身者の都心居住の可能性に関する研究―」

政策・メディア研究科修士課程

岩嵜 博論

研究の背景

    第二次世界大戦後の日本の都市部では、核家族で郊外に居住するという居住形態が主流であった。しかし、近い将来核家族世帯は減少し、家族や居住の形態は現在よりも多様なものになることが予測されている。そこで、本研究では、従来の「核家族・郊外モデル」に対するオルタナティブとして単身者の都心居住を取り上げ、その実現可能性を検討した。

仮 説

    本研究では、東京圏をフィールドとし、中央、千代田、港、台東、文京、豊島、新宿、渋谷の8区を都心として定義した。また、都心に勤務する就労者を調査対象とした。そして、以下の3点の仮説を設定した。1)単身者は核家族世帯にはないライフスタイル特性を持っている。2)都心エリアには、面積が狭いながらも低家賃の賃貸住宅が存在するエリアがある。3)都心の居住地周辺の施設には郊外にはない性質のポテンシャルがあり、それらを活用しながら都心エリアを単身居住者にとっても住みやすい居住環境に変化させることは可能である。

研究方法

    上記の仮説を検討するために、以下の3点の調査を行った。1)都心8区に勤務する単身就労者に対するアンケート調査を行い、単身者の生活実態を、生活時間、食事形態などの観点から明らかした。2)住宅情報誌に掲載されている都心8区の低家賃賃貸住宅物件のデータを収集し、GISを用いて分布図を作成した。3)低家賃賃貸住宅物件の集中している町丁をケーススタディエリアとして取り上げ、その周辺の飲食店や小売店の分布とその営業時間の調査を行い、都心の都市リソースのポテンシャルを明らかにし、単身者の生活実態との整合性を検討した。

調査結果

    調査の結果以下のことが明らかになった。1)単身者の食事形態のバリエーションは様々で、本研究ではそれらを、@自宅自炊型、A自宅中食型、B自宅周辺飲食店利用型、C盛り場飲食店コミュニケーション型、D職場夜食型の5つのパターンに分類した。2)都心8区における低家賃賃貸住宅物件は、面積25u以下の狭い面積の住宅が多い。また、都心8区内には低家賃の賃貸物件が局所的に集中しているエリアがある。3)低家賃賃貸住宅物件集中地域の周辺には、店舗が広く均等に点在している。また、飲食店では夜遅くまで営業を続ける店舗があるが、小売店ではコンビニエンスストアを除いて早い時間に閉店する。さらに、小売店では日曜日を定休日としている店舗が多い。

結論と今後の展望

    以上の調査結果を踏まえて、単身者の都心居住の可能性について以下の3点の提案を行った。1)都心居住地特有の交通利便性を活かして、盛り場へのアクセスが容易になる。2)都心居住地周辺の構造的特性は店舗の偏在性であり、それらを利用することによって脱郊外型のライフスタイルを提案することができる。3)都心居住地の特性として挙げられるのは、そのエリアにおける行為者の混在性と多様性であり、それらの行為者のアクティビティが、上記のような都心居住地の構造的特性を活かした店舗の発展を支援すると考えられる。