2001年度 森基金報告書 「初等中等教育における次世代インターネット環境活用モデルの構築」

2001年度 森泰吉郎記念研究振興基金 国際共同研究・フィールドワーク研究採択 研究報告書

初等中等教育における
次世代インターネット環境活用モデルの構築

モービル広域ネットワークプロジェクト
村井 純

1.研究背景

本研究では、近未来において全国の初等中等教育機関に 次世代インターネット環境が整備された状況を想定し、 実際の運用・利用を通じて、次世代の学習環境・学校生活に 必要なインターネット環境の利用モデルを、 学習環境に参加する構成員(生徒・教員・生徒の両親等)と共に構築する。

具体的な利用方法としては、e-friendsプロジェクトと協同で沖縄、 東京間の小学校に次世代インターネット環境を構築し、 リアルタイムによる動画利用と、WWWを利用した情報共有を用いる。 そのためにQoS制御とマルチキャストが可能なネットワークを構築する。 また、WWWを利用した協調学習支援ソフトウェアを作成し、 実際の学校生活で活用する。これらの実践を通じた運用を行う事で、 提案した次世代インターネット利用モデルの有効性を実証する。

2.本年度研究概要

本研究の今年度活動は、以下の3点に集約される。
構築基盤の整備拡充及び安定運用

本研究では近い将来教育現場にも浸透するインターネット技術を先行的に導入し、運用している。 整備された環境の普及を念頭に入れ、基盤技術者が安定した接続性を継続的に提供するためには、 実務知識の蓄積、及び問題発生時の対処法及び問題発生原因の分析軽減が必要となる。 本稿では本年度発生した障害を検討し、その対処方法について述べる。

初等教育における動画を用いた総合学習

次世代の高速インターネット環境では、 全てのメディアをリアルタイムに双方向性を持って利用できる。 最も特徴的な利用方法は動画会議である。
 今後、低費用で実時間性がある動画送信を行える環境が 普及した際、授業において動画を用いた遠隔授業をどのように構成し、 効果を上げるかについて検討する必要がある。
 そこで、「マメdeがんす」プロジェクト〜広島地域の学校における高度マルチメディア通信に関する研究プロジェクト〜 の協力を得て広島市立可部小学校と沖縄県島尻郡座間味村立阿嘉小学校での交流を含む授業実践を行った。

WWWを用いた相互採点環境のプロトタイプ開発

本研究では、「生徒によるアウトプットの相互採点手法」を提案し、 WWWブラウザ上で生徒達が互いの生成物を評価し合うシステムを構築した。 本年度は、初等中等教育へ適用する予備実験として大学授業における実践を行った。  現在、インターネットは家庭や学校において常時利用可能になっており、 このような新しい学習方法が比較的簡単に実現でき、 学習効果を高められると考えられる。

3.研究活動

A.構築基盤の整備拡充及び安定運用
前年度までの活動によって、無線LANを用いた沖縄県那覇市JGN-NOCから 上間小学校、嘉芸小学校への専用線が敷設された他、 座間味島までの専用線が敷設され、阿嘉島へIEEE802.11規格の 無線ブリッジ、無線ルータを利用してインターネット接続環境を提供している。
図1:本研究におけるマルチキャストネットワークトポロジ

図1:本研究におけるマルチキャストネットワークトポロジ概要(森基金申請書より引用)

しかし、台風16号及びの21号が通過に伴い、下図に示すような部分において無線機器設備の異常が原因と見られる無線機器の断線が生じた。

図2:ネットワークトポロジ内の問題発生部

図2:ネットワークトポロジ内の問題発生部

そこで、下図のように機器の変更を行い、設定する事で対処した。

図3:解決後のネットワークトポロジ

図3:解決後のネットワークトポロジ

また、東京<-> 沖縄間(図3の中におけるu-tokyo<->Cisco4000(Naha CRL)とある部分)の接続性に不具合が生じた。 この点については、Cisco4000で使用していた従来利用していた ATM カードと T1 カードを活用しながら CPU ボードと BRIカードを交換して通信環境の改善を図った。その結果、遠隔地からのreloadを行う事ができる環境が整うと同時に、 動画アプリケーションの利用においても環境の改善が期待される。

B.遠隔交流の実践

前述のように、双方向接続環境が実現した環境における授業カリキュラムをどのように構成していくかについて検討する必要がある。 そこで、本研究では、 特定非営利活動法人 中国・四国インターネット協議会(CSI) 運営委員会が主催する 「マメdeがんす」プロジェクト〜広島地域の学校における高度マルチメディア通信に関する研究プロジェクト〜の協力を得て 広島市立可部小学校と沖縄県島尻郡座間味村立阿嘉小学校を結ぶ授業実践を行った。

実践の様子

 ■第1回■(2002/02/08)

第1回のネットミーティングを用いた交流では、映像が可部小学校から阿嘉小学校への一方向へしか流れない 状態でのものであった。しかし、以下の授業後の感想から充実感のある交流が行われたことが伺える。

当日スケジュール

10:50 つながったときの最初のあいさつ
可部小の子どもたちのあいさつ
阿嘉小のこどもたちのあいさつ
11:00可部小の子どもたちから、学校などの紹介
阿嘉小のこどもたちから、質問、感想など
11:20阿嘉小のこどもたちから・・・
可部小の子どもたちから、質問、感想など
11:30さようならのあいさつ



教室スナップショット画像

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交流 ネットミーティングログ
可部小学校 (広島)02/02/0810:56:55こんにちは
阿嘉小学校02/02/0810:57:21こんにちわ
可部小学校 (広島)02/02/0810:59:50可部小学校です、あか小学校のみなさん、おはようございます
阿嘉小学校02/02/0811:01:01こんにちは阿嘉小学校です!!
可部小学校 (広島)02/02/0811:02:14今、可部小学校は、晴れています。気温はマイナス2度です
阿嘉小学校02/02/0811:03:11よろしくおねがいします。
阿嘉小学校02/02/0811:05:53さむいですね。こっちは、はんそで ですごせます。
可部小学校 (広島)02/02/0811:07:20私のおばあちゃんは沖縄にすんでいます。
阿嘉小学校02/02/0811:07:25雪はふってますか? 雪が見たいです。
阿嘉小学校02/02/0811:09:20じゃあ沖縄に来た事ありますか。
可部小学校 (広島)02/02/0811:09:35ざんねんですが、雪はふっていません。
可部小学校 (広島)02/02/0811:11:41夏休みに、沖縄にいったことがあります。
阿嘉小学校02/02/0811:13:01沖縄は17度ぐらいあります。運動するとすぐあせがでます。
阿嘉小学校02/02/0811:13:50野球好き
可部小学校 (広島)02/02/0811:14:51けんだまを、するので、見てください。
阿嘉小学校02/02/0811:15:20さっきはとちゅうできれてすみません
可部小学校 (広島)02/02/0811:17:05けんだまみましたか。
阿嘉小学校02/02/0811:18:11すごいですね。けんだまじょうずですね。
阿嘉小学校02/02/0811:20:16一クラス何人いますか。
阿嘉小学校02/02/0811:22:21がっこうは新しいですか。
可部小学校 (広島)02/02/0811:22:28可部小学校は、理科室と、音楽室が、2つあります。ひとクラス約40人います。
可部小学校 (広島)02/02/0811:24:06学校は、けっこう古いです。
阿嘉小学校02/02/0811:25:12給食は、おいしいですか。
可部小学校 (広島)02/02/0811:26:24野球は、カ−プが好きです。給食は、おいしいです。
阿嘉小学校02/02/0811:29:25阿嘉小学校は、去年100周年をむかえました。
可部小学校 (広島)02/02/0811:31:01今日は、ありがとうございました。もう時間が、来たので、終わりたいとおもいます。
阿嘉小学校02/02/0811:32:25ありがとうございました。

生徒による授業感想
阿嘉小学校側
  • 広島からの映像はこま落としで何とかみることができた。
  • 音声は届かなかったので、チャットで補完した。
  • 黒い制服を着た児童にびっくり。
  • 気温-2度にびっくり。
  • 児童も喜び、もっとやりたかったという声が圧倒的。
可部小学校側
  • 広島側のアクセス制限の設定解除忘れで、阿嘉小学校からの映像が送信されず。
  • 映像が届いていることを知り、大騒ぎだった。
  • 初めてのチャットが印象深かった。
  • 次回はぜひ映像と音声付でやりたい。

 

■第2回■(2002/02/11)

第2回交流では、フィルタリングの設定を改善する事で通信に関する問題は無く交流を行う事ができた。
 交流で使用したネットミーティングの映像品質は、 スローな動きであれば相手の顔の表情を認識できた。 音声のエコーキャンセリングは、Netmeeting側のマイク、スピーカーのミュート機能を手動で行うことで制御した。音声の聞き取りずらい 場面では、チャットを並行して利用する事で意思の疎通を図ったが、教室に1台のPCで教室全体に声を流しながら授業を行う場合、 エコーキャンセリングの制御が大きな負荷となるため、改善手法を検討する必要がある

当日スケジュール

阿嘉小学校の参加: 4年生6名
可部小学校の参加: 4年生40名(4年1組)
 1:両校の挨拶
 2:学校紹介(可部小から雪のビデオを沖縄に送信)
 3:可部小→阿嘉小へのクイズ(広島の名産や方言等)
 4:阿嘉小→可部小へのクイズ(沖縄の名産や方言等)
 5:ミルクムナリの踊り披露(可部小→阿嘉小)
 6:終わりの挨拶


NetMeeting画面スクリーンショット

教室スナップショット画像

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C.WWWを用いた相互採点環境のプロトタイプ開発
 

通常、生徒が授業において生成した成果物は「採点の評価対象」としての評価が一般的であり、 成果そのものを教材に利用する事は無い。 本研究では、WWWとMAILを利用して教員による課題の設定、生徒による課題の提出、 教員による相互採点の生徒への提示、生徒による相互採点の一連の流れを実現するWWWアプリケーションを作成した。

これにより、オンライン上に提出した成果を相互に採点する事で、 これまで教員からのみ行われていた採点行為を生徒間で行い、 成果を出した者に近い視点から深く検討された結果を見る事で振り返りの機会を提供する。 また、本システムにより、最終的に成績をつける教員は採点基準として「成果」の他に「他者への採点方針とその結果」を用いる事ができる。

本年度は初等中等教育での実験は行わず、慶應義塾大学SFCでの授業 「21世紀に向けての企業の挑戦」で提出される全10回の課題のうち、第7,8,9回の課題において、 相互採点システムを用いた実験を行った。

システム概要
生徒側
1.まず、生徒は提出された課題の提出を行う。提出方法に関する説明書きについては、 こちらにあるので参照されたい。なお、ブラウザはInternetExplorer4以上のみの 対応となっている。
2.教員側「7.」で依頼されたメールに記載されたURLをクリックする事で、採点対象となる課題と、採点フォームがブラウザ上に表示される。
2.教員側「9.」で送信されたメールに記載されたURLをクリックする事で、採点結果を閲覧する事ができる。
教員側
1.教員は課題をブラウザ上で設定する。なお、提出期限が切れた課題は提出する事ができないようになっている。
2.各課題ごとに提出状況を確認する。
3.提出状況をこちらから確認できる。
4.課題内容を表示する。
5.各課題ごとに5段階の採点基準項目を用意する。
6.提出されたレポートを相互に採点するための依頼用メールの文面を作成する。
7.採点の文面を送信する。なお、提出者同士が採点を行うが、採点者、被採点者は必ずしもペアとはならない。
8.生徒に採点された結果の送信を行う際の文面を作成する。
9.生徒に採点された結果の送信を行う。

このシステムの実装・運用を行うことで、以下のような環境が実現できた。 なお、本システムの改善点としては以下のものがあげられる。

4.その他の活動

しし座流星群沖縄観測点の提供
去る2001年11月18日に迎えられたしし座流星群のライブ観測をLive! Leonids 2001 を行った。その際、座間味島の座間味小中学校が沖縄の観測点となり、ネットワークの提供を行った。プロジェクト詳細については上記リンクを 参照されたい。

5.今後の展開

本研究は来年度から以下の方針で活動を行う。

参考文献/共同研究者/関連プロジェクト

(資料の性質上、一部公開に制限を加えられている場合も有る。)

謝辞

本報告書の執筆にあたり、多大なご協力を頂きましたe-friends,MAMEdeGansu両プロジェクト諸氏に感謝致します。
特に、執筆にあたり非常に有用な資料を提供して頂きましたMAMEdeGansuプロジェクト広島市立大学 前田香織氏に感謝致します。