2001年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究報告書
「国際共同研究・フィールドワーク研究費」
研究課題名 |
異文化交流における議論構成・表現の差異と影響 |
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研究代表者氏名 |
福田 忠彦 |
所属・職名 |
政策・メディア研究科・教授 |
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研究課題 |
グローバル化の進行に伴い、所属文化を異にする者同士の接触は増えた。交渉の場にあたって円滑な意思疎通を図るため、自文化と異文化のコミュニケーション形態の差異を理解することが重要である。しかしながら、そうした差異を多角的且つ科学的に検証する研究はいまだ少ない。 本研究ではまず、30余カ国で行われている討論・交渉教育の現場からその差異を探る。具体的には、討論の国際大会に赴き、VTR撮影とアンケート型調査、コーチ陣へのヒアリング調査を実施する。映像を元に動作分析・議論の構造分析を行い、弁者の所属文化を基に差異の統計上の検証を行う。 次に、ここまでで発見されたコミュニケーション上の差異がどのような影響を及ぼし、どのような訓練によって埋められるかを弁者の熟練度及び異文化間の試合と同文化内の試合を比較することで検討する。 |
研究経費 |
研究経費合計 (千円) |
使用内訳(千円) |
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機器備品費 |
消耗品費 |
国内旅費 |
国外旅費 |
謝 金 |
その他 |
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1000 |
0 |
50 |
0 |
800 |
0 |
150 |
研究組織 |
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氏 名 |
所属・職名・学年等 |
研究分担課題 |
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福田 忠彦 |
政策・メディア研究科・教授 |
総括・研究方法及び解析の指導(人間工学) |
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香川 敏幸 |
政策・メディア研究科・教授 |
研究方法及び調査・分析指導(地域研究) |
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鈴木 しのぶ |
北海道大学・助教授 |
解析指導(応用言語学) |
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井上 奈良彦 |
九州大学・助教授 |
調査・分析指導(議論学) |
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Aneesh
Krishna |
Nanyang工科大・大会Convener |
Australasian現場監督 |
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Rory
McKeown |
Univ.
of Tronto・大会Convener |
WUDC現場監督 |
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Galina Kisseleva |
IDEA・大会Convener |
IDEA
Camp現場監督 |
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臼井 直人 |
神田外語大学・講師 |
国内Programからのデータ収集 |
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Allan
Louden |
Wake
Forest Univ.・教授 |
米国内Programからのデータの収集 |
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Glen
Strickland Jason
Jarvis Geoff
Klinger Jason
Stone Ted
Sheckles |
Emporia
State Univ.・コーチ Arizona
State Univ.・コーチ Univ.
of Utah・コーチ Richmond
Univ.・コーチ Randolph-Mason
College・教授 |
米国内Programからのデータの収集 米国内Programからのデータの収集 米国内Programからのデータの収集 米国内Programからのデータの収集 米国内Programからのデータの収集 |
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Colm
Flynn Ken
Broda-Bahm |
Univ.
of Limerick・講師 Towson
State Univ.・教授 |
英国内Programからのデータの収集 東欧地域内Programからのデータ収集 |
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Praba
Ganesan |
Aticus
International・研究員 |
アジア地域内Programからのデータ収集 |
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Omar
Salahuddin |
Malaysia工科大・教授 |
アジア地域内Programからのデータ収集 |
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長濱愛 |
政策・メディア研究科 修士1年 |
フィールドワーク責任者(地域研究・応用言語学) |
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鈴木雅子 |
政策・メディア研究科 修士1年 |
フィールドワーク責任者(人間工学・応用言語学) |
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合 計 |
20 |
名 |
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国外旅費 (千円) |
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事 項 (行き先等) |
金 額 |
主な使用者 |
出張時期 |
1.Australasian
Intervarsity Debating Championship 2001 (Singapore/Nanyang
Technological University) |
120 |
長濱愛・鈴木雅子 |
7/1 - 7/8 |
2.IDEA
7th Annual International Debate Tournament (Rossia/Vostok-6 in Saint
Petersburg) |
400 |
長濱愛・鈴木雅子 |
7/27 − 8/7 |
3.The
22nd World Universities Debating Championship |
280 |
長濱愛・鈴木雅子 |
12/26 – 1/5 |
(Canada/University of
Toronto -Hart House) |
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計 |
800 |
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消耗品費等の明細 「その他」は会合費、交通費、通信運搬費、印刷費、計算機使用料、現像・焼き付け費、 機器修理費等、種別ごとに記入してください。 (千円) |
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消耗品費 |
謝金 |
その他 |
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品名 |
金額 |
事項 |
金額 |
事項 |
金額 |
録画用DVDテープ |
40 |
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国際大会観戦参加費 |
150 |
解析用VHSテープ |
10 |
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計 |
50 |
計 |
0 |
計 |
150 |
研究計画 研究の背景、研究目的、予想される研究成果等を具体的かつ明確に記入してください。 |
1.研究背景 グローバル化が進行する今日、異文化間コミュニケーションは日常的に誰もが持ちうるものとなった。しかしながら文化的差異が大きい場合の交渉・折衝・討論は、そうでない場合に比べスムーズとは言えない。討論技術自体に関する単一国家内の研究は特に米国にふんだんにあるものの、国際比較を科学的に行う研究はいまだ少ない。そのため、科学的根拠を伴った交渉に向けての分析及び対策としてのトレーニングはされていないと思われる。 一方、各国内の討論技術教育は年々重要視される傾向にある。世界的にも、学生の国際大会の出場国数及び出場大学数、出場者数も年々増加の一途をたどっている。こうした国際的な討論技術教育のコミュニティは経済体制・政治体制・言語圏等に関係なく各地から学生が集まるため、今後の社会のモデルとして分析の対象にするのに最適のものと思われる。しかしながらこうした国際ディベート大会を分析の対象としている先行研究は皆無である。 2.研究目的 本研究はこうした背景を踏まえ、異文化間で意思疎通を図る際の議論構成・表現上の差異を多角的且つ科学的に明らかにすることを第一の目的とする。第二にその差異から、交渉相手のデータ(出身地域・母語など)から情報の発信・受容における特徴を導き出すモデルの作成を試みる。最終的にはそのモデルを基に、円滑に異文化間交渉を図るための討論技術教育のあり方について提案を行いたい。 3.研究方法 3−1 データの収集 3−1−1 国際大会におけるデータ 実際の異文化交渉の場として学生による国際討論競技を、文化間差異検証のためのデータ収集の場とする。以下3つの国際大会に赴き、30カ国から集まる学生達の討論の模様を@VTR撮影する。また決勝トーナメントでは、聴衆にAアンケートを配布し、a)非言語情報b)言語情報の其々について7段階評価を行う。帰国後VTRを基にBスクリプトを作成する。 ・Australasian Intervarsity Debating Championship 2001 ・IDEA 7th Annual International Debate Tournament ・The 22nd World Universities Debating Championship 3−1−2 教育プログラム受講者に関するデータ 討論技術教育の影響を考慮すると、上記の大会に参加する学生達は出身地域の平均的な値をとっているとは言えない可能性がある。データの補正と後の教育システムに関する研究のため、教育プログラムの新規履修者のデータが必要である。(一部のプログラムではNovice用に別途プログラムが組まれている場合もある。その場合はNoviceプログラムの履修者からデータを採取する。)本研究では海外の大学で行われているAcademic
Debate Programの協力を得て、メンバーの弁者としての試合映像と聴衆としてのアンケート結果を入手する。本年は主に米国におけるProgramに協力を求め、日米間の比較を行う予定である。前項と同じく、@VTR Aアンケート Bスクリプト を入手・作成する。 3−1−3 教育プログラム指導者に関するデータ 3−1−1で述べた大会に集まった各コーチ・教授から3−1−2のデータを受け取り、その際コーチ・教授へのヒアリング調査を実施する。内容は大まかにC国際大会に向けて特に指導していることはなにか、D担当するProgramの学生の履修前と履修後で変化すると思われる点は何処か の2点についてヒアリングを行い、分析・解析及びその後のトレーニング法提案の助けとする。 3−2 差異の検証 3−2−1 動作分析 視線・ジェスチャー・声量・声域・姿勢など討論中の動作には文化的特徴が顕著に現れるものが多い。本研究の一つの切り口は非言語情報の人間工学的分析にある。ここでは3−1−1@で入手したVTRを分析の対象として用いる。 3−2−2 議論構成分析 いま一つの切り口は言語情報の応用言語学的分析である。議論の構成を、各ステートメント区分が占める割合とステートメントの連関から分析する。こちらは3−1−1及び2のBで入手したスクリプトを分析の対象として用いる。 3−2−3 地域研究・比較文化研究との照合 上の2項目から確認された文化的差異が討論競技に限らず、外交交渉など一般の異文化間コミュニケーションの場面に当てはまるものであるかどうかを、地域研究・比較文化的分析により確認する。ここでは3-1-3で入手したヒアリング結果及び文献調査を用いる。 3−3 評価実験との照合 コミュニケーションには発信と受信の両側面がある。ここまでの弁者の帰属グループ(教育スタイル・文化・熟練度など)による差異の検討は、発信時の特徴は把握する。しかし情報を受容する際の特徴は把握できない。発信の特徴と受容の特徴に整合性があるかどうかを、聴衆に行う評価実験から確認することとする。これにより、コミュニケーション上の差異を両面から検証することとなる。この過程では、3−1−1及び2のAで入手したアンケートの回答を用いる。 |
研究計画(つづき) |
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4.スケジュール (@Australasian AIDEA BWUDC)
5.フィールドワーク 5−1 Australasian 6.研究成果 6−1 データの収集 6−1−1 国際大会におけるデータ 現在まで、幾つかの試合については既にVTRを入手している。但し、入手できるものが決勝トーナメントのVTRなどに限られてしまうため弁者の出身国や熟練度、言語圏、性別等に偏りが生じてしまっている。また、VTR撮影のアングルやカメラと弁者の距離が解析に適当でない場合も多い。本年は是非、実際に自分達でVTR撮影を行い、より解析に相応しいデータの補充を行いたい。 また、評価実験及びスクリプトの作成は本年度からの試みである。 6−1−2 教育プログラムの履修者に関するデータ 上記の通り、これまでに討論競技に参加している熟練弁者のデータは多く採取している。しかしそれだけでは文化的影響から生じる差異であるのか、または教育システムの影響から生じる差異であるのか判然としない。本年度は非熟練者のデータも積極的にとり、比較検討を行いたい。 6−1−3 教育プログラムの指導者に関するデータ 昨年のJapan-U.S. Exchange Debate TourにJapan National Debate Teamとして参加し、米国内16大学のディベート教育プログラムを訪問した。その結果米国内の教育プログラムの多様性と共に、国内の環境との差異を大きく感じるという新たな視点を得た。しかしながらいまだ科学的に扱えるデータは取得しておらず、是非本年データ化を試みたい。また、日米に限定せず東欧諸国の指導者が集うIDEAやアジア太平洋地域の指導者が集うAIDA(Australasian)におけるヒアリングも開始したい。 6−2 差異の検証 6−2−1 動作分析 昨年は視線の動きに注目し、弁者がアイコンタクトをして過ごす割合(アイコンタクト率)の差異について研究を行った。そこからアイコンタクト率は0%から100%までの極めて広い範囲に分布し、出身地域や討論技術教育が与える影響について確認した。これは既に研究結果として昨年の第1回議論学国際学術会議で「アイコンタクトの検証」と題して発表している。また、来る8月の第11回欧州眼球運動会議及び9月の第42回人間工学会にて更に詳細な解析についての発表が決っている。 このように現在まで眼球運動解析を中心とした研究を行ってきた。そこからこうした動作解析が、意思疎通を図る際の表現方法を分析する手段として有効であることが確認された。今後更に多角的な動作解析を行いたい。 6−2−2 議論構成分析 これまでのところ、戦前の御前会議のスクリプトを対象とした議論構成分析が行われている。今回は北海道大学の鈴木しのぶ氏考案の手法を用い、解析を行った。 表1のT「ステートメントの構造上の役割」:%(数)
表1のU「ステートメントを支持する手段」:%(数)
表2のT「結果としての構造」:出現頻度(1つの構造に対して提供される要素の平均数)
表2のU「過程としての構造」:%(出現回数)
6−2−3 地域研究・比較文化研究との照合 現在まで比較文化研究との照合は行われておらず、本年度は分野を越えたコラボレーションを行うことで多角的な検証を試みたい。 6−3 評価実験との照合 これも本年からの試みである。多地域の初心者・熟練者双方からの回答を得るためには国際的なコラボレーションが不可欠であり、実際に国際大会の場で各地のディベートコーチと共に活動する予定である。 7.成果の公開 今後成果は、2の目的の項でも触れた以下の3つの形で発表予定である。 1. 検証された異文化間差異についての学術的成果 (学会にて発表) これは、現在2002年夏のInternational Debate Education Associationの国際学会と、今春の人間工学会システム連合大会で発表の予定である。 2. 情報発信・受容特性モデル構築 こちらは現在までに解析済みである 3.交渉技術教育システムの提案 (雑誌「Debate Forum」にて発表) |