森基金研究報告
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研究の背景:
欧州における人の自由移動は、資格・学位の相互認定、選挙権の付与という形で早くから進められてきた。しかし、実数は増えておらず、労働移動による最適配置という点からみた労働市場の柔軟性は未だに確保されていない。一方で、その労働市場の柔軟性は、EU内での失業率の地域格差を縮小させる可能性を持っている。しかしそれは従来の国際労働移動の理論にあるようなモデルではなく、より労働者の属性に着目し、それぞれの属性ごとに関係する政策を再編成する必要がある。そのような視点からの労働移動の研究はなされてこなかった。従って本研究の課題である政策群の効果、評価はほとんどなされていない。以上のような背景を踏まえ、本研究では特にドイツの自動車メーカーをケースとして扱う。これは欧州規模に広がりをもち、なおかつ多様な属性を持った労働者が雇用されているからである。地理的に近いこともあり、ミュンヘン、シュトゥットガルトをフィールドとして選択する。

基礎研究 −文献調査・データ処理:
本研究は、まず基礎研究としての文献調査、既存研究の整理がある。EU、加盟各国による法整備・政策調整の歴史、さらに地域統合、国際労働移動の理論に関しての研究の整理を行う。その研究を通じてフィールドワークへのフレームワークを作り上げる。 さらに国内でインターネット等を利用して収集できるEUROSTAT等の統計データをもとに、全体の趨勢を数値上で把握する。この際、地域格差等にも注目する。分析手法としては学部時代の研究でも用いた労働市場の柔軟性を把握するのに役立つ、UV曲線(ビバレッジカーブ)を用いたいと考えている。 基礎段階としてはインターネットを通じた情報収集を「バーチャルフィールドワーク」として進める。さらには電子メールによるアンケート文面のフォーマットを作成することで、欧州における多数の企業に調査の幅を広げることが可能であると考えている。これを事前に進めていくことで、実際にフィールドワークに渡った経験と質・量で相互補完作用が生れることが期待できる。

研究意義:
本研究の意義は以下の通りである。
1) 失業率の地域格差という問題は、欧州において長年の政策課題であるが、労働力の自由移動という点からの特にフィールドワークによるアプローチは少ない。
2) 労働力の移動による労働市場の柔軟性の確保というテーマは、近年、日本の構造改革論議の一つでもある。したがって欧州企業を例にとった本研究は日本へのインプリケーションが大きいと考えられる。
3) 研究成果を、印刷した論文のみならずWebページ上でも公開することによって、関連研究への寄与ができる。
4) 明確な問題設定を行い、フィールドワークを活用して、多様な政策領域を再編成し、そこから解決法を見出していくという手法はSFCの特徴を踏まえており、ここでの研究内容に相応しいものであると考えられる。

実際のスケジュール:
森基金決定直後:研究内容の見直し、フィールドワークから基礎研究へ転換(基金の申請額の関係で、フィールドワークができなかったため)
夏休み中:対象研究領域の再設定
10月:研究テーマ設定(人の移動と産業立地)
11月:統計資料、参考文献の収集
11月25日前後:研究プロポーザル作成
12月中旬:発表用資料&プレゼンテーション用パワーポイント作成
12月22日:広島大学にて発表
1月上旬:論文執筆
1月19日:広島大学に論文提出

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