2001年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

 

動画像認識を用いたリハビリテーション支援システムの構築

博士課程2年 吉池紀子

 

1.       はじめに

人口の高齢化が進むにつれ、高齢者介護サービスへの需要が高まると共に、障害を持つ高齢者の健康維持、回復をさせるリハビリテーションに対する期待も高まっている。しかしながら現状では、リハビリテーションを行う理学療法士の人的資源の問題が深刻である。一般病院と特別養護老人ホームとの中間に位置する性格を持つ老人健康施設においては、リハビリテーションを行い日常生活への復帰を促すことを施設の目的としているが、理学療法士不在の施設も多く存在する。このような背景の中で、老人健康施設湘南の丘では理学療法士滝沢恭子を中心とした新しいリハビリテーションプログラムを実施している。「創動運動」と名づけられたこのプログラムでは、少人数の理学療法士が一日30〜40人の多人数の患者に対して訓練指導を行う。運動器具を使って自ら訓練を行う一連のプログラムは、寝たきり老人の内30%近くの患者を歩行再獲得に導くという実績をあげている。本研究ではこの創動運動を一般的に普及させるため、理学療法士の指導方法を動画像認識技術を用いて定量化することを目的としている。

 

2.       動画像認識手法

2.1.            システムの流れ

本研究で提案するシステム全体の流れ図を図1に示す。

図1システムの流れ

 以下にカメラからの多視点の動画像取得方法と人物抽出・分析対象点抽出手法に関して詳しく述べる。

 

2.2.            多視点の動画像取得方法

 複数のカメラから取得した画像を4分割ユニットを用いて統合する。取得する映像は人物の正面と片側側面から固定三脚の上で撮影している。現在は撮影用にビデオカメラ2台を用いているが、図2に示すように熱赤外カメラを用いることも可能である。

 

 

図2 多視点画像の取得方法

 

2.3.            人物抽出・動作部位抽出手法

 

 人物の動作部位を抽出する段階では、図3に示す8点を特定することを目的とする。

図3 抽出する動作部位

 

 動作部位を特定する前処理として動きのある領域を特定することで人物の検出とする。動きのある領域の特定には、差分フィルタとモーフォロジカルフィルタを組み合わせたものを使う。図4参照。

 

図4 フィルタを使った人物検出

 

 さらに抽出された人物領域をセグメント化することで動作部位ごとに分解する。人物領域のセグメント化にはKohonen型の自己組織化によるクラスタリングを行う。動作部位ごとにセグメント化する際に、それぞれの動作部位は短い時間窓の中で色と映像上の位置がほぼ一定であるという仮説を立てた。この仮説をもとに、時間窓ごとにr(red),g(green),b(blue),x(x座標),y(y座標)の5次元ベクトルデータのクラスタリングを行う。クラスタリングに用いるベクトルデータはフィルタリングによって抽出された点のみを対象とする。クラスタリングによって代表ベクトルの点が定まった後、クラスタリングを画像全体に反映することで動作部位がセグメント化されているか否かを検証する。

 

3.      実験結果

平行棒内で歩行をする被験者を対象にクラスタリングを行った。時間窓は20フレーム、代表ベクトルの数は20個とした。複数の時間窓内でそれぞれ代表ベクトルを作成し、画像全体に反映させた結果を図5に示す。ある動作部位と判定された点が同じ色で塗りつぶされている。

 

 

 

図5 動作部位の特定結果

 

4.      考察と今後の課題

実験結果から、塗りつぶされている点はほぼ被験者の動作部品をセグメント化しており、多少のノイズはあるが、被験者以外の特徴のある背景画像の多くを無視することに成功していることがわかる。これは、差分フィルタによって抽出された点のみをクラスタリングの入力ベクトルとしたことの効果であると考えられる。しかしながら差分情報と動き情報には違いがあり、ここでは差分情報に着目しているため、照明による差分情報によるノイズが人物領域と同様に検出されている。このように検出された照明ノイズは動作パターンに着目することによって取り除くべきである。また、差分フィルタを使ったことにより、ある時間窓では動きの少なかった動作部品が検出されないという問題もある。さらに、時間窓ごとに抽出された代表点同士を統合化する必要性も残っている。これらの問題を解決するために、今後は人の形に制約付けられたクラスタリングを提案したい。時間窓ごとに連続性を持った制約付けを行うことで、ノイズ動作の検出、動作部品の未検出の問題を防ぎながらそれぞれの時間窓ごとの代表点の統合化を行う事を目的とする。さらに、多視点情報の統合を行うことで一連の動作データの抽出が可能になる。今年度、「創動運動」のリハビリテーションプログラム中の被験者のデータを取得済みであるので、来年度はこれらのデータから一連の動作データの抽出を行い、定量化することが目標である。