大腸菌化学走性のシミュレーション
大腸菌の化学走性について、E-CELL システムによる シミュレータを開発した。
大腸菌の化学走性とは、特定の化学物質の量に応じて菌体の動き方が変化する現象である。化学物質の量的変化に素早く応答し、長時間一定レベルの刺激にさらされ続けると順応することが知られている。シミュレータには、刺激応答および刺激順応のための機構として現在わかっている化学反応を、全て組みこんだ。
まず、刺激応答のみに関する系を構成して、刺激物質の投入量とそれに対する菌体の直進頻度の応答幅についてシミュレーションを行なった。この結果は、ケンブリッジ大のBray氏らに頂いた刺激順応に関連するタンパクの活性を欠いた変異株の実験値とほぼ合致した。
さらに、刺激順応のために必要といわれる経路を組みこんでシミュレーションを行なったところ、
本来は刺激に応答して「Rotational bias」という指標が一気に上昇した後に200秒程度で元のレベルまで回復するのに対し、
シミュレーション結果では Rotational bias が時間をかけて上昇するという結果を示した。
そこで、刺激順応の最初のステップである反応を検証したところ、順応の表現には、現在分かっている
受容体メチル化によるリガンド親和性低下の計算だけでは不十分である可能性が示唆された。