2001年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金研究報告書

マルチエージェントによる災害避難行動モデルの開発

政策メディア研究科 博士課程
藤岡 正樹

 

大規模災害は都市に壊滅的な打撃をあたえる。本研究では災害対策(避難、救助支援)をおこなう上で重要となるのは、正確な被災・避難状況を予測し適切な対処方法を導き出すシミュレーション技術あると考える。災害発生時、人間は多種多様で複雑な行動をとる。その個々の特性に応じた避難時の思考状態、意思決定、行動パターンを分析する事で、コンピュータ上で被災者自身の振る舞いをする「エージェント」を定義する。また、これらの「エージェント」が相互作用する事で形成される仮想空間「マルチエージェント環境」を開発し様々なCASEを想定した災害避難行動シミュレーションを行う。ミュレーション結果を災害対策、避難教育、都市防災計画へフィードバックする事で、都市におけるより安全な生活環境の創造を目指す。

  • 江の島津波を想定した。CASEモデルの開発

避難の中でも特に行動のパターンが単純でる「津波」を開発モデルに選択し、調査研究を行った。2001年7月31に開催された、藤沢市の津波避難訓練において、海岸周辺の観光客を対象にアンケート調査をおこない、これらのデータをもとに、避難時の行動特性を分析し、同時エージェント数10000で稼動するシミュレーションの構築をおこなった。

・シミュレーション結果

藤沢市は万が一津波が発生した場合、近隣の構造物に避難できるスペースを「津波避難所」として指定している。本研究におけるシミュレーションCASE設定において、「津波避難所」をコントロールすることで、安全に避難できる避難者の総数を制御する事を試みた。シュミレーション結果より、地震発生から津波到着にまで十分に猶予時間がある場合、避難所への避難を規制し海岸より遠い所に誘導する事で、結果として安全避難率の向上につながる事が分かった。

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・研究成果及び今後の課題

本研究では、都市・社会構造を構成する最小単位であるエージェントを定義し、マルチエージェント環境での災害避難シミュレーションの実現を目指し実験をおこなった。本研究の結果は災害避難行動にとって価値ある情報となった。さらに、分析・改良を重ね、様々な災害に対応できるモデルを構築する事で、災害発生時の避難対応メカニズムの解明に貢献して行きたい。

  • 研究発表

研究について、下記のように発表を行った。

2001/5/1 6th Inter-University on Asia Megacity(台湾)

2001/10/9 SeoulSim2001(ソウル)