政策メディア研究科 修士二年 バイオインフォマティクスプログラム
80032406 山下智也
2001年度 森泰吉郎記念研究振興基金 報告書
 
研究テーマ 「病原性、産業的有用生物の解析と汎用生物ツールの開発」
 
研究内容
 
  1. 研究目的
 研究の大きな目的としては「新たな生命現象の解明」が挙げられる。コンピュータを用い、大量かつ網羅的な解析を行うことによって、実験系では不可能な部位において新たな傾向を導き出す。特に今年度は、「産業的有用生物」「病原性細菌」のコンピュータ解析を行った。
この研究対象のうち本報告書においては、「産業有用生物」の解析結果について報告したい。
  1. 研究対象
  1. 産業有用生物
産業有用生物とは、二つの生物を指す。1つはササニシキ、コシヒカリなどでよく知られている「イネ」を扱う。そして、2つ目は「好熱性細菌」を扱う。好熱性細菌とは、摂氏75度以上で生育可能なバクテリアの総称である。独自の耐熱性によって、そのメカニズムの解明が即産業的に応用可能であるため、近年大変注目されている生物である。
イネに関しては、cDNAという細切れの遺伝子データを扱い研究を行う。イネの非コード領域(遺伝子で無い部分)の配列情報には、他の遺伝子を操作するシグナル配列が多く含まれていると言われている。その特異的な部位を集中して解析を行う。
好熱性細菌に関しては、既にこれまでアミノ酸、タンパク質をベースに解析を行ってきた。非常に高い温度で生育可能である「好熱性細菌」と50度以下の温度で生育する大腸菌などの「常温菌」との間には、アミノ酸の組成比に顕著な差が見られている。多くのアミノ酸が繋がる事によって、様々なタンパク質が構成されることを鑑みると、アミノ酸の違いが、そのまま高次構造であるタンパク質に関与し、熱耐性の違いをもたらせていると考えている。私が導き出した仮説を様々な手法を用い、解析し、結果を再検討、その後結果をまとめる。
  1. 解析結果
前置きとして、
これから研究結果を紹介することになるが、両解析結果に関して
現在論文を執筆中である。
そのため、必要最低限のデータしか載せられないという事情をご了承いただきたい。
両論文とも今年度中の投稿と来年度中の論文掲載を目指している。
 
イネの完全長cDNAデータと公開されているイネゲノム配列(日本米、ジャポニカ種とインディカ   米)を用いて、転写開始点の同定を試みた。
その結果、転写開始点が単数のものと複数あるものを同定することに成功した。
下の図は転写開始点が単数のものの例である。
転写開始点が単数のもの、複数のものの中から特に興味深い転写開始パターンを持つ
遺伝子をを独自の指標により抽出し、機能との相関を見た。
その結果については、現在、共同研究者とともに論文を作成中であり、
来年度春学期中のジャーナル掲載を目指している。
 
rice.png
 
本研究は「好熱性細菌の耐熱性メカニズムの解明」を目的としている。
アプローチ方法としては、アミノ酸組成比、アミノ酸置換傾向、蛋白質の二次構造などに着目し解析を行う。
主として扱ったデータは既にftp.genome.ad.jp/pub/db/ncbi/genbank上などで公開されている
バクテリアのコンプリートゲノムを用いた。
中でも摂氏55℃以上で生育可能である好熱性細菌について研究を行った。
好熱性細菌の多くは古細菌から構成されており、好熱性細菌との比較対象には
40℃以下を至適温度とする常温菌を設定した。
 結果としては、アミノ酸組成比、アミノ酸置換傾向から好熱菌が好んでもつと
思われるアミノ酸があることが分かった。
我々はバイオインフォマティクスによって同定された顕著なアミノ酸置換傾向を利用して、
実験に結びつけようと考えた。
そこで、モデル生物種として100℃付近を至適生育温度とするPyrococucs furiosusを選び、
中でも実験系のシステムが最も整っているRNaseH遺伝子中の耐熱性に関わっているであろ
うアミノ酸を同定することを試みた。5つのフィルタを設置し、その条件を全て満たした候補を
10個抽出した。それら10個のアミノ酸に関して、Site Directed Mutagenesis Methodという
ミュータント生成法を使用し、耐熱性に関与していそうなアミノ酸
(10 Amino acids possibly Involved  with Thermostability)のシングルミューテーションを行い、
耐熱性が失われるかどうかを検証した。
(下図はミューテーション実験に用いたたんぱく質の立体構造を示している。)
ミューテーション実験に成功したものは全AIT中3箇所であり、それらの耐熱性失活を
確かめたところ、いずれの変異株においても耐熱性が失われることは無かった。
しかしながら、この実験結果はバイオインフォマティクス的手法の再考を与えてくれる
非常に有用なものであり、期待する結果が出なかった原因を考察するとともに、
好熱性細菌の耐熱性メカニズムに関する議論を行った。
 
thermophile.png
 
  1. さいごに
まず、イネゲノム、好熱性細菌に関する研究結果は、双方ともに海外ジャーナル掲載を目指し、
論文を執筆中である。このような論文が製作できたことも、森基金をはじめとした
さまざまなサポートがあったためであると感謝にたえない。
この場を借りて関係者各位に感謝の意を表したいと思う。
 
  1. 研究実績
conference
○鹿島剛輝、山下智也、冨田勝「好熱性古細菌の耐熱性に関するアミノ酸残基の解析」
日本バイオインフォマティクス学会、バイオシミュレーション研究会 2001年 11月 鶴岡
 
○山下智也、鹿島剛輝、東憲児、鷲尾尊規 
「イネcDNAデータを用いた転写開始点とPolyAサイトの多様性解析」
第24回分子生物学会 2001年 12月 横浜
 
○Tomoya Yamashita,Goki Kashima,Kenji Higashi,Asako Sato,Akio Kanai,
”Analysis of amino acid substitution rate netween hyperthermophilic and mesophilic organisms using complete genome data” Dec 2001 Genome Informatics Workshop